韓国情報機関トップの訪日は成功? 注目すべきは北朝鮮の反応!
韓国情報機関のトップである朴智元(パク・チウォン)国家情報院院長が8日に来日し、菅義偉総理をはじめ北村滋国家安全保障局長、滝沢裕昭内閣情報官らと会談した。親交の深い自民党の二階俊博幹事長とは来日したその日に会っていたようだ。朴院長は3泊4日の滞在日程を終え、今日帰国する。
朴院長は一連の会談で日韓の懸案である徴用工問題から来月韓国で予定されている日中韓首脳会談に至るまで話し合ったことを認めている。また、北朝鮮問題についても意見交換が行われ、その際、日本人拉致問題も話し合われたとのことだ。
日本は日韓関係が微妙な時に文在寅大統領の信頼の厚い朴院長が来日し、率直な意見交換ができたこと、朴院長を通じて文大統領に日本側の考えをきちっと伝えたこと、また、日本人拉致問題への協力表明があったことを評価していたが、日韓関係の最大の障害となっている肝心の徴用工問題については朴院長から日本が納得できる解決策が示されたかどうかは不明だ。また、韓国がホストの日中韓首脳会談に菅総理が参加の意思を表明したのかどうかも明らかにされていない。
要はこれまでと同じで、率直な意見交換ができたこと、懸案を対話で解決することで意見の一致を見た程度で、日本からすれば日韓関係改善に向けてのボールは依然として韓国側にあることには変わりがないようだ。
外交は本来、外務省の管轄であって、国家情報院が関与する事柄ではない。それでも朴院長が前面に出てきたのは日本の政権中枢と太いパイプがあることを文大統領から買われたからであろう。
実際に朴氏は情報機関の長になる前の昨年8月に徴用工問題の解決に奔走していた文喜相国会議長(現在は政界から引退)の特使として来日し、旧知の二階幹事長と会談したことがある。しかし、1年経ったが、徴用工問題は何一つ進展を見ていない。
また、拉致問題での韓国の協力表明は今に始まったことではない。金正日総書記が拉致を認めた2002年以降、当時の盧武鉉政権もまた保守の李明博、朴槿恵政権も拉致問題への協力を口にしてきた。
現実には韓国ができる協力は日本との交渉に応じるように北朝鮮を説得するか、脱北者から聞き出した拉致関連情報を、また国情院がこれまで伏せていた極秘情報を日本側に伝達することだ。言葉だけの協力ならば無意味だ。
朴院長は金大中政権の時から再三訪朝し、韓国では「北朝鮮通」と言われているが、一度たりとも訪朝の際に拉致問題を持ち出したことがない。拉致問題を取り上げれば、北朝鮮が癇癪を起し、席を立ってしまうことを誰よりも知っているからだ。
韓国側の報道では朴院長は文大統領のプランとして来年7月の東京五輪に金正恩委員長を招き、東京で日朝、米朝、さらには南北と日米による4者会談を提案したようだが、実現性はゼロだ。
文大統領は2017年に北朝鮮が核実験と長距離ミサイルを発射し、朝鮮半島の緊張が激化していた時、平昌冬季五輪カードを使って2018年4月に南北首脳会談を、6月には米朝首脳会談を実現させている。柳の下に二匹目のドジョウではないが、韓国と同様の手法を取るよう日本に促したようだ。
現実性がゼロなのは、仮に招待されても金委員長が来る可能性がないからだ。理由は金委員長にとって訪日する必然性もメリットもないからだ。そもそも正恩氏はプーチン大統領から招かれてもロシアの対独戦勝式典にまだ一度も出席していないし、平昌五輪の時も自身は訪韓しなかった。五輪観たさに、又は日本の首相との会談のために重い腰を上げることはまずあり得ない。
南北と日米による4者会談については中国とロシアが許さないだろう。オバマ政権下で中断してしまった中ロを含む6者会談の再開ならばいざ知らず、4者はとても無理だ。
さらに、文大統領は自身の看板である「朝鮮半島平和プロセス」や「朝鮮半島新経済地図構想」実現のため2032年の夏季五輪の南北共催への日本の支援を要請したとも伝えられているが、WTO(世界貿易機関)の事務局長選挙で日本の支援を得られなかったことが痛い教訓となり、事前に布石を打ったようだ。
いずれにしても、南北五輪も日朝や4者会談も、拉致問題もカギを握っているのは北朝鮮である。主役である北朝鮮を抜きにしたいかなる談合も会談も意味をなさない。韓国も、朴院長も北朝鮮の代弁人ではないからだ。それどころか、今は朴院長と北朝鮮との関係は良くない。
昨年8月に当時国会議員だった朴院長が金剛山観光開発に寄与した現代グループの故鄭周永名誉会長の故郷である通川から短距離ミサイルが発射されたことに「最小限度の常識もない」と北朝鮮を批判した際、北朝鮮は朝鮮中央通信を通じて「我々との縁故関係を自慢し、政治的資産として利用しようとしている芝居屋である」との烙印を押し、「二度と駄弁を弄するな」と痛烈に批判したことがある。
また、最近も、南北首脳会談や米朝首脳会談の調整のため何度も平壌に足を運び、金委員長と面談したことのある柳勲・国家安全保障局室長が10月に訪米し、大統領安全保障担当補佐官との会談で「南北関係は米国など周辺国との協議で解決すべき問題である」と発言したことを問題視し、朝鮮中央通信を通じて「(米国と)汚く戯れていた」と批判し、野党や保守メディアから「親北」と批判されている柳室長をなんと「腹の底まで親米意識で詰まっている米国産尨毛の犬である」と扱き下ろしていたばかりだ。
前例からすれば、北朝鮮は一両日中に朴院長の訪日について見解を明らかにするかもしれない。でなければ、朴委員長の発言は北朝鮮も了解済みと受け止められるからだ。