オスプレイをスペインに配備 米海兵隊の空挺軍化が進む
緊急危機対応型オスプレイ空中騎兵隊構想
3月20日、アメリカ海兵隊のマシュー・グレイビー准将はバージニア州の講演で全く新しい独立戦闘単位を提唱しました。兵員数500人と小さな部隊で、揚陸艦に頼らずオスプレイと空中給油機による空中機動で成立させる有事即応部隊です。昨年9月にリビアで米大使が殺害される事件に対応出来なかった反省から、緊急的に対応できる部隊として用意される事になりました。そして4月24日、第一陣がスペインのモロン空軍基地に到着しています。
この緊急即応部隊は6機のMV-22Bオスプレイと2機のKC-130J空中給油/輸送機で構成され、出動命令から6時間以内に出撃態勢を整え、12時間以内に500人の海兵隊戦闘部隊を危機点に進出させます。ライフル兵の他に最大火力は120mm迫撃砲が用意出来ます。オスプレイの機内には120mm迫撃砲と汎用車両グラウラーITVを収納可能です。スペインには米本土東海岸の部隊が持ち回りで交代しながらローテーション配備される事になるでしょう。海兵隊ですが上陸作戦を行わず揚陸艦が不要な編成で、オスプレイを用いた空挺部隊、それも特殊部隊に近い運用になります。
カナダのセントジョンズ国際空港は北米大陸で最も大西洋側に突き出しており、大西洋を横断する際の北米側出発点となっています。オスプレイは長距離展開においても揚陸艦を必ずしも必要としません。
ヨーロッパには今年中に空軍特殊作戦型CV-22オスプレイがイギリスのミルデンホール空軍基地に配備される予定でしたが、それより先に海兵隊のMV-22オスプレイがスペインのモロン空軍基地に配備される事になりました。どちらも似たような性格の任務に投入される部隊になりますが、ミルデンホールのCV-22オスプレイ空軍型は予め準備した特殊作戦を実行する先制攻撃型の特殊部隊であり、モロンのMV-22オスプレイ海兵隊型は突発的な緊急事態に対処する受け身型の自国民救出部隊であると考えると、役割が分担されている事が分かります。後者の任務は事態の推移によって増援が必要になる場合もあり得るので、特殊作戦軍よりも纏まった数を送り込める海兵隊が適しています。
この海兵隊の新構想は配備先候補としてスペインのモロン空軍基地以外にイタリアのシニョネッラ海軍航空基地の名前も上がっており、将来的には更に配備先が増えるかローテーションで部隊が頻繁に移動展開して来る可能性もあります。
海兵隊を空挺軍に変えるオスプレイ
これまで海兵隊の主力であったCH-46ヘリコプターは航続距離が短く、長距離展開には揚陸艦に搭載して運用する事が必要でした。その後継となる全く新しいティルトローター機MV-22オスプレイは、ヘリコプターを大きく上回る航続距離を持ち、揚陸艦を用いずとも長距離展開する事が可能となりました。これは海兵隊の性格が大きく変わった事を示しています。
海兵隊は上陸作戦を専門とする部隊ですが、大規模な上陸作戦は朝鮮戦争を最後に60年以上発生しておらず、陸軍と同じような任務ばかり行ってきました。そうなると海兵隊の存在意義が疑われ、陸軍に吸収してしまおうという意見も出てきます。そういった動きに対して海兵隊が陸軍との差別化を図った切り札がオスプレイでした。海兵隊はオスプレイを主力機とする事で「海兵隊の空挺軍化」を行い、自らの存在意義を作り出したのです。開発が難航したオスプレイを陸軍が配備を中止する一方で海兵隊が強力に推し進めていた理由はこれでした。ヘリコプターでは大西洋横断など不可能ですが、オスプレイなら可能となります。大規模な作戦では揚陸艦が必要な事に変わりはありませんが、頻発する小規模な危機に対して海兵隊はオスプレイで真っ先に飛び込んで行く事になるでしょう。