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2014年のロシア軍-1 プーチン大統領の演説に見るロシアの国防政策とその優先課題

小泉悠安全保障アナリスト

2014年12月19日、定例の国防省拡大幹部会議が国防省で実施された。

今年は新たにオープンした国家国防司令センター(NTsOU)が初めて会場となった。

国防省拡大幹部会議の会場となった国家国防司令センター(NTsUO)
国防省拡大幹部会議の会場となった国家国防司令センター(NTsUO)

同会議におけるプーチン大統領の演説は、大統領府のホームページに掲載されているが、中でも興味深い点は次の通りである。

  • 我々を取り巻く環境は厳しい。米国のミサイル防衛網が建設され、東欧を中心とする欧州でNATOの活動が活発化している
  • このような状況下においてもロシアの軍事ドクトリンは防衛的性格を保持する。しかし、自国の安全保障を確保するために結果的に厳しい姿勢を撮らざるを得ない。
  • クリミア危機における軍指導部及び現場の部隊の働きに対して感謝する。
  • ロシア軍は変わった。新たな輪郭へと移行し、近代的になり、最も困難かつ責任ある任務を遂行できるようになった。それは抜き打ち検閲の結果及び「ヴォストーク2014」を含む3500回の訓練・演習の結果から明らかである。
  • 国家国防発注はほぼ完璧に遂行された。
  • 軍の質的な発展に伴い、軍で勤務することの権威が高まっている。
  • 契約軍人は7万5000人増加した。
  • 軍で契約軍人として勤務することは真に競争力(魅力)を持つようになった。2014年時点において、契約軍人の3分の2は中等または高等教育を受けている。
  • 軍にはさらなる発展が必要である。国家国防発注及び幾つかの国家プログラムを実現せねばならない。
  • 第1に、2016-2020年までの国防計画を策定することであり、2015年12月に(大統領の)承認を受けることになっている。国防法改正、軍事ドクトリン改訂といった2014年中の動きと、2014年11月26日の決定に基づき、国防政策の枠組みは短期・中期・長期の計画によって構成されることとなった。
  • 第2は戦略核戦力の全構成要素の発展である。これはグローバルな対等性を得るための最重要のファクターであり、ロシアに対する大規模侵略を不可能とする実際的な能力である。2015年は大陸間弾道ミサイル(訳註:ICBMとSLBM合計)を50基以上配備するとともに、戦略爆撃機の近代化を継続し、弾道ミサイル原潜ウラジミール・モノマーフとアレクサンドル・ネフスキーを戦闘当直に就ける。
  • 中期的には地上配備型核兵器は完全に新兵器へと更新し、Tu-160及びTu-95MS戦略爆撃機は全機近代化する。さらに新世代戦略爆撃機が開発される。
  • 第3に、2015年中に航空宇宙軍の創設を完了せねばならない。この新たな軍種により、航空機コンプレクス、ロケット・宇宙アセット、防空アセットを統一的に運用し、ロシア上空の航空宇宙空間の防御レベルを向上させることができる。
  • 第4に、戦略的重要地域の防衛を質的に向上させる。その対象となるのは北極その他の地域である。12月15日、北方艦隊を基盤として統合戦略コマンドが設置された。来年はノーヴァヤ・ゼムリャー島、コテリヌィ島、ウランゲリ島及びシュミット岬で軍事インフラの建設が完了する。
  • 北極で軍事化を求めているわけではない。北極におけるロシアの行動は抑制的かつ規模の面でも穏当なものであり、ロシアの防衛能力を確保する上で絶対に必要なものに限られている。
  • 第5に、高度な常時戦闘準備態勢を保つため、抜き打ち検閲を継続する。来年は全軍管区の全軍種・兵科、関連する連邦機関及び地域機関において抜き打ち検閲を実施する。

本稿はWorld Security IntelligenceのWSI DAILY 2014/12/22に掲載された記事を2回に分けて転載した記事の第1回です。

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安全保障アナリスト

早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員、国会図書館調査員、未来工学研究所研究員などを経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。主著に『現代ロシアの軍事戦略』(筑摩書房)、『帝国ロシアの地政学』(東京堂出版)、『軍事大国ロシア』(作品社)がある。

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