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「北朝鮮を容赦しない」一般教書演説で見せたトランプ大統領の「本気度」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
国連安保理理事国15か国に北朝鮮問題で協力を呼びかけたトランプ大統領

 トランプ大統領は大統領就任後初の一般教書演説で外交問題の解決策として「力による平和」を強調していた。とりわけ、当面の標的である北朝鮮については7度にわたって言及し、批判を展開し、金正恩政権を圧迫していた。

 昨年のように「北朝鮮が米国を脅かすなら今すぐに世界が見たことのない火炎と激しい怒りに直面するだろう」とか、国連演説での「米国と同盟を防御すべき状況になれば、他の選択の余地なく北朝鮮を完全に破壊するだろう」との威嚇的な言葉を使用しなかったことから韓国のメディアは総じて「節制された」と批評していたが、北朝鮮を「堕落した、残酷で無謀な政権」との烙印を押すことには変わりがなかった。

 共和党の先輩大統領のジョージ・ブッシュ大統領は北朝鮮を「悪の枢軸国」と位置づけ、時の権力者・金正日総書記を「ならず者」あるいは「暴君」と評し、また、前任者のオバマ大統領も政権末期に北朝鮮を「地球上で同じように作り出すのもほとんど不可能な最も残酷で暴圧的で独裁体制」と形容し、「このような体制は結局崩れることになるだろう」と酷評していたが、「金正恩政権ほど国民を残忍に圧制する独裁政権はない」と断じたトランプ大統領の北朝鮮認識は歴代大統領の中でも最悪である。

 国連演説でも「不良国家」「犯罪者集団」「完全破壊」「堕落した政権」などの用語を頻繁に用い、昨年11月に訪韓した際も「私がここ(韓国)に来たのは、北朝鮮の独裁体制指導者に直接伝えるメッセージを伝えるためだ。お前が持っている核兵器はお前を守るのではなく、お前の体制を深刻な脅威に陥れているのだ。暗い道に向かう一歩一歩はお前が直面する脅威を増加させるだろう。北はお前の祖父が描いていた天国ではなく、誰も行ってはならない地獄である」と、北朝鮮に「トランプ政権は最も望まないものを身の毛がよだつほど体験することになる。悪夢で思い浮かべた物凄い光景を確実に見ることになる」と激怒させるほどそれは痛烈なものだった。

 トランプ大統領は焦点の北朝鮮の核ミサイルについて「北朝鮮の無謀な核ミサイル開発はかなり近いうちに(very soon)米国脅かす。我々はそのようなことが発生しないように最大の圧迫作戦を展開している」と述べたが、軍事オプションも含めた最大限の圧力を掛ける理由については「私は我々を危険にさらした過去の政府の失敗を繰り返さない」からだと強調していた。

 トランプ大統領は過去にクリントン政権が北朝鮮との間に交わした「ジュネーブ合意」やブッシュ政権下での6か国合意(「9.19合意」)を取り上げ、これら合意はいずれも「米国を危険な状況に陥れてしまった失策」と一刀両断にし、北朝鮮に対する妥協や譲歩は侵略と挑発だけを招くことになる」と述べ、北朝鮮が白旗を上げない限り、北朝鮮との対話、交渉による問題解決に全く関心がないことを「宣言」した。

 「ジュネーブ合意」は1994年10月に交わされたもので重油支援や軽水炉建設など経済支援を見返りに北朝鮮に核施設の凍結、破棄を約束させた。また、「9.19合意」は2005年9月に米朝と日韓、それに中露の6か国による共同声明という形式で発表されたものでこれまたエネルギー支援や人道支援を担保に北朝鮮に核放棄を約束させていた。

 トランプ大統領の一連の強硬発言に対して北朝鮮の労働新聞は昨年11月21日付に「トランプは共和国の法に従って最高の極刑に処さねばならない」と言及していたが、今回のトランプ大統領の発言を見る限り、韓国の文在寅大統領が描く平昌五輪後の米朝対話の可能性は望み薄である。

 マクマスター大統領補佐官は昨年12月、CBSとのインタビューで「核を持った北朝鮮との共存は堪えられない」と語ったほか、今年もVOAとのインタビュ―(1月3日)で平昌五輪への参加表明など柔軟姿勢を示した金委員長の新年辞について「新年辞を聞いて安心する人がいるとすれば、正月にシャンペーンを飲みすぎたからだろう」と述べた上で「経済制裁がうまくいかない場合の次の選択は何か?」との問いに「軍事選択も含まれる。これは秘密でも何でもない。北朝鮮政権の協力をなく北朝鮮の非核化を強制的に導く」と北朝鮮への武力行使を示唆していた。

 トランプ大統領は「南北対話が行われている間はいかなる軍事行動もとらない」と文大統領に約束しているが、平昌五輪(2月9日―2月25日)とパラリンピック(3月9日―3月18日)が終了すれば、米韓連合軍は合同軍事演習に突入する。

 北朝鮮は平昌五輪の前日の8日に軍事パレードを予定しているが、北朝鮮が昨年11月29日に「発射に成功した」と豪語した米本土攻撃用のICBM「火星15号」を数基でも登場させれば、トランプ政権は「生産、配備の段階に入った」とみなし、米国の軍事オプションが作動するかもしれない。

 米紙「ニューヨーク・タイムズ」(1月14日付)は「米国は静かに北朝鮮との戦争準備を進めている」と報じていたが、すでに原子力空母「カールビンソン」も朝鮮半島に向かっており、米特殊部隊も五輪期間中に韓国に「潜入」している。グアムには米本土から核戦略爆撃機「B-2]が3機、「B-52」6機がすでに配備されている。

 平昌五輪後に何が起きるのか、早くも祭りの後が心配になってきた。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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