究極の迷惑行為?:ブロックチェーン上に消せない児童ポルノ
(パブリック)ブロックチェーンの特性は、1. 改竄が不可能(著しく困難)な履歴の保存、2.特定の管理者なしに非中央集権型で動く、3. 一度動き出したら止められない、という点にまとめられます。特定の企業や政府機関に依存しないように暗号通貨を運営していくためには、これらの特性はきわめて有用です。
しかし、(パブリック)ブロックチェーンを暗号通貨以外の用途に利用しようとすると、これらの特性は、革新的なソリューションをもたらしてくれる可能性もある一方、きわめて「怖い」ということがわかります。ユーザーがみな正直者であればよいのですが、ユーザー登録審査がなく誰でも参加できる環境で、悪意を持ったユーザーが意図的に破壊行為・迷惑行為を行なうことを、特定の管理者なしにどうやって防ぐかという課題があります。
そのような課題の大きさを痛感させる事件が先日BBCで報道されました。ビットコインキャッシュ(BCH)のハードフォークである暗号通貨ビットコインSV(Satoshi’s Vision)(BSV)のブロックチェーンに何者かによって児童ポルノの画像が書き込まれてしまったという事件です。
前述のとおり、一度ブロックチェーンに書き込まれた情報は変更困難なので問題の画像はそのまま残り続けてしまいます。これにより、国によっては当該ブロックチェーンのノードになるだけで、児童ポルノの「単純所持」として犯罪を構成してしまう可能性もあります。
アップロード主は、愉快犯かもしれないですし、国家による一切の検閲を嫌う思想の持ち主かもしれないですし、BSVの運営を妨害しようとしている人かもしれません。
このような話は、以前からリスクとして指摘されていました(参考記事(英文))。ビットコインのブロックチェーンの場合、画像のようなサイズの大きいデータは、直接書き込みできないので、裏技を使って複数ブロックに分けて保存するか、データ本体を別の場所においてリンク情報のみをブロックチェーンに置くしかありませんでした(それでも十分迷惑ですが)。BSVは、データサイズの上限を大きくした設計としたため(参考記事(英文))画像ファイルがチェーン上に直接書き込まれてしまったということのようです。
非中央集権型で動かすということは、単に管理者を排除すれば済むという話しではありません。今まで管理者が行なっていた、悪意のユーザーの様々な迷惑行為・破壊活動への対応を非中央集権型でできるようにしなければならないということです。暗号通貨に閉じた利用であれば、PoW等によりこの課題は(いろいろ問題ありとは言え)対応されていますが、今後、パブリックブロックチェーンの応用を広げていくにはこの課題を解決していく必要があります。
たとえば、ちょっと前に書いたように、パブリックブロックチェーンベースで音楽配信システムをやろうと思うと著作権侵害コンテンツのアップロードの問題に対応しなければなりません。中央の管理者がいれば、アップロード主のアカウントをBANして、当該コンテンツを消せばすみますが、非中央集権型でこれを行なえる仕組みを作るのは結構大変そうです。