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【新型コロナ】外出禁止令の英国から、日本の皆さんへ 「ロックダウン(都市封鎖)」になる前に

小林恭子ジャーナリスト
毎週木曜日午後8時、英国民は医療サービス関係者への感謝を拍手で表す(写真:ロイター/アフロ)

 英国には今、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、不要不急の外出禁止令が出ている。レストラン、カフェ、バー、パブ、美術館、図書館、学校、スポーツジムなど多くの人が集まる場所は閉鎖されている(ただし、レストランやカフェなどはテイクアウト専門での営業は可能)。同居していない人と会うことも禁止だ。

 不要不急ではない外出や集会は、場合によっては罰金措置の対象となり、警察官の姿を路上でよく見かけるようになった。

 英国は、いわば「ロックダウン(都市封鎖)」状態にある、といってよいだろう。実際に、メディアではこの言葉がよく使われている。

 しかし、この「ロックダウン」という言葉は「ほかの地域・人との一切の連絡を絶つ」という印象を与えるため、新型コロナの感染者が増えつつある東京、あるいは日本の他の地域に住む方は「もしそうなったら、ものすごいこと(怖いこと)が起きるぞ」と心配をしていらっしゃるのではないだろうか。

 実は、「ものすごいこと」、「怖いこと」が起きるのは、感染が拡大して死者数が急増し、医療体制や都市機能の崩壊が始まったときだ。このような状態にならないための防止策がロックダウンなので、これ自体を怖がる必要はないだろう(ただし、経済への影響は多大となる可能性があり、この点を忘れてはいけないが)。

 英国で今、何ができて何ができないのか、そしてもし日本でロックダウンとなった場合に気に留めておいた方がいいかもしれないことを書いてみたい(追記:「ロックダウン」の定義はさまざまであることに注意したい。日本では、政府が「緊急事態宣言」を出す状況には至っていないと述べている。NHK報道、4月3日)。

できること、できないこと

英政府がロックダウン下でのできること・できないことを明記している(政府ウェブサイトより)
英政府がロックダウン下でのできること・できないことを明記している(政府ウェブサイトより)

 まず、大原則は「自宅にいること(Stay at home)」である。

 これは新型コロナに感染しているかもしれない人からウイルスをうつされないようにするため、あるいは自分が持っているかもしれないウイルスをほかの人にうつさないようにするためだ。したがって、ほかの人との接触を極力減らさなければならない。

 

 外に出かけるのが許されるのは、食料を調達するあるいは医療サービスを受けるためか、仕事に出かけるため(自宅勤務がどうしてもできない場合)。

 そのほかには1日1回、運動(走る、歩く、自転車に乗るなど)をするために戸外に出ることは許される。

 外に出たら、ほかの人とは2メートルの距離を置く。

 頻繁に手を洗う。

 同居している家族以外の家族(別のところに住む親など)や友人に会ってはいけない。

 交際中でまだ一緒に住んでいないカップルの場合、しばらく直接は会えないことになる(この際、一緒に住むことを決めるのも「アリ」かもしれないが!)。

 (詳細はこちらから

どんなお店・サービスが開いているか

 閉鎖令が出ているのは、先に書いたがレストラン、カフェ、バー、パブ、美術館、図書館、学校、スポーツジムなど多数の人が集まる場所。

 逆に何が開いているかというと、食料や日用品を売るスーパーや八百屋など、新聞やたばこ、お菓子・飲み物などを売る「ニュースエージェント」と呼ばれる雑貨屋、郵便局、銀行(オープン時間は短くなっている)、鉄道やバス(運行サービスは縮小)。

 電話やインターネット、郵便サービス、宅配は今までと同じだが、ネットショッピングが増えたので、配達に時間がかかっている。

どのような生活の流れになるか

 仕事がある人は、これまでのように交通機関を使って、仕事場に行く。

 しかし、自宅勤務へのシフトが奨励されているので、これを機会に自宅で働く人が増えている。

 自宅勤務の場合、ネットを使って仕事をこなすことになる。仕事専用の部屋がない場合、台所や居間の片隅でラップトップを開くことに。

 子供がいる家庭は、子供をどうやって遊ばせるか、あるいは勉強をさせるかが課題になる。親が医療関係者やどうしても外に働きにいかなければならない職に就いている場合、子供を学校に行かせる場合もある(すべての学校が休校となっているわけではない)。

 日中は、通常の週末での時間の過ごし方に似ているが、レストランや映画館、遊園地など商業施設が閉まっているので、できることは

 -家の中で遊ぶことを探す(テレビや動画サービスを利用する、音楽を聴く、本を読む、ゲームをする、料理など)

 か、

 -戸外で遊ぶ(歩く、ジョギング、サイクリングなど)

 が中心となる。

 そのほかは、

 -買い物に出かける

 が、結構、大きなイベントになる。

買い物はどんな感じ?

 買い物はスーパーに行く人が多いが、店内に入れる人数に制限があり、まずは入り口に列を作り、それぞれ2メートルずつの距離を置く。買い物用かごに消毒用スプレーがふきかけられ、入り口に置かれている場合もある。中に入ると、トイレットペーパーも含め、大体のものはいつも通りに揃っている。

 高齢者は列に並んでいても、ほかの人が「どうぞお先に」と言ってくれることが多いという。ほとんどのスーパーが高齢者の買い物用の時間を設定している(例えば開店から1時間)。

 最後、レジの利用では、レジにいる店員が透明なガラスを客との間に置き、手袋をしている場合もある。

テレビでコロナのニュースを追う

 気になるのは、感染がどれぐらい拡大したか。

 毎日、午後5時ごろから、閣僚と科学顧問、医療関係者の記者会見があり、これがテレビ放映されるので、多くの人がこれに合わせてテレビの前に座る(あるいは、見逃し視聴サービスを使って後で見る)。

 連日、どれぐらいの人が検査を受け、何人が感染者となり、死者数がどれぐらいかが発表される。

 記者会見は官邸で行われるが、報道陣は画面を通じて質問をする、「リモート会見」となっている。

毎週木曜日の午後8時に拍手

 先週の木曜日から、午後8時に外に出て、医療サービスに従事する人へ感謝の意を込めて拍手をするイベントがある。

 筆者の家庭もこの日、庭に出て、拍手。近所の家からもベランダや芝生に出て、拍手や喝さいをおくった人たちがいた。

 テレビも、午後8時から数分を拍手の時間にあてている。英国各地で拍手をする人々の映像が映る。

 その後、夜はそれぞれ、これまでそうしてきたように夕ご飯の後片付けやテレビを見たり、ゲームを楽しんだりしながら、時を過ごす。

良かったこと、悪かったこと

 「自宅にこもる」作戦は、感染拡大を防ぐための戦略だが、もちろん、このようなことをしなくても済むように事態が展開するのが最善だ。

 しかし、ワクチンがない状態ではこうやって感染を防ぐしかない…という気持ちで国民は政府の方針に従っている。

 それでも、互いに助け合う習慣が日々の生活の少々の窮屈さを和らげてくれる。

 ただ、大きな「悪かったこと」は、これを機に職を失った人、職を失いそうになっている人など、収入が激減する人が出てしまっていることだ。3月中旬からの2週間で、「ユニバーサルクレジット」という失業保険を含む社会保険手当を約50万人が申請したという。

 通りを歩けば、のんびりと散歩をしている人々に出会い、「いかにものどかな日曜日」といった光景だが、実情は「来月からの家賃や支払いをどうするか」で悩む多くの家族がいる。

日本の皆さんへ

 最後に、ロックダウン状態になっていない日本の皆さんにいくつかの点をお勧めしておきたい。

 封鎖前にやっておいたほうが良かったこと:

 備えあれば、憂いなし。「買いだめ」の必要はないが、一通り、生活必需品で不足のものはないかを見直しておく。封鎖が開始されると、一時的にパニック買いが起きる。しばらくするとこれは止まるが、それでも、手元に十分な物資があれば心配することはない。

 できれば、現金からカード決済に移行する。現金はいろいろな人の手を渡る。自分のカードは機械にタッチするだけだから、小売店側がカード決済の方を希望する場合が出てくるかもしれない。実際に、英国の小売店はそうである。

 もし自分が感染して、休業する必要がある場合、どんな支援を受けられるのかを調べる。あるいは、企業の経営者側はコロナ関連の休業補償や一時解雇の場合の労働者の権利、経営者の義務などを確認・整備しておくことをお勧めしたい。

 何を買っておけばよかったか

 当初、パニック買いが発生し、トイレットペーパーや消毒スプレー、液状せっけんが棚から消えた。たくさん買っておく必要はないが、通常より1パックぐらい多く常備しておいてもよいだろう。覚えておくべきことは、「少し待てば、また棚に戻ってくる」だ。

 いまこのグッズが役立っている

 隣人や友人からもらった、消毒液がついたふき取りペーパーや、手に吹きかけるだけで消毒できるスプレー。20秒間、手を洗うように言われているものの、この「20秒」が意外と長かったりする。スプレーをさっと吹きかけるなら、それほど時間がかからない。ただし、手洗いも忘れないようにすることだが。それと、宅配サービスに時間がかかるようになるだろうから、将来必要と思われるものは、今注文しておいてもよいだろう。

 最後に:

 冒頭にも書いたが、ロックダウンの生活自体を恐れることはない。電話、インターネットがあれば、大概のコミュニケーションは可能だ。これを機会に物を買わない生活、戸外でのお金のかからない運動を始めることもできる。

 また、心身の健康を保つために、「スイッチオフの時間を持つこと」

 いったんロックダウンになると、コロナ関連のニュースを追う頻度が高くなりがちだ。その内容は重いものが多い。

 知らず知らずのうちに、気が沈みがちだ。これが連日続くと、まいってしまう。そこで、自分なりの「スイッチオフ」の時間を設けることだ。例えば、筆者は夕方の記者会見と、これを振り返る午後7時のニュースを1時間ほど視聴した後は、しばらく別のことをするようにしている。

 覚えておくべきことは、ロックダウンの目的だ。「自分が感染せず、他人を感染させない」ための措置、なのだ。

 みんながこれを守ってこそ、感染防止策として効いてくる。

 ただし、仕事がなくなることによる経済上の打撃は大きい。感染が収まったとしても(いつ収まるかはわからないが)、その後の経済上の打撃は長く、かつ非常に大きいといわれている。様々な形の補償がどれぐらい受けられるのか、調べておくことが必要だろう。

***

 

 (追記:4月3日の会見で、東京都の小池知事は「国が、緊急事態宣言を行った場合」、都が「特別措置法に基づいて外出の自粛を要請する」こと、「施設、そしてイベントの主催者」には、「使用の制限、停止などを要請する」と述べている。また、「食料品、医薬品などの生活必需品の販売」や、金融サービスなど、「社会や経済生活を維持する上で必要なサービス」は営業が続行される見込みという。)

 

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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