Yahoo!ニュース

大学選手権6連覇中の帝京大学ラグビー部 まさか、もう次のキャプテンは決まっている?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
昨季の日本選手権でNECを破った瞬間。途中出場しエナジーを注入した。(写真:伊藤真吾/アフロスポーツ)

蒸し暑いグラウンドに雨が降り、雲が去れば、またさらに蒸し暑くなった。ラグビーをするには苦しくも愉しい条件だったろう。そんななか、誰からも元気だ、元気だと言われる選手が走りまくっていた。

飯野晃司。大学選手権6連覇中である帝京大学の3年生だ。身長189センチ、体重108キロのたくましい体躯で、球の出どころで抗うロックというポジションを務める。

球のないところでも駆け回り、大きな声を出し、思い切りのよいタックルで相手の連続攻撃を断つ。本人は個人での大仕事を「チームとして組織ディフェンスの連携が取れていて、そのなかでたまたま…」と謙遜するが、機動力、活力、ぶつかる際のインパクトはトップリーグ関係者の注目の的でもある。

7月19日、東京は百草園の本拠地グラウンド。前半と後半でメンバーを大きく入れ替えた東海大学との練習試合で、飯野は後半の中盤までプレーした。引き下がった後も故障者が出たために再登場。「飯野はタフですね。元気です」。前半で交代した同級生の正司令塔、松田力也も感嘆の声をあげた。自身のキャプテン就任への意欲もなくはないが、同級生の腹の底から涌き出るようなエネルギーにも敬意を表している。

「キャプテンレベルの選手がいるほどチーム力は上がる。刺激しあいながらやっていきたいです」

元日本代表で帝京大学OBの相馬朋和コーチは、飯野の人間性をこう観ていた。

「役職につく、つかない、は別として、すでにリーダーです。多分、どこで何をしても成功するでしょう。元気。組織に1人いるのといないのとでは違います」

常勝集団を束ねる岩出雅之監督は、選手起用に「投資」という観点を採り入れる。

例えば、苦しい試合から成長の糧を得られそうな聡明な新人がいれば、多少のあらには目をつむってゲームに出す。飯野も松田も現キャプテンの坂手淳史も、日本代表副将となった卒業生の堀江翔太も、大学のルーキーイヤーから段階的にキャリアを積んでいまに至っている。

その観点で言えば、控え選手主体の後半のメンバーに飯野を残したのも幹部候補生のための「投資」なのでは。

「いや…ラインアウトを取れる奴がいなくなっちゃうから」

指揮官はあくまでラインアウトという空中戦に必要な要員を確保するためだとし、「投資」の仮説にいったんは首を振った。もっとも、「出ておったら、(自然と)リーダーシップは取る」とも続ける。本人はどうか。

「今回はメンバー的な関係で入っただけなので…」

取材の音声記録を後で振り返せば、張りのある声が返ってくる。飯野の言葉だ。

「ただ、いい機会を与えられていると自分では考えています。後半、さぼっているわけではないですが走れなくなってしまうところがある。そこを改善しないと、と思えています。長く試合に出ることは、自分の成長につながっています」

メディアトレーニングの成果、だけではない。「地元で有名」だったという明朗な尚代さんのもと育ち、一度も人見知りをしたことがないという気質が勇ましい発言を生んでいる。

――では、主力同士の前半と控え選手が並ぶ後半で意識の違いはありますか。

「自分が意識するのはセットプレー(ラインアウトなどの攻守の起点)、ブレイクダウン(肉弾戦)、タックルをしっかりすること。それは前半だろうが後半だろうが変わらない。特に、意識する部分はあまり…」

――経験の浅い選手も多い後半は、よりリーダーシップが求められそうに映りますが。

「どのチームであろうが、しっかりリーダーシップは取っていきたいと考えています!」

愛知県三好高校でラグビーを始めた。初心者だったころはしばし練習で右往左往することもあったが、指導陣に言われ、目が覚めた。

「声を出すことと走ることだけなら、すぐにできるだろう」

やがて、東海地区の高校ラグビー界で知る人ぞ知る存在となる。当時の印象を、「いまと変わらなかった」と語るのは、姫野和樹である。同じ愛知県の春日丘高校にいた、大学の同級生だ。

「いつも元気です。尊敬できる」

自らも、高校時代の思い出を振り返ったうえで哲学を明かす。

「常に元気よく。声を出した試合では自分もチームも楽しくなる。ラグビーをするうえでは大切なことです」

楕円球に出会った時に出会った「声…」の訓話。ここに飯野の人生哲学がある。

この午後のゲームは29-19で勝ったが、課題の残る試合だったろう。この日のマッチメイクを願い出た東海大学は力勝負で激しく、帝京大学は細かなミスを犯した。

実は帝京大学は、1週間前の12日にはトップリーグのサントリーと31-33という互角の勝負を演じている(こちらも主力組だけの前半は17-7とリードしていた)。岩出雅之監督は「先週は気持ちが入っていたのに、今週はのんびり」といった言い回しで、スポーツには人間味が表出する側面を端的に示したものだ。「こんな日もあります」と達観してもいたが。

飯野も「先週も今週もラインアウトで課題が出た」と、試合内容を踏まえた反省点を挙げる。そして、前を向く。試合後、「ぼけていた選手を怒っただけ」という指揮官の短くない円陣が解かれると、こう真剣に振り返るのである。

「精神面。気持ちを出せ、と。コーチングというより、勉強という感じでした!」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事