ホロコースト生存者の経験を友人が伝えるドキュメンタリーアニメ「シムカの物語」ヤド・ヴァシェム公開
第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。イスラエルにはホロコースト犠牲者を追悼したヤド・ヴァシェムという博物館がある。
ヤド・ヴァシェムは2022年1月に「The Story of Simcha - the story of Holocaust survivor Simcha Holzberg」(「ホロコースト生存者シムカ・ホルツベルグの物語」)というドキュメンタリーアニメを公開した。
このアニメはホロコースト生存者で1994年に亡くなったシムカ・ホルツベルグ氏の友人とその孫が登場して物語が始まる。友人だったシムカ氏の話をおじいちゃんが孫に聞かせて進めていく。
ワルシャワのユダヤ人だったシムカ氏がナチスドイツが侵攻してからゲットーに収容され、食糧も底をついて飢えていた時にチョコレートを貰ってきて、それを家族みんなで分けるというストーリー。ヤド・ヴァシェムが保管しているホロコースト時代のワルシャワゲットーの貴重な建物やユダヤ人らの写真も動画の中で多く使用されており、当時の様子が伝わってくる。
欧米やイスラエルではホロコースト教育が行われており、このドキュメンタリーアニメも子供向けのホロコースト教育に活用される。ヤド・ヴァシェムでは約480万人のホロコースト犠牲者のデータベースがあり、それらは世界中からネット経由で閲覧することもできる。約600万人のユダヤ人が殺害されたが、残りの120万人は名前が判明していない。第2次世界大戦が終結して70年以上が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んできた。生存者が心身ともに健康なうちにホロコースト時代の経験や記憶を証言として動画で録画してネットで世界中から視聴してもらう「記憶のデジタル化」が進められている。
このドキュメンタリーアニメも「記憶のデジタル化」によるホロコーストの歴史の継承の取組の1つだ。シムカ氏は戦後もイスラエルの活動家として積極的に行動して「傷ついた人たちのお父さん」という愛称で親しまれていた有名な方だが、このように動画にすることによって世界中のあらゆる人がアクセスして視聴して、シムカ氏のことを知ることができる。そしてドキュメンタリーアニメなのでホロコースト教育の教材にも活用されやすい。
シムカ氏は1994年に70歳で他界してしまった。当時は現在のように誰もが証言を動画で撮影して公開することは容易ではなかった。残されている写真なども限られている。そのためこのようなドキュメンタリーアニメという形でシムカ氏のホロコーストの経験を、彼の友人が孫とともに伝えている。
様々な形式でホロコーストの記憶や経験の証言が伝えられている。1つはホロコースト生存者自らが証言を語るというパターンで一番よく見かける。もう1つは子供など家族がホロコーストを経験した両親の話を伝えるパターンで、既に他界してしまった生存者の家族が生前に聞いた話を伝えている。また生存者自身がホロコーストの経験を思い出したくもなく、動画撮影などで語りたがらないので代わって家族が伝えていることもよくある。他には全くの第三者のナレーターが文書などで書かれた生存者の経験や記憶を伝えているパターンもよく見られる。この3パターンがほとんどだが、このドキュメンタリー動画では友人が孫と登場してきて、主人公(シムカ氏)の生涯を伝えるという形式で、ホロコーストの記憶の伝達ではあまり見られなかったパターンである。