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結婚しない若者たちはなぜ結婚しないのか?

ひとみしょう哲学者・作家・心理コーチ

結婚しない若者が増えたのは女性にその理由があるとする見方があるそうです。すなわち、自分より年収や学歴の高い男性に女性たちが大挙し、それ以外の男性には見向きもしないからだ、とある著者は語っています。無論、この見立てに反論したい女性もおられるでしょうけど、私自身に赤貧の経験があるからか、なぜかしっくりくる論なので、どこで読んだのかは忘れましたが、よく覚えています。

しかし、冷静に考えると、そういう傾向は昔からあるのであって、なにも今に始まったことではないでしょう。

さて、今回は哲学の見地から、結婚しない若者たちはなぜ結婚しないのかについて、一緒に見ていきたいと思います。

出口を知らない若者たち

結婚しない若者たちは自分の「外側」に出られないから、結婚しないのではなく、できないのだという仮説を、私は持っています。自分の外に出られない理由は親子関係にあります。

今や友だちのように仲のいい親子(主に母娘)は珍しくありません。そういう女子が時々、私のもとにカウンセリングに訪れます。彼女たちの特徴は、表面上はお母さんととても仲がいいというものです。つまり、心の奥底では近すぎる親子関係に生きづらさを感じている。

他方、母親はといえば、母親がカウンセリングに来ることはまずありません。

したがって、さまざまな社会的事象や書物から推測するしかないのですが、簡単に言えば、親に病んでいるという自覚がないというのが、私の見立てです。極端な例を挙げるなら、親自身の夢を子に託すケース。子はそのことに生きづらさを感じるも、親になにも物申せない性格ゆえ、どんどん病んでいく。しかし母親は、子を「温かく見守る」のみ。こういうケースがあります。

自分の夢を過度に子に託す親は、それ自体で、すでに病んでいるわけですが、そのことに気づいていません。このことは、何人かの精神科医も書物の中で指摘しています。親子揃って心療内科に訪れるケースは決まって、「うちの子は病んでいる」と親が主張する。子は黙っている。しかし精神科医からすれば、子は全く病んでおらず、むしろは母親の方が病んでいるので、母親の治療をしたい。このようなことを書いておられるお医者を、浅学な私ですら、2人も知っています。

自分のいいところを必死に隠す若者たち

以上のことから、結婚しない若者たちはじつは、親との関係に苦慮している、すなわち自分と親という檻の外に出られない。だから結婚しないのではなく、できないのだ、ということが言えるように思います。

ちなみに私は、その檻から強制的に、勢いをつけて出ました。すなわち家出しました。その結果2回も結婚してしまいました。

哲学者の内田樹氏は、<哲学というのは「自分の手持ちの論理や今の世間の常識では語り得ないもの」について語る「自己超越」努力を要求します>と語ります。その言にしたがうなら、結婚できない若者は、自分と母親の「関係」という自分の「論理」や、世間の常識に縛られ、語り得ないものを語れない、かつ語れない自分を超えようと努力していない、あるいはどう努力すればいいのか分かっていないと言えます。

平たく言えば、結婚しない若者たちは自分のいいところを必死になって押し隠し、他者に合わせようと努力している。だから結婚しないし結婚できない。こういうことが言えるのではないかと思います。

哲学者・作家・心理コーチ

8歳から「なんか寂しいとは何か」について考えはじめる。独学で哲学することに限界を感じ、42歳で大学の哲学科に入学。キルケゴール哲学に出合い「なんか寂しいとは何か」という問いの答えを発見する。その結果、在学中に哲学エッセイ『自分を愛する方法』『希望を生みだす方法』(ともに玄文社)、小説『鈴虫』が出版された。46歳、特待生&首席で卒業。卒業後、中島義道先生主宰の「哲学塾カント」に入塾。キルケゴールなどの哲学を中島義道先生に、ジャック・ラカンとメルロー=ポンティの思想を福田肇先生に教わる(現在も教わっている)。いくつかの学会に所属。人見アカデミーと人見読解塾を主宰している。

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