「Rikkyo Indie Game Demo」が示すユニークなゲームアーカイブの方法論
インディゲームをどのようにアーカイブするか
「スーパーマリオブラザーズ」をはじめ、数々のヒットゲームの生みの親として知られる、任天堂フェローの宮本茂氏が選出された令和元年の文化功労者。これに象徴されるように、日本でも遅まきながらゲームを文化として捉える見方が広がっている。そこで重要になるのがゲームのアーカイブだ。文化庁主導でメディア芸術データベースのウェブ公開も行われているが、こちらは過去作が中心。アプリやオンラインゲームのように実体のないゲームのアーカイブについては、まったく手が着いていないのが現状だ。
こうした中、インディ(独立系)ゲームを中心に、デジタル流通で配信される現代のゲームをアーカイブしていこうとする興味深い取り組みが発表された。立教大学で10月5日に開催された「Rikkyo Indie Game Demo 1.0」と、そこであきらかにされた立教ゲームアーカイブ&ラボ(RGA)だ。インディゲームの展示イベントを開催し、そこで出展されたゲームをアーカイブ化していく試みで、当日は14本のデジタルゲームと2本のアナログゲームが出展され、学生やゲーム開発者で賑わった。
留学生向けに学内イベントとして開催
本イベントを主催したのは、同大学の経営学部で准教授をつとめるダグラス・シュールズ氏だ。メディアとコミュニケーション分野を専門領域とし、デジタルメディアの制作・流通・消費に関する研究を行っている。そこで目をつけたのが日本のインディゲームというわけだ。シュールズ氏の個人サイトにはイベント概要に加えて、日本のインディゲーム開発者に対するインタビューや、ゲームのレビュー、体験版などが集められている。また、JRPGやアニメのファンサブに関する、過去の研究論文を閲覧することもできる。
アメリカ出身ということもあり、留学生むけの授業を受け持つことが多いシュールズ氏。そこで上がる定番の質問が、「日本ゲームの日本らしさとは何か」だ。そこでインディゲームのアーカイブを念頭に、留学生を主な対象者として、日本のインディゲームを紹介する学内イベントが企画された。それが「Rikkyo Indie Game Demo 1.0」となる。イベントは終始和やかな感じで、じっくりとゲームを遊び込む参加者も見られた。出展側からも「ふだんの展示会と違い、新鮮な意見がもらえた」などのコメントが聞かれた。
東京ゲームショウやビットサミットなど、近年では日本でもインディゲームの展示イベントが増加中だ。しかし、大半のイベントは参加者が多すぎたり、ゲームの販売を目的としていたりする。そのため、よく言えば活気がある、悪く言えば殺伐としているものが多い。こうした中、ボードゲームの試遊展示まで飛び出した「Rikkyo Indie Game Demo 1.0」は、ゲーム本来の楽しさが十分に味わえるものになったといえるだろう。
研究のベースとなるデータベースを作る
学生時代にファンが翻訳した『ファイナルファンタジー』シリーズをプレイして、言語と社会の関係に興味を持ったというシュールズ氏。「北米で発売された公式版では、キャラクターが酒場でビールを飲むシーンで、飲み物の名前が牛乳に変えられていたことを知りました。こうした文化の違いが、ゲームとファン文化について研究するきっかけになりました」。2008年に初来日し、コミックマーケットを調査した際、インディゲームが販売されていたことに驚いたという。2011年から立教大学で教鞭を執り、現在にいたっている。
シュールズ氏は「大作ゲームに関する研究は多いが、インディゲームに関するものは少ない。いわんや日本のインディゲームとなれば、その数は一気に減少する」と指摘する。背景にあるのが、インディゲームのデータベースが存在せず、ゲームの情報が散逸しがちな点だ。だからこそ、今回のような展示イベントとデータベース制作の相互展開を今後も続けていきたいという。次回のイベント開催は未定だが、今後の展開を期待したい。(撮影・取材協力:神山大輝)