「匂いだけかがせる拷問」も…北朝鮮刑務所で虐待横行
北朝鮮・平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、新義州(シニジュ)市に住んでいた40代女性のチェさんは、麻薬密売の容疑で2019年に逮捕された。故金正日総書記の指示で、海外輸出用に製造された覚せい剤が、横流しにより国内に流入、薬の代用として使われるなど、多くの被害者を生んでいる。
チェさんは7年の労働教化刑(懲役刑)の判決を受け、教化所(刑務所)に収監されたが、昨年、病気のため仮釈放された。ところが彼女は、社会安全省(警察庁)が病気で仮釈放された者を再度収監しているとの話を耳にした。チェさんは圧迫感と不安感に耐えかね、自ら命を絶ってしまった。
教化所に入った人々は「あそこで人の命はハエより軽い」「死んだほうがマシだと毎日数百、数千回考える」(情報筋)というほど、ひどい扱いを受ける。劣悪な衛生状態と貧弱な食事、看守の暴言、暴行、恣意的な処刑など、様々な人権侵害が横行している。
ある教化所では、飢えている収監者に食べ物を与えず、においだけをかがせるという拷問まで行われていたという。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
家族からの食事の差し入れがあれば、なんとか栄養失調を免れられるが、家族のいない人は餓死するしかない。そんな環境に耐えかねて、看守や教化所の幹部にワイロを渡し、病気になったことにして仮釈放にしてもらうケースもある。チェさんもそうして仮釈放されていた可能性がある。
別の情報筋は先月、社会安全省が全国の安全局(県警本部)に、病気で仮釈放した者を、健康上の問題があっても、再度収監せよとの指示を下している。これは米韓合同軍事演習の実施により、情勢が不安定化することを警戒した北朝鮮当局が、国民の緊張感を高める目的で行っているものと思われる。
北朝鮮における受刑者の扱いがどういうものであるかは、情報筋の次の言葉に集約されていると言っても過言ではないだろう。
「ここ(北朝鮮)では、犯罪者が最も危険な不純分子と認識されているため、戦争が起これば、まず初めに彼らから処理するという話がある」
朝鮮戦争の勃発後の1950年9月、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は大田(テジョン)、全州(チョンジュ)刑務所の受刑者や右翼関係者を不純分子として殺害するなど、数多くの戦争犯罪を犯しているが、70年以上経っても、基本的な考えは変わっていないようだ。
ただでさえ、世界最悪の人権侵害国家と呼ばれる北朝鮮の中でも、さらにひどいのが教化所だ。教化所に戻るのは嫌だ、どうせ行っても死ぬだけだと自ら死を選ぶ人もいるのだ。それでも教化所は、管理所(政治犯収容所)に比べればまだマシな方だとされる。北朝鮮の人権侵害は底なし沼だ。
国連の被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラルール)は、すべての被拘禁者は人間としての生まれながらの尊厳と価値に対する尊重を持って処遇されなければならず、拷問などの残虐、非人道的な行為などは行われてはならず、清潔が保たれ、医療や食事が適切に提供されなければならないなどと定めている。