記録的ブレイクのオリヴィア・ロドリゴが象徴する「女性シンガーソングライター躍進」の2021年
■デビュー曲が全米・全英8週連続1位。異例のヒットの理由は
オリヴィア・ロドリゴのデビュー曲「ドライヴァーズ・ライセンス」が世界中で異例のヒットを記録している。
1月8月にリリースされた同曲は、全米・全英シングルチャートで初登場1位を獲得。そこから2ヶ月以上にわたって首位をキープし、全米・全英で8週連続1位(2021年3月13日付)という記録を打ち立てた。
楽曲のセンセーションはリリースからすぐさま世界各国に広がった。Apple Musicのデイリーチャートでは48の国と地域、Spotifyのデイリーチャートでは31の国と地域で1位を獲得。その後も勢いは衰えることなく、Spotifyでは史上最速(62日)で5億再生を突破。アリアナ・グランデやエド・シーラン、ビリー・アイリッシュなど数々のスターを抜く偉業を達成した。
なぜ、彼女はここまでの人気を獲得したのか。
オリヴィア・ロドリゴは、カリフォルニア州出身の18歳。まず大きなポイントは、ブリトニー・スピアーズやマイリー・サイラス、セレーナ・ゴメスなどこれまでも多くのスターを世に送り出してきたディズニー・チャンネル出身ということだろう。2019年からディズニープラスで配信されているドラマ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』では主役をつとめ、卓越した歌唱力で高い評価を集めてきた。ドラマの挿入歌として書き下ろした楽曲「オール・アイ・ウォント」がTikTokでバズを巻き起こし、インスタグラムのフォロワー数も500万人を突破するなど、デビュー前からファンベースを築いてきた。
楽曲の魅力も大きい。「ドライヴァーズ・ライセンス」は、運転免許を取得したばかりの少女が郊外を車で走り、別れた恋人への思いを切々と歌う一曲。エモーショナルなメロディとドラマティックな曲調を持つ感動的なバラードだ。
■テイラー・スウィフトの功績
オリヴィア・ロドリゴはテイラー・スウィフトが憧れの存在であることを公言している。
そのテイラー・スウィフトの初期の作風にも通じるが、実話をベースにしているという歌詞の内容も特徴的だ。『ハイスクール・ミュージカル』で共演したジョシュア・バセットとの過去の恋愛関係を描いているのではないかとゴシップ的な話題も集めている。
先日公開されたインタビューでも「お気に入りのアルバムは?」という質問に、テイラー・スウィフトの昨年の新作『フォークロア』をあげ「あの作品を聴いて私のソングライティングと音楽は180度変わった」と語っている。
そして、テイラー・スウィフトも「ドライヴァーズ・ライセンス」のヒットに「さすが私のベイビー。本当に誇りに思う」とコメント。相思相愛の関係となっている。他にも、オリヴィア・ロドリゴは影響を受けた存在としてロードやホールジーなどをあげており、こうしたアーティストたちも彼女のデビュー曲を称賛している。
テイラー・スウィフトは、言うまでもなく今の時代を代表する女性シンガーソングライターだ。単なる人気やセールスだけでなく、私小説的なポップ・ソングというフィールドを開拓したデビューから、アルバムごとに意欲的に作風を変え、2010年代以降の女性シンガーソングライターの表現のあり方を更新してきた。
そうしたテイラー・スウィフトの功績、そしてポップでありつつ先鋭的な独自の音楽性を追求してきたロードやホールジーなどの女性シンガーソングライターが切り開いてきた道があったことが、オリヴィア・ロドリゴの異例の成功を準備したとも言えるだろう。
■テイト・マクレー、セレステ、アーロ・パークス……注目のニューカマーたち
他にも、新世代の女性アーティストが続々と登場し、脚光を浴びている。
カナダ出身、17歳のシンガーソングライター/ダンサー、テイト・マクレーも注目の存在だ。2020年1月にデビューEPをリリースした彼女は、同年4月に発表した「ユー・ブローク・ミー・ファースト」がロングヒット。
この曲の歌詞は、よりを戻そうと言ってくる不誠実な恋人に対して別れを告げる歌。ダークなサウンド、繊細な歌声には同世代のビリー・アイリッシュに通じるところもある。
ジャマイカ系イギリス人の女性シンガー、セレステも飛躍を果たそうとしている。
アレサ・フランクリンやエラ・フィッツジェラルドに影響を受け、表現力豊かな歌声でジャズやネオソウルの音楽性を追求する本格派の才能。一昨年には「ブリット・アワード」で批評家賞を受賞、昨年にはBBCが活躍を期待する新人アーティストを選ぶ「BBC Sound of 2020」で1位を獲得するなど高い評価を集めてきた。
2021年1月にリリースされたデビューアルバム『ノット・ユア・ミューズ』は全英アルバムチャート1位を獲得。アデルを彷彿とさせる「ストップ・ディス・フレイム」や、ノラ・ジョーンズにも通じるブルージーな「ストレンジ」など、良質なサウンドとエレガントなヴォーカルが評判を呼び、ヒットにつながっている。
昨年10月に公開されたNetflix映画『シカゴ7裁判』に提供した「ヒア・マイ・ヴォイス」は4月に開催される第93回アカデミー賞で歌曲賞へのノミネートが有力視されている。こちらも注目を集めそうだ。
ロンドンを拠点に活動する20歳の女性シンガーソングライター/詩人、アーロ・パークスのデビュー作『コラプスド・イン・サンビームズ』も評判を呼んでいる。
ナイジェリア、カナダ、フランスの血を引き、バイセクシュアルであることを公言している彼女。アルバムではR&Bのサウンドに乗せ、思索に富んだ内省的な歌が綴られる。グッチが制作した短編映画に出演するなどファッション方面からの引き合いも強い。
コロナ禍で世界的にもフェスやライブの開催が難しい時期が続く2021年。高い表現力を持つ実力派のニューカマーが20年代を担う存在としてクローズアップされていきそうだ。