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大谷翔平だけじゃない!エンジェルスが野戦病院化したのはミナシアンGMが犯した2つの無理が原因では?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
負傷した大谷選手の起用法に後悔していないと発言したペリー・ミナシアンGM(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【大谷選手の心境は今も確認できず】

 8月19日のレイズとのダブルヘッダー第1戦に登板し、2回途中で降板するアクシデントに見舞われた後、検査の結果右ヒジの内側側副靱帯(UCL)断裂が見つかった大谷翔平選手。

 ペリー・ミナシアンGMから診断結果と残りシーズンの登板回避が発表されたものの、未だ大谷選手本人の口から現在の心境が語られておらず、現時点で修復手術を受けるのかどうかも分からない状況が続いている。

 とりあえず大谷選手がどの程度のレベルで二刀流選手として復帰したいかがカギになりそうだが、仮に保存療法を採用したとしても断裂部分が修復することはない。

 ヤンキース時代の田中将大投手の例があるように、ヒジに負担のかからない投球フォームへの修正が求められ、しかも大幅な投球スタイルの変更も余儀なくされるだろう。

 個人的には修復手術の一択しかないと予想しているが、今は大谷選手の決断を待つしかない。

【本当にチームに責任はないのか?】

 大谷選手の負傷が明らかになって以降、日米のメディアから大谷選手を二刀流としてフル回転させ続けたエンジェルスの起用法に疑問を呈する声が挙がっている(自分もその1人だが…)。

 それに対しミナシアンGMは、シーズンを通して大谷選手と対話を重ねていたこと、さらに8月3日のマリナーズ戦で早期降板した際に大谷選手とエージェントに対し検査を打診したが断られたことなどを理由に挙げ、大谷選手の起用法には「zero regret(後悔はゼロ)」だとしている。

 ただミナシアンGMが大谷選手の体調に疑問を感じていたのなら、検査を断られたとしても様子を見るため登板間隔を空けるか、登板をスキップさせることができたはずだ。にもかかわらずチームは、通常通り中5日で大谷選手を登板させている。

 結局ミナシアンGMやフィル・ネビン監督はシーズンを通して「ショウヘイが自分の体調を一番理解しているし、彼を信頼している」の一点張りで、実際負傷を起こす前に登板回避していたのも、大谷選手からの申し入れによるものだった。

 対話というものは基本的に、相手の意見を一方的に聞くものではない。こちらの意見をしっかり説明して、相手に理解、納得させることも重要なことだ。

 ミナシアンGMの説明を聞いていても、大谷選手と首脳陣の間で正常な対話が成立していたとはどうしても考えにくい。

【ミナシアンGMが大谷選手以外に犯した2つの無理】

 あくまで個人的な意見ではあるが、そもそも今シーズンのエンジェルスは大谷選手のみならず、いろいろな面で無理をしてきた。そうした無理が積み重なり、最早9年ぶりのポストシーズン進出が絶望視される成績に止まっているのだと感じている。

 その責任者こそ、現場を統括しているミナシアンGMに他ならない。

 中でもミナシアンGMが犯した2つの無理は、“野戦病院”とまで称されるような大量の負傷者を招く要因にもなっていると考えている。

【見切り発車的な若手有望選手の登用】

 まず1つ目の無理は、シーズン開幕当初から続く若手有望選手の登用だ。

 シーズン開幕からローガン・オホッピー選手を先発捕手に起用した他、開幕直後に不振だったデビッド・フレッチャー選手に代わりザック・ネト選手をメジャー初昇格させ、さらに安定感を欠くリリーフ陣を補強するため、新人のチェイス・シルセス投手、サム・バックマン投手、ベン・ジョイス投手を登用していった。

 すでにご承知の方もおられると思うが、ネト選手は昨年のドラフト1位指名選手で、周囲を驚かせる大抜擢だった。

 本来ネト選手のような大学で短期シーズンしか経験していない新人選手については、まずプロとしてシーズンを乗り切れる体力向上や長期シーズンに対応できるルーティンの確立が優先されるものだ。ネト選手の場合、そうした手順を省いていきなりメジャーで先発遊撃手として起用し始めたのだ。

 これは昨年のドラフト3巡目指名のジョイス投手にも、同様のことが当てはまる。

 また2021年ドラフト同期のシルセス投手とバックマン投手の場合は、今シーズンの昇格までマイナーで先発投手として起用されてきたのに(シルセス投手は昨年メジャー初昇格し7試合に先発)、いきなりメジャーでリリーフとして起用しているのだ。

 言うまでもなく先発とリリーフでは調整法も違ってくれば、投球強度もかなり異なってくるものだ。それをリリーフ未経験の2投手に託すのはかなりのリスクに他ならない。

 そして経験不足が明らかだったネト選手、バックマン選手、ジョイス投手は現在、負傷者リスト(IL)に入っている。

 ちなみにオホッピー選手に関しては、2018年にドラフト指名を受け(昨年フィリーズからトレード移籍)、マイナーで3年間フルシーズンを経験し、昨シーズン終盤に初昇格している選手なので、決して無理をさせていたというわけではない。

【現時点で新人資格選手は故障者ゼロのレッズ】

 若手有望選手の登用という面で、象徴的な存在になっているのがレッズではないだろうか。

 シーズン開幕からナ・リーグ中地区下位に低迷すると、シーズン中にもかかわらずマイナーから若手有望選手を次々に昇格させ、世代交代を断行した。

 そして起用された若手選手たちが次々に活躍を続け、主力選手に定着。6月には破竹の12連勝を飾り、一気に上位チームの仲間入りを果たすことに成功している。

 現在出場ロースターに名を連ねる26人のうち、新人資格を有している選手が9人もいながら、今も熾烈なポストシーズン争いを続けている。

 そうしたレッズの若手有望選手たちはすべて2021年以前のドラフト指名選手たちで、最低でも1年間はマイナーでフルシーズンを経験しており、またメジャーに昇格してもマイナー同様のポジション、役割で起用されている。

 ちなみに新人資格を有している選手の中に、現在IL入りしている選手は1人もいない。

【リハビリ出場を省いた2選手がILに逆戻り】

 2つ目の無理は、負傷した選手の復帰のさせ方だ。

 例えばベテランのマット・ムーア投手は5月28日に右脇腹痛でIL入り、復帰まで1ヶ月以上かかり7月14日にロースターに復帰したのだが、復帰前にマイナーでのリハビリ出場を行っていない。

 やはり実戦感覚が完全に戻っていないこともあり、復帰直後3試合中2試合で失点されている。ただし復帰後のムーア投手は今も負傷なく投げ続けているので、それほど大きな問題にはなっていない。

 だが6月15日にIL入りし、復帰まで約1ヶ月かかり7月14日に復帰したネト選手はやはりリハビリ出場を省き、残念ながら8月4日にILに逆戻りしている。

 さらにマイク・トラウト選手に至っては、7月3日に左手有鉤骨を骨折した後、同じくリハビリ出場を行わず8月22日にロースターに復帰したものの、わずか1試合の出場でILに戻っている。

 一応公正を期すために追記しておくと、ここ数年のトラウト選手はIL入りから復帰する際にリハビリ出場をしていなかった。ただあるMLBのメディカルスタッフに確認したところ、有鉤骨骨折からの復帰については通常1、2試合リハビリ出場させるということだった。

 言うまでもなくネト選手、トラウト選手は先発フル出場が期待されている選手たちであり、彼らの長期離脱はチームにとって大きなダメージに他ならない。そのためにも復帰には万全を期すべきだったはずだ。

 如何だろう。野戦病院化したエンジェルスの現状を招いているのは、間違いなくミナシアンGMがその責任の一端を担っている。それを踏まえた上で、大谷選手の負傷もその一環だと考えても、決して矛盾はないだろう。

 むしろ後悔していないことを疑いたくなってしまう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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