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アメリカで体感気温の史上最低記録を更新 -78度

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
NWS出典の、風ありと風なしの時の体感気温の差の図

風速が1メートル増すごとに、体感気温は1度下がるー。

日本では、こんな風なざっくりした体感気温の式が存在しますが、アメリカにはもっと緻密な公式が存在します。風を加味した人の感じる気温のことを、ウィンド(風)とチル(冷却)を足し合わせて、「ウィンドチル (wind chill)」と呼びます。

そのウィンドチルの最低気温記録が、3日(金)更新されたもようです。

史上初めての-78度

アメリカ北東部ニューハンプシャー州にそびえる標高約1,900メートルのワシントン山で、実際の気温が摂氏-43度、最大風速が49m/sを超え、ウィンドチルが-78度に達しました。

これまでの記録であった-75度を抜いて、アメリカ本土における観測史上1位の低温記録となったということです。

(↓ワシントン山の様子)

(↓記録が出た時の気象状況)

-45度では5分で凍傷

なぜ風が吹けば、寒く感じるのでしょうか。

それは、体の表面を覆っている暖かな空気の膜が、風ではがされてしまうからです。そのため風が強いと体の熱が奪われて、寒く感じるというわけです。

具体的な数字を出すと、たとえばウィンドチル-30度、-35度、-45度は、それぞれ30分、10分、5分間で凍傷になってしまう寒さなのだそうです。

ウィンドチルの生みの親

北米の冬季の天気予報を見ていると、実際の気温よりも、体感気温の予想の方が話されることが多いような気がします。特にカナダに関しては、この傾向が顕著なように感じます。カナダ人の友人は、日本であまり体感気温を言わないのはなぜなのか、と不思議がっていました。

ウィンドチルの概念を作ったのは、ポール・シプレとチャールズ・パセルの2人の南極探検家でした。

1940年代、彼らはプラスチック容器に水を入れ、それを棒で吊り下げて、氷になるまでの時間を計測しました。その実験で分かったのは、風が強いほど早く氷になるということ。それを人に当てはめ、風が強いほど体の熱が早く奪われ、寒く感じる、そう考えて計算式を作ったのです。

南極ならまだしも、-78度という記録がアメリカ本土で生まれたというのは驚きです。そのとんでもない記録を出したワシントン山ですが、1934年には最大瞬間風速103メートルという、当時の風の世界記録を打ち立てています。

ここに建つ天文台のスローガンは「世界一最悪な天候を持つ場所(Home of the World’s Worst Weather Live)」。実にごもっともな呼び名です。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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