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「自信がないから、武器を探す」黒田有が明かす胸の内

中西正男芸能記者
来年1月に50歳を迎える漫才コンビ「メッセンジャー」の黒田有

 今年2月に19歳下の一般女性と結婚した漫才コンビ「メッセンジャー」の黒田有さん(49)。来年1月には50代に突入し、この1年であらゆる変化が訪れる形ともなりました。漫才以外に芝居も手掛け、舞台「ボランチェア」(11月22日~25日、東京・神保町花月)も上演。様々な顔を見せていますが「自信がないから、武器を探すんです」と胸の内を吐露しました。

漫才と芝居

 芝居をやり始めたのが32歳の時やから、もう17年、18年くらいになりますね。

 もちろん、漫才とは全く違うものですからね。漫才は、現実的には、できる範囲が決まっているんです。今回やる芝居みたいなことをやろうとしても、漫才だったら、当然時間がかかりすぎるし、分かりにくすぎる。

 漫才はストレートに入ってくるものだし、余計な言葉を極限まで省かないといけない。逆に、芝居の脚本は、余計なことも入れるというか、余計なものに見せておいて、それが伏線というストレートではないことも多々ある。

 交通機関で例えると、漫才は飛行機。最短距離で、すごい速さで目的地まで行く。芝居は僕の中では、鈍行列車ですかね。駅弁も食べながら、景色も見ながら、道のりも楽しむというか。

時代の変化と笑い

 ただ、漫才も日々変わってますからね。もう30年近くやってると、その変化をダイレクトに感じます。

 簡単に言うたら、僕らがデビューした時、21歳だったんですけど、僕が初めて作ったネタは暴走族がケンカするネタやったんです。それが結構ウケて、賞をいただいたりもしたんですけど、それを今できるかといったらできません。

 なんでかと言ったら、50歳のオッサンが暴走族になり切って話をしていくなんてことは、今、漫才にしたら恥ずかしすぎるんですよ。お客さんも、50歳のオッサンが言ってる時点で「この人、何を言うてるんや…」と引いてしまう。

 これがね、エエ悪いやなく、昔の「ドリフターズ」さんの時代やったらOKやったんです。お客さんもそれで納得していた。実際「ドリフターズ」の皆さんは、全員オッチャンでも学生コントなんかもたくさんしてらっしゃいました。

 ただ、今はよりリアリティーを求めている時代になっている。無意識のところでも、そうなっている。なので“50歳の暴走族役”に抵抗が出てくるんです。

 昔はね、テレビの向こう側は次元の違う世界だったんです。テレビに出ている人を実際に見るだけで腰抜かすような時代やった。テレビの中と距離があったし、向こうは完全に非日常だったんです。だから、突飛なことでも受け入れられた。

 でも、今はユーチューバーもそうですけど、身近であり、よりリアリティーを求める時代になった。笑いは、多分に流動的なところがあります。なので、そこで止まるというのは良くない。常に動き続けないといけない。しんどいですけど。

 ま、正直言ってね、芝居なんか作っても全然お金儲けにはならないし、なんなら超マイナスなわけです。稽古の時にみんなを連れてご飯食べにいったりもしますし、そうなったら、完全なる赤字です。でも、なんか作っておかないと自分の頭が退化する。ブレを察知できなくなる。それが怖くてやっているところはありますね。

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50歳の意味

 ま、もう50歳になる年まわりですから、いろいろ考えもします。若い頃は「まだまだ伸びしろがある」という考えもありましたけど、もう50歳ですから。現実的に“本当に自分がやれることの範囲”が見えますもん。可能性がなくなるというネガティブなイメージよりも、自分の中ではすごく楽になったところでした。

 分かりやすく言うと、今から背が高くなるのも無理。目が良くなるのも無理。プロ野球選手にもなれない。でも、筋トレで筋肉をつける。これはいけるかもしれない。“できること”と“できないこと”の線引きがクリアになってきたなと。

 こんな分かりやすいところだけでなく、仕事における細かい部分においても、不得意なものを伸ばすことはもうやめておこうと。傷つくし、しんどくなるだけやから。逆に、自分が得意かなと思う部分はその分チャレンジする。現実が見えるということは、僕にとっては気負いがなくなるというか、そちらに作用しました。

 自分の中では、そこと関連するんですけど、50歳を前に趣味を持とうと。芸人でもいるでしょ、野球が好きとか、釣りが好きとか、ゴルフが好きとか。仕事云々じゃなくて、純粋にそれが好きで時間があったら没頭していると。

 結果的に好きが高じて仕事につながることもありますけど、趣味というのは基本的には好きがベースにあって、打算がないというか、“その先”を考えないというか。それが趣味やと思うんです。

 僕も、例えば、料理が得意とか、趣味でやってるんじゃないの?と言われたりもするんですけど、こんなん言うのもナニですけど、全部芸に結びつけるというか、そういう感覚があったんです。

 単に美味しいとか、作りたいではなく「こういう料理やったら、テレビで使えそうやな」という考えが常にあって、料理をやっていた。一事が万事、そういう考えでやってきたので、純粋な趣味というのが何もないんです。

 ざっくり言うと、もう伸びしろは決まっている。あがいたり、日々退化しないようにすることは大切やけど、過度に何かを求めて、全てを仕事に結びつけてやっていく考え方をやめようと。

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 ただ、こんなもん、急にはできませんから、50歳を前に、それを変えていく練習というか、改革をやろうと思っているのが今の正直な思いです。

 今思うとね、これまで何でも常に仕事に結びつけて考えてきたのは、自分に自信がなかったんですよ。結局は。自信がないから、武器として使えそうなものを探すんです。

 でもね、自信があろうがなかろうが、もう50歳ですから。言うたかて、そない変わらん(笑)。だったら、別にエエわと。ただただ、好きだから。そういう純粋な趣味を持とうというのが今考えていることです。

結婚して思うこと

 あとは、結婚したんでね。そら、そこの意識とは日々向き合ってますよね。ウチは僕が生まれた時から親父がいなかった。なので“お父さん”がどういうものか、自分の感覚としては知らない。

 まだ子どもはいないですけど、結婚して、まずはダンナにならないといけないんですけど、そこにもなれないんじゃないか。人に聞いてできるもんでもないし、そこは結婚を考えた時に、不安に思っていたところだったんです。

 家に帰ってきたら、人がいるわけですから。そこで会話が成立する。今までは誰もいないから、じゃ、ご飯を食べようとなったら誰かを誘う。でも、今はそこに人がいる。これだけでも流れが違うわけですし。

 まぁね、一つ良いのは奥さんより僕が19歳上ですからね。そら、オレが先に死にます。それは良かったなと。寂しがりやから。今はまだ正直違和感もあるけど、常に人といるということに、いつかは慣れるんやろうしね。

 それと同時に、いつも人と一緒ということは、誰がどこの主導権を握るか。そういう話にもなります。実際、ウチもそんな話にもなってますし、そら、もう、だいぶと嫁に握られているところもありますしね。だいぶというか、ほとんどね…。言わすな、アホ!

(撮影・中西正男)

■黒田有(くろだ・たもつ)

1970年1月29日生まれ。大阪府東大阪市出身。板前を経て、91年にNSC大阪校10期生の同期、あいはら雅一と漫才コンビ「メッセンジャー」を結成。コンビとして上方漫才大賞、上方お笑い大賞など受賞多数。2009年12月、暴行騒動で謹慎生活を経験するも、現在は関西テレビ「ちゃちゃ入れマンデー」、読売テレビ「もんくもん」などに出演。コンビでもMBSテレビ「メッセンジャーの○○は大丈夫なのか?」、MBSラジオ「それゆけ!メッセンジャー」などに出演中。また、話題の劇団「THE ROB CARLTON」とタッグを組み、黒田が作・演出も務める舞台「ボランチェア」が11月22日から25日まで東京・神保町花月で上演される。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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