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平昌五輪に「芸術団、美女軍団、アイスホッケー南北合同チーム」は本当に必要なのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
トリノ冬季五輪では南北で入場した(写真:ロイター/アフロ)

1月9日に電撃的に行われた南北閣僚級会談。北朝鮮側は、高官や選手、応援団、芸術団、テコンドー演技団、記者団などを平昌五輪に派遣することを表明し、韓国側もそれを歓迎。以降、北朝鮮の平昌五輪参加を巡ってさまざまなニュースが連日のように報じられている。

一昨日は板門店で北朝鮮芸術団の派遣をめぐる実務協議が行われ、北朝鮮の三池淵菅弦楽団がソウルや江陵で公演することで合意したという。

日本でも関心が高い美女応援団

それを受けて日本でも、北朝鮮芸術団の解説や“美女軍団”とされる北朝鮮応援団の素性などが、テレビのワイドショーなどで大きく取り上げられている。

(参考記事:過去にはドタキャン、乱闘事件にボイコットも…北朝鮮の美女軍団は平昌に来るのか?)

それだけ日本でも関心が高い証拠だと思うが、文化交流や応援合戦が平昌五輪のメインテーマではないだろう。平昌五輪は“スポーツの祭典”であるはずだ。

そのスポーツの話題よりもまず先に、芸術団や美女軍団、さらにはそこに関与する女性たちは「金正恩委員長と浅からぬ関係にある」といった類の報道が目立つ状況に、少なからず違和感を抱かずにはいられない。

北朝鮮や金正恩委員長に対する見方に日本と韓国では若干の違いがあるものの、オリンピックなのにスポーツが脇役に追いやられてはいないだろうか。

何よりも理解に苦しむのは、スポーツの現場を無視した韓国政府の提案だ。韓国の文化観光部(日本の文部科学省にあたる)は今になって北朝鮮に女子アイスホッケーの南北合同チームを提案。北朝鮮側も8~10人前後のエントリーを希望したという。

これについて、旧知の韓国スポーツ新聞記者たちと意見を交わし合ったが、ほとんどの記者たちが反対意見である。「政治がスポーツに介入した」と怒りを露わにする者もいたし、聞くところによると現場の選手たちも当惑し肩を落としているという。

女性監督の下で強化された韓国女子アイスホッケー

ただ、それも当然だろう。そもそも北朝鮮女子アイスホッケーに五輪出場資格はないし、韓国女子アイスホッケーは長い時間をかけて強化を進めてきた。

2014年にはアメリカ生まれのカナダ人女性監督のサラ・マレー氏を招聘。2名の韓国系アメリカ人選手も韓国国籍を取得して代表チームに加わり、昨年4月の世界選手権でディビジョン2グループAで5戦全勝を飾り、ディビジョン1グループBに昇格した。男子同様に、着実に成長を重ね、いよいよ本番を迎えようとしていたのだ。

(参考記事:韓国アイスホッケー躍進の原動力となった「帰化政策」と「移民監督」のヒミツ)

そんなチームの立場からすると、開幕1か月を切った段階での南北合同チーム結成は、寝耳に水だろう。

まして南北は前出の世界選手権でも対決し、そのときは韓国が3-0で勝利している。北の選手たちの実力を評価しないわけではないが、合同チーム結成でチーム力アップが約束されるわけでもない。組織力や一体感が不可欠となるチームスポーツなのに、息を合わせるどころか顔合わせもままならない急ごしらえで合同チームを結成し、成功できるのだろうか。それが本音だろう。

韓国人の70%強が合同チームには…

それでも合同チームを提案した文化観光部は、「既存の韓国選手23名は維持しながら、プラスアルファとして北の選手を6〜8名ほど受け入れて合同チームにしたい」と考えているという。

登録選手数を従来の23名から30数名に増枠してくれるようIOC(国際オリンピック委員会)や国際アイスホッケー連盟に働きかけているようだが、仮に増枠できたとしても監督は北の選手たちの起用にも気を使わねばならず、そうなると当然、韓国選手たちの出場機会も少なくなってくる。つまり、“しがらみだらけ”の合同チームになる可能性が高いわけだ。

それで果たして、勝てるのか。盛り上がるのか。誰のための南北合同チームなのか。韓国の民放テレビ局SBSが行なった緊急世論調査によると、「無理に単一チームを推進する必要がない」が72・2%に達し、そのうち82%が20〜30代の若者たちだったそうだが、筆者も同意見だ。

南北合同チームは過去にも1991年4月の卓球・世界選手権、同年6月のサッカー・ワールドユース選手権(現在のU-20ワールドカップ)で実現しているが、今回ばかりは賛成できない。

南北の交流や親善に反対しているわけではない。スポーツ交流を通じて朝鮮半島の緊張が緩和され、東アジア全体に平和がもたされるなら、大きな意味があるだろうし、それこそ「スポーツのチカラ」だろう。

ただ、その大義ばかりが優先されて、オリンピック出場を夢見て青春を賭けてきた選手たちの汗と努力が無視されてはならないのではないか。

「もしも貴方の姉妹、親戚でも大義のために我慢しろと言えるか」

韓国の女子アイスホッケー環境は恵まれているとは言えない。実業団はもちろん、大学にもチームはなく、その選手数は130〜140名(2014年時点)ほどだと言われている。代表選手になったとしても、1日6万ウォン(約6000円)の練習手当だけが貰えるだけで、月に約120万ウォン(約12万円)ほどの月給にしかならないという。

苦労を重ねて選手生活を続けてきた者も多い。

例えばGLのシン・ソジョンは、自ら売り込んでカナダの大学に留学して腕を磨き、韓国人初のNWHL(ナショナルウーマンホッケーリーグ)プレーヤーになった苦労人だ。

チーム最年長のハン・スジンは、そもそも延世大学でピアノを専攻した音楽学生だったという。

最初は同好会レベルでアイスホッケーを始めるもその魅力に取りつかれ、休学と復学を繰り返しながらアイスリンクに立ち、一日300個の餃子を包むアルバイトで生計を立てながら、日本にアイスホッケー留学したこともあった。今年で34歳になるが、職業的には今でも無職らしい。

そうした苦労と努力を重ねてきた彼女たちに、「合同チーム優先だから我慢してくれ」と誰が言えるだろうか。旧知の間柄である記者から言われた一言がズシリと重かった。

「オリンピックのために青春のすべてを賭けてきた選手たちに、“南北融和の大義のために我慢してくれ”と言えますか? 自分の姉や妹、親戚でもそう言えますか?」

北朝鮮の平昌五輪参加を歓迎していないわけではない。ようやく動き出した南北交流に水を差す気も毛頭ない。ただ、韓国と北朝鮮の政治的駆け引きの道具として平昌五輪が利用され、そのせいで選手たちが負担や犠牲を強いられることはあってはならないと思うのだ。

(参考記事:平昌五輪、北朝鮮頼みが招く北朝鮮リスク)

平昌五輪は韓国のものでも、北朝鮮のものでもない。選手たちのものであり、全世界のスポーツファンたちのものだろう。

南北の両政府は「ウリミンジョツキリ(我が民族同士)」もいいが、スポーツを愛しスポーツに生きる人たちから「オリンピック開催を託された」ということを、今一度、思い出すべきだと思うのだが……。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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