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日銀はどの程度長期金利を抑え込んでいるのか。1998年末の運用部ショックという事例からも1%程度か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日本の長期金利、つまり10年国債の利回りが再び1%に向かって上昇しつつある。しかし、足元の消費者物価指数(除く生鮮)が前年同月比で2.6%の上昇と比べて、長期金利はかなり低い状態にある。

 長期金利を形成する要因はいくつもあり、それを導く方程式があるわけではない。

 名目長期金利=実質長期金利+期待インフレ率というフィッシャー方程式があるが、実質長期金利と期待インフレ率そのものの算出が困難である。

 物価連動国債から期待インフレ率が算出はできるが、物価連動国債の市場規模そのものが小さく、足元の物価の状態に大きく影響を受けやすいものでもあり、それはあくまで参考程度となるのではなかろうか。

 ただし、この長期金利と物価の乖離には日銀が大きく関与していることは確かであろう。これについて日銀は4月の展望レポートで、下記のように解説していた。

 「ストック効果を中心に、均してみれば、概ねマイナス1%程度の長期金利の押し下げ効果がみられたことが示唆された」

 注釈では下記のような解説もあった。

 日本銀行が2021年3月に実施した「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」でも、本BOXとはやや異なる定式化のもとで、日本銀行の国債買入れが、長期金利の押し下げに有意に影響しており、均してみれば概ねマイナス1%程度の下押し効果があったことを示している。

 注意すべきは、日銀は2024年3月の金融政策決定会合で長期金利コントロールそのものを解除している点である。

 巨額の日銀による国債買入によっても当然ながら長期金利は抑えられる。それはフロー効果となるが、フローとストックの効果がそれぞれどの程度であったのかはこれから試されることになる。

 ひとつ参考になる事例が1998年末にあった。現在の日銀のように大量の国債を保有しているところがあり、そこが国債の買入を停止するというアナウンスをきっかけに長期金利が跳ね上がったことがあった。

 いわゆる運用部ショックと呼ばれているものである。大蔵省(当時)の資金運用部はピーク時には国債残高のうち半分近く保有していたこともあったように記憶している。

 そこが国債の買入を停止するとアナウンスしただけで、長期金利が1998年12月の1%近辺から2%近辺へと1%あまり上昇したのである。

 これからみても日銀の試算の1%というのは適切なものであるかもしれない。ただし、フローとストックの効果をそれぞれどの程度なのかを計ることは難しい。フロー効果が削がれるだけでも1%程度跳ね上がる可能性も運用部ショックからは窺えるのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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