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北朝鮮の「息子」が国民を驚愕させた"真夜中のチン事件"

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 北朝鮮で、占いは違法行為とされており、取り締まりの対象となっている。当局は取り締まりを繰り返し、占い師を処刑するなどの弾圧を加えているが、社会が不安定で情報が少なく、未来が見通せない国情の下、占いの需要は一向に減ることはない。

 一昨年の清明節の日、占い師とそれにすがる女性とその息子を巡ってひと騒動が起き、地域では事件の噂で持ちきりになったという。

 話の主人公は、40代女性のキムさん。中国との国境に程近い、平安北道(ピョンアンブクト)の天摩(チョンマ)郡で、家具用の木材を販売するトンジュ(金主、新興富裕層)だ。

 占いと同様に「迷信行為」とされているが、北朝鮮では広く風水が信じられており、先祖の墓は“気”の集まる「明堂」と呼ばれる土地に立てるのがいいとされている。キムさんは、山の中の明堂を選び、父親の墓を移した。

 それからしばらくして、彼女の15歳の息子が原因不明の病気にかかってしまった。郡内の名医という名医をすべて訪ね歩き、平安北道病院、平壌にある中央病院まで行ったものの、病名すら突き止められなかった。

 1年以上、病と闘い続けている息子と、看病を続けているキムさんを見かねたのか、知人がこんなアドバイスをした。

「現代医学では診断できない病気ならば、霊病かもしれない。よく当たると評判の占い師を訪ねてみなさい」

 この占い師は、平安北道の幹部の妻だけを顧客にし、一般人は滅多に見てもらえないと言われていたが、キムさんはほうぼう手を尽くしたのだろう。昨年8月になって、ようやく占い師に見てもらえることになった。すると、こんなことを言われた。

「去年、先祖の墓を勝手に移しただろう。先祖の霊が怒らせたので、お前の息子の余命は数カ月だ」

 それに驚いたキムさんは、なんとかして息子を助ける方法を教えて欲しいと懇願した。占い師はこう告げた。

「秋夕(チュソク、旧盆)の夜中に、息子を裸にして町内を一周させよ」

 秋夕当日になって、キムさんは嫌がる息子に「やらなければ死ぬ」と言って服を全部脱がせて、家の外に追いやった。

 田舎の夜道だけあって、ひとけは全くなかったのだが、わずか20歩ほど走ったところで、運悪く安全員(警察官)2人に見つかってしまい、安全部(警察署)に連行された。

 闇夜の出来事に驚いた安全員は、署内にあった古い軍服をとりあえず着せて事情聴取を行った上で、一旦帰宅させた。そして、キムさんと占い師を逮捕し、労働鍛錬刑(懲役)6カ月を言い渡した。過去には占い師が公開処刑になった例もあったことを考えると、軽い処分と言えるかもしれない。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 日本や中国と比べて「裸」に対する抵抗感が強いお国柄だけあって、前代未聞のストリーキング事件の噂は、あっという間に郡内に広がった。「息子が死ぬと言われたのだからしょうがない」「いや、たとえそうでも、あまりにもバカバカしい厄払いだ」などと、賛否が入り混じり、噂がどんどん広がっていった。

 キムさんの取り扱っていた材木の値段は急落してしまった。郡内の家具店には、「先日買った家具は、迷信を信じて息子を裸で歩かせたあの女のところの材木で作ったものじゃないだろうな」などと、問い合わせが殺到し、難儀させたという。

 それから1年が経ったが、あまりにも衝撃的な事件だけに、未だに住民の間で話題になっている。その後の息子の安否は伝わっていないようで、「厄払いをしなければ死ぬと言われていた、あの息子はまだ生きているのか」などと噂されているとのことだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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