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EU離脱で自動車産業が苦しむイギリスで増産したトヨタの秘密とは

木村正人在英国際ジャーナリスト
英中部にあるトヨタのバーナストン工場(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]1月31日に欧州連合(EU)を離脱するイギリスの自動車生産台数が3年連続で減少し、昨年、対前年比14.2%減の130万3135台に落ち込んだことが分かりました。2010年の127万台以来の低水準です。

SMMT提供
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メーカーごとに見た生産台数の増減は下の表の通りです。

SMMTの資料をもとに筆者作成
SMMTの資料をもとに筆者作成

EU離脱交渉が難航し、ホンダが2022年中の英スウィンドン工場閉鎖を決定、日産が英サンダーランド工場で生産する計画だった欧州向け次期型「エクストレイル」を九州工場で生産することに変更しました。

そんな中、トヨタだけが生産台数を増やしたのはハイブリッド車の新型カローラに注力しているからです。昨年3月にはスズキ自動車と提携してイギリスで電気式ハイブリッド車の生産を始めると発表しました。

2020年は電気自動車(EV)用バッテリーの生産コストが下がり、需要がガソリン車やディーゼル車を上回る「EV元年」になると言われています。バッテリーとEVの生産地が離れていたら優位性を築くことはできません。

EU離脱を可能な限り円滑に行い、EV用バッテリーのギガファクトリーを呼び込めるかが英自動車産業の「勝負の分かれ目」になりそうです。

【イギリスの自動車生産が低迷している理由】

・消費者や企業の景況感の悪化

・中国など海外市場の低迷

・モデル生産の大幅な変更

・ディーゼル離れの加速

・地球温暖化など環境対策の強化

・「合意なき離脱」の混乱を緩和するための工場休止

英自動車製造販売者協会(SMMT)の最高経営責任者マイク・ホーズ氏は29日の記者会見で次のように語りました。

SMMTのマイク・ホーズ氏(筆者撮影)
SMMTのマイク・ホーズ氏(筆者撮影)

「イギリスの自動車産業が経験した不確実性を考えると、グローバルな競争力を再確立することが不可欠。すべての自動車製品が関税や余分な負担なしに売買できることを保証するEUとの無関税、クオーター制(輸入割当制度)なしの野心的な自由貿易協定(FTA)を締結することがその第一歩となる」

イギリス国内向けと輸出用(全体の81%で半分以上がEU向け)の生産は各12.3%、14.7%減少。EU向けが11.1%減少。アメリカ向けが9.8%、中国向けが26.4%、日本向けが17.7%と軒並みダウンしています。

その一方で、ハイブリッド車やEVなど代替燃料車や小型車の生産はそれぞれ34.7%、16.2%も増えました。代替燃料車の生産台数は19万2304台に達しました。

英自動車産業への投資は2013年の58億ポンド(約8200億円)から2018年の5億8860万ポンド(約835億円)まで急落、昨年はジャガー・ランドローバー(JLR)のEV新型車生産の大型投資で11億ポンド(約1560億円)まで復活しました。

SMMTデータをもとに筆者作成
SMMTデータをもとに筆者作成

イギリスは秀でたカー・エンジニアリング、軽量化、空気力学のおかげで、EUとの円滑な貿易が維持されれば、低エミッション、ゼロエミッション車の開発と製造をリードする可能性を持っています。

イギリスの製造業に従事する14人に1人(16万8000人)が自動車産業で働いており、さらに27万9000人が生産をサポートしています。イングランド北部やウェスト・ミッドランズなどの地域では製造業の6人に1人以上が自動車産業に関わっています。

自動車産業の年間給料はイギリスの全従業員の平均より21%高く、年間総額で約60億ポンド(約8500億円)を従業員に支払っています。

しかしEUとの新たな通商協定の交渉が決裂し、イギリスが「合意なき離脱」に追い込まれ、世界貿易機関(WTO)ルールに基づきEU域外関税の10%が自動車にかけられた場合、年に45億ポンド(約6380億円)の余分なコストが発生するそうです。

ホーズ氏に「合意なき離脱」になった場合について質問してみました。

ホーズ氏いわく「今年の生産台数は127万台とみているが、来年“合意なき離脱”になった場合の生産台数を予想するのは難しい。ベースラインは何らかの協定が結ばれることを想定している」。

次に無関税、クオーター制なしのFTAが結ばれた場合、原産地規則がどうなるのかについても尋ねてみました。

「これについても野心的な合意を期待している。EUの原産地規則は55%。平均的な自動車は1万5000もの部品から成る。イギリスはこれまでEUに加盟していたので原産地証明をしたことがなく、膨大な準備には時間がかかる」

「相互認証や部品の累積ルール(A国の原産品がB国で作業または加工された場合、B国を原産国とみなす制度)をどうするのか詰めなければならない」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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