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ゲーム禁止の家庭から日本一を争う選手に!「グランツーリスモ」4年連続の岡山県代表、石水優夢

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
岡山県随一の速さを誇る石水優夢【写真:DRAFTING】

世界的人気を誇るドライビングシミュレーターゲーム『グランツーリスモ7』を使う「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」のオンライン予選が今年も7月1日(土)からスタートする。

国民体育大会(鹿児島)の文化プログラムとして開催される「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」は国体eスポーツと呼ばれ、2019年から数えて今年で5年目だ。実況を2019年から務める筆者は2023年の大会を前に3人の注目選手にインタビューする機会を得た。現実のスポーツとの共通項が最も多いeスポーツジャンルを戦う選手達のスピリットはリアルレーサーと何ら変わらない。その取材後記をお届けしよう。

ゲーム禁止の教育方針で育った

取材後記2人目は4年連続で岡山県代表になった石水優夢(ひろむ)。彼もまた国体eスポーツへの出場をキッカケに人生が変わった一人だ。いや、彼の場合は本人だけでなく、家族全員の生き方が変わったと言えるかもしれない。

今では「グランツーリスモ」シリーズの大会で西日本のトップドライバーとして知られる石水優夢。そんな彼が本格的に「グランツーリスモ」を始めたのは中学生になってからのこと。2019年の大会の時からだという。

「小学生の時、僕の家はゲーム禁止でした。だから、親が居ない時にお兄ちゃんと内緒で「グランツーリスモ」を少しだけやっていたのです」と石水は語る。

ゲーム禁止の教育方針の家庭で育った子供に「グランツーリスモ」での国体挑戦を勧めたのは父の石水俊之さんだ。石水優夢は2019年のオンライン予選を通過して、岡山県代表決定戦の大会に出場し、ライバルをごぼう抜きして岡山県代表になり、2019年の本大会へと出場した。

当時の岡山県代表決定戦には、ゲームでは着用する必要のないレーシングスーツ姿で出場。気合が入った格好で出場してきた選手として、当時の関係者たちの間でも話題になったのだが、石水家的には単に思い出作りのための出場だっからこそレーシングスーツを着て行ったのだという。

2019年 岡山県代表決定戦での石水優夢(中央)【写真:Sony Interactive Entertainment Inc. 】
2019年 岡山県代表決定戦での石水優夢(中央)【写真:Sony Interactive Entertainment Inc. 】

発達障害が分かり、教育方針を変えた両親

石水は実は自身が発達障害を抱えていることを告白している。読み書き障害と診断されたのは中学2年生の頃で、そんな折に「グランツーリスモ」の国体レースに出会った。

元々、母の加名さんがF1ファンであり、モータースポーツに理解があったことから「グランツーリスモ」に取り組むことだけは許可を出した。「診断が出てからは私も考え方を切り替えて、得意なことを伸ばしてあげたいなと思うようになりました」と母・加名さんは語る。

石水優夢(左)、母の加名さん(中央)、父の俊之さん(右)【写真;DRAFTING】
石水優夢(左)、母の加名さん(中央)、父の俊之さん(右)【写真;DRAFTING】

もっと上手くなりたいという思いから、石水はオンラインで仲間を集めて練習を続けた。会ったこともない子供たちが一生懸命に練習する姿に両親は感激したという。親として最も感銘を受けたのは子供たちの礼儀正しさや言葉使いだ。

「グランツーリスモ」シリーズは現実のモータースポーツのルールや哲学に沿って作られているゲームである。現実のモータースポーツは昔から紳士のスポーツと呼ばれ、相手を尊重するスポーツマンシップやマナーが何より大事だ。

もちろんゲーム上で幅寄せして壁に追いやっても誰も怪我をすることはないが、「グランツーリスモ」シリーズはオンラインでレースに出る前にドライビングマナーを教えるチュートリアルが用意されており、現実と同じ世界観が作られているのである。上手な「グランツーリスモ」プレイヤーたちはマナーも一流。親としてそういう点も「グランツーリスモ」を頑張ることを応援する理由になっている。

いつしか兄弟を含めた全員で、石水優夢のレースを応援するようになったという家族。父・俊之さんは「受験も頑張ったんですが、高校進学という夢は叶いませんでした。それでも優夢は『グランツーリスモ』という生き甲斐を見つけたことで、夢を見続けられているのだと思います。グランツーリスモのおかげですよ」と目を細める。

「グランツーリスモ」シリーズに一生懸命取り組むことで、石水家には笑顔が生まれ、その絆は強くなった。家族だけではない、高校に進学しない代わりに通うようになった学習支援施設では、石水の活躍は同じ悩みを抱える親や子供たちにとって希望、そして憧れの的だという。

「みんなの目標になりたいと思っています」

石水は少しだけ現実のカートに乗せてもらったこともあるそうだが、毎回乗るたびに周りを驚かせる速さを見せるという。子供がどのジャンルで才能をフルに発揮できるか、誰にも分からないが、石水は自身が持つ優れた才能に出会えた一人なのだ。

5年連続の県代表、そして世界へ

4年連続で岡山県代表になった石水。2021年の三重大会(オンライン開催)では17歳までの選手が参加できる「U-18の部」で優勝目前まで行った。しかし、2022年は県代表にはなりながらもエリア代表選抜戦で敗退し、栃木で開催された本大会には進めなかった。

今年は18歳以上の「一般の部」へとステップアップする石水。いよいよグランツーリスモ・ワールドシリーズなど海外のライバルたちが出場するレースにも参加可能な年齢になった。狙うは5大会連続の岡山県代表、そして「U-18の部」で掴めなかった日本一の座だ。

「速い人たちのプレイを見て研究して、しっかり準備していきます」と語る石水。ライバルはベテラン揃い。「グランツーリスモ」を始めた頃に憧れたトップドライバーたちと対戦しなくてはならないし、彼らは相当手強い。「U-18の部」以上に難しい戦いになるだろう。

しかし、石水にとっては、やり甲斐のあるフィールドでもある。日本で一番の実力を見せつけることができれば、ワールドシリーズで海外に行くこともきっと夢ではない。母・加名さんは「WBCのヌードバー選手のお母さんのように、その時は私もモナコに行って応援しますよ」と満面の笑みで語る。今まで支えてくれた両親に海外で闘う姿を見てもらうことが石水優夢の目標だ。

大会に向け練習する石水優夢【写真:DRAFTING】
大会に向け練習する石水優夢【写真:DRAFTING】

『グランツーリスモ7』のオンライン予選は7月1日(土)からスタート。期間中に何度もやり直しが効く「AE86/スプリンター・トレノ」を使ったタイムアタックだ。今年の「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の闘いで石水優夢のように自身の才能に出会う人が現れることを祈りたい。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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