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1941年9月29日フランス生まれアウシュビッツのガス室で殺された赤ちゃん:生きてたら80歳の誕生日

佐藤仁学術研究員・著述家
(アウシュビッツ博物館提供)

110万人が殺害された絶滅収容所

第二次世界大戦時にナチスドイツが支配下の地域でユダヤ人を差別、迫害して約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。そのホロコーストの象徴的な存在の1つがアウシュビッツ絶滅収容所。アウシュビッツ絶滅収容所では欧州からのユダヤ人やロマ、政治犯ら110万人以上が殺害された。

アウシュビッツ絶滅収容所は現在でも世界中からの観光客や欧米、イスラエルの学生らが社会科見学で訪問しており、2019年には過去最高の230万人以上がアウシュビッツ絶滅収容所を訪問していたが、2020年は世界規模でのパンデミックの影響で、アウシュビッツ絶滅収容所博物館も一時閉鎖しており、昨年の訪問者数は52万人程度だった。最近ではオンラインやバーチャルでの展示にも注力している。それでも現在でもアウシュビッツ絶滅収容所は世界的な観光名所の1つである。

そして、アウシュビッツ博物館ではツイッターでも世界中に向けて、様々な情報発信を行っている。世界的に根強い反ユダヤ主義に対しても警鐘を鳴らすツイートも多い。

アウシュビッツ博物館のツイッターの特徴は、毎日、アウシュビッツ絶滅収容所で犠牲になった方々の誕生日や殺害された日に、彼らの写真とともに生まれた場所、いつ殺害されたかを投稿している。110万人以上が殺害されたアウシュビッツ絶滅収容所なので、毎日誰かしらの誕生日であり、毎日誰かしらが殺害されたり死亡していた。

映画「シンドラーのリスト」でも、ユダヤ人の名前と囚人番号などをナチスドイツの親衛隊やユダヤ人警察が丁寧に聞き取って、書きとっているシーンを見たことがある人が多いだろう。ナチスドイツは逮捕して収容したユダヤ人のリストを緻密に作成していた。ナチスは敗戦が色濃くなると、多くの書類を焼却したり絶滅収容所の施設を破壊しようとした。それでも残った犠牲者の情報や写真、データはきちんと保存されており、デジタル化されて、戦後70年以上が経過した現在、ツイッターを通して後世に伝えられている。

生きていたら80歳の元気なフランスのおじいちゃん

そして2021年9月29日のアウシュビッツ博物館のツイッターでは、1941年9月29日にフランスのマルセイユで生まれたユダヤ人のジャック・アタスちゃんを紹介していた。アタスちゃんは1943年12月にアウシュビッツ絶滅収容所に移送されて、到着と同時に「選別」されてガス室で殺害された。既に生まれた時から不穏な雰囲気のフランスでのアタスちゃんの貴重な写真が投稿されている。ある程度の年齢にいってから殺害された人たちは、職業や卒業した学校、家族関係なども記録されていることも多い。だが2歳の赤ちゃんには、そのようなパーソナルヒストリーは残っていない。ユダヤ人でさえなければ、殺害されることもなく、2021年9月29日には80歳の誕生日を迎えた元気なフランスのおじいちゃんだったかもしれない。ただ両親がユダヤ教を信じていただけで何の罪もなかった。女の子の場合はキリスト教徒の人に頼んで助けてもらうことも多かったが、ユダヤ人の男の子は割礼をしているので発覚されやすかった。ユダヤ人を匿っているのが見つかったら、助けた人も罪に問われたので男の子を引き取ってくれるキリスト教徒は少なかった。

ナチスドイツのユダヤ人政策は「労働を通じた絶滅」だったので、ユダヤ人は死ぬまで働かされた。そして働けない老人や子供は、収容所に到着してすぐに「選別」されてガス室で殺害された。ユダヤ人らは食事も水も全く与えられずに数日にわたって、立ちっぱなしで貨車に大量に詰め込まれて収容所に移送されていた。そのため多くの子供や老人は、収容所に移送される貨車の中で、飢えや渇き、病気などで死亡してしまっていた。そして、たとえ生きて収容所に到着しても「選別」されて即座に殺害されてしまった。赤ちゃんの多くは貨車の中で死亡してしまった。

また1943年12月時点では赤ちゃんもガス室で殺害されていたが、終戦間際になると赤ちゃんや子供はガス室で殺害するのもコストがかかるので殴られたり、叩きつけられて殺害されていた。

(アウシュビッツ博物館提供)
(アウシュビッツ博物館提供)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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