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地域の子育ては地域が決める!いまこそ子育て対話を広げるべき

吉田大樹労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表
7月3日に東京で開催された「子ども・子育て支援新制度」普及・啓発人材育成研修会

新制度は市町村が実施主体

今年4月から始まった子ども・子育て支援新制度も開始から半年が経とうとしている。筆者自身、内閣府子ども・子育て委員として今年4月までの2年間、制度設計に関わり、この制度の重要性を認識している者としてもっと多くの人たちにこの制度の意義や内容を知ってもらうことがまだまだ必要ではないかと感じている。

新制度を車のエンジンに見立てると、ガソリン役を果たすのが消費税増税分の財源となる。社会保障の財源として、子ども・子育て予算に毎年7,000億円※が確保されているが、実はまだガソリンの量は満タンではない。会議で合意された制度をパッケージで実施しようとすると1兆円超の財源が必要となる。しかし、この財源については依然として確保できる見通しが立っておらず、それまでの間は7,000億円の財源でやりくりしなくてはならないことになる。

※ 2015年度の子ども・子育て予算は約5,000億円。7,000億円となるのは2017年度からとなる予定。

エンジンとガソリンは国から提供されることになるが、仕様やオプションについては、実施主体である市町村がその地域の実情に応じて決定することになっている。各市町村は、子育て世代へのニーズ調査を行い、その結果に基づき、地方版子ども・子育て会議において、市町村子ども・子育て支援事業計画(5カ年)を検討し、策定するという流れになっている。つまり、市町村の計画いかんによっては地域の子育ての環境を左右するものになると言っても過言ではない。

育休退園問題も新制度が始まったことによる事象

顕著な例で言えば、現在裁判にもなっている埼玉・所沢市で起きた育休退園の問題であろう。

筆者は制度を構築する過程において、内閣府子ども・子育て会議の場で、育休取得時の対応については上の子が継続して保育園に通うことができるようにしてほしいという旨の発言を行った。同様の要望が他の委員からもあったことから、保育所入所の判断となる「保育の必要性」の事由において、「育児休業取得時に、既に保育を利用している子どもがいて継続利用が必要であること」という規定が盛り込まれたという経緯がある。

個人的な思いとしては、育休を取得したとしても子どもが継続して通える環境を確保することは子どもの安定的な成長を確保し、親が生まれてきた子に集中してもらうためにも継続利用は認めるべきものだと考えている。

しかし、育休退園問題が明るみとなってから初めて開催された所沢市子ども・子育て会議(7月24日)の議事録をみると、育休退園を主張する委員もいて、委員すべてが継続利用を支持しているわけではないというのがわかる。今後の裁判の行方によっては、所沢市の措置が違法だとされる可能性もあるが、市町村が主体者だからこそ、こういう事象が起こり得るということになる。

市民が対話をする場とそれを支える人材の育成が必要

こうした問題をクリアにしていくためには、地方版子ども・子育て会議において「わがまち」の子育てについてしっかりと議論していくことが必要であり、この会議が市町村の施策を左右する極めて重要な場であるということを知ってもらいたい。多くの地方版会議において、委員の任期(2年)がこの夏から秋にかけて切れるものと考えられることから、市町村の広報誌などに会議の委員の公募案内が掲載されている場合がある。是非、興味関心がある方は手を挙げていただきたい。

また、地方版の会議だけではなく、市民の声が適切に反映していく場を構築していくことも必要となる。

そこで、地域において子ども・子育て支援新制度の意義や内容を理解し、それを支えていく人材をいかに養成していくかということが極めて重要となってくる。行政の一方的な説明だけでは理解は進まないであろう。もちろん制度を理解するための説明会というのはあってしかるべきだが、それだけで終わらせるのではなく、地域の子育て支援者や子育て世代、またそれ以外の子育てに関係する様々な人たちが集まり、子育ての対話する場所がいま求められるのではないかと考えている。

こうした対話の場は黙っていて勝手に起こるものではなく、行政や子育て支援者などが連携をしながら進めていくことが必要となる。現在、内閣府では今年度の事業として、≪「子ども・子育て支援新制度」普及・啓発人材育成研修会≫を全国8カ所で開催中だ。筆者もこの研修会事業の企画委員として参画している。

内容としては、新制度の理解だけではなく、地域に持ち帰ったときにどのように対話の場をセッティングするのかや、子育てを通したまちづくりをどう考えていくのかなど、グループワークも取り入れたものとなっている。行政からの参加者の中には、4月の異動で子育て支援部署に初めて回され、新制度の理解を深めるために参加しているというケースが多いが、地方版子ども・子育て会議の委員や、子育て支援者なども参加できる。様々な立場の人たちが集まることで相互理解が深まっていくものと考える。

こうした対話の場を増やしていくことで、世代や地域の子育てギャップを埋め、まち全体として子育てを盛り上げていこうという前向き雰囲気を醸成するのではないかと考える。是非、関心がある方は参加していただきたい。

今後の開催予定地は以下のとおり。

○札 幌 2015/9/11(金) 

○福 岡 2015/10/2(金) 

○広 島 2015/10/16(金) 

○仙 台 2015/11/6(金)

○高 松 2015/11/27(金) 

○名古屋 2016/1/15(金) 

詳しくはこちらまで。

労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表

1977年7月東京生まれ。03年3月日大院修士課程修了(政治学修士)。労働専門誌の記者、父親支援団体代表を経て、16年3月NPO法人グリーンパパプロジェクトを設立。これまで内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚労省「イクメンプロジェクト推進委員会」委員を歴任。現在、こども家庭庁「幼児期までのこどもの育ち部会」委員、「こどもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。設立したNPOで放課後児童クラブを運営。3児のシングルファーザー。小中高のPTA会長を経験し、現在鴻巣市PTA連合会前会長(顧問)。著書「パパの働き方が社会を変える!」(労働調査会)。

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