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ここまできたら、消費税引き下げしかない

前屋毅フリージャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

きょう(16日)の「働き方改革実現会議」で麻生太郎財務相が、中小企業の賃上げをうながす減税制度の拡充を表明するという。昨日(15日)付の『日本経済新聞』(電子版)が報じたが、その記事では、11月下旬から本格化する与党税調を前に「財務相が具体的な税制の見直しについて表立って言及するのは異例」という政府関係者のコメントを紹介してもいる。

そんな異例なことをやる理由は明白で、「口先効果」を狙っているからだ。賃上げ減税を口にすることで、賃上げムードを盛り上げようとしているようにしかおもえない。

裏を返せば、口先効果を期待するしかないほど、賃上げ減税の効果があるとは財務省も考えていない、ということだろう。

賃上げ減税とは2013年度から導入している「所得拡大促進法」のことで、企業の規模を問わず、2012年度の給与総額にくらべて一定基準を上まわる賃上げをした企業を対象に、賃上げ総額の10%を法人税の納付額から差し引く制度だ。この制度を企業が利用した件数は2014年度で約7万8000件あったという。

にもかかわらず、消費が伸びていないのが現実だ。11月14日に発表された今年7~9月期の個人消費も0.1%増と前期と横ばいで、アベノミクスが目標に掲げる「消費者物価上昇率2%」は、まったく視野にはいってきていない。

賃上げをすすめることで消費拡大を狙ったのが所得拡大促進法だったはずなのに、その効果はなかったというわけだ。にもかかわらず政府・財務省は、まだ、この制度にしがみつこうとしている。

2014年度で7万件を超える利用があったといっても、日本に約420万社もある企業のうちの7万社あまりが利用したにすぎない。それほど賃上げできた企業は少なかったわけで、これでは消費全体が伸びるはずがない。

そこで今回、麻生財務相が表明する拡充策は、「中小企業」に対しては減税率を10%から20%に2倍にするというものだという。減税率を倍にするから賃上げしろ、というわけだ。

しかし、10%だろうが20%だろうが、賃上げできるなら賃上げしているはずである。10%であっても、もっと賃上げする企業が多くてもよかったはずである。それだけの利用しかなかったのは、賃上げできる余裕のある企業が少なかったからにほかならない。中小企業になれば、なおさら賃上げできる状況にはない。

麻生財務相の表明を前日に報じた『日経』の記事も、最後には「ただ雇用の受け皿となっている中小企業では賃上げの余力がない企業が多い。今年に入り、収益が悪化している中小企業が増えている」と指摘している。異例の財務相表明を報じたものの、その効果については期待していない書きぶりだ。

政府・財務相とて同じだ。効果が期待できないからこそ、財務相が異例の表明をしてムードだけ高めようとしているにすぎない。それでも、無い袖は振れぬ、のだ。

企業に賃上げを無理強いしたところで、消費が伸びるほどの賃上げにつながる可能性は、ほぼない。そんなに消費を伸ばしたければ、消費税を引き下げるしかないだろう。消費税を上げることばかり考えないで引き下げれば、賃上げを無理強いするより、よほど大きな効果が期待できるはずだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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