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安倍外交の“真っ黒”な「実績」-国葬に相応しいのか?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
安倍晋三首相(当時)が演説 温暖化防止の国際会議COP21にて(写真:ロイター/アフロ)

 今月8日、奈良県での遊説中に銃撃を受け、亡くなった安倍晋三元首相。岸田内閣は同22日、今年9月に安倍元首相の国葬を行うことを閣議決定した。その理由として、岸田首相があげたものの一つに、安倍元首相が「強いリーダーシップで外交で大きな貢献を果たした」というものがある。だが、本当に安倍外交は日本にとって「大きな貢献」だったのだろうか?少なくとも、今や国連会合やG7サミット等で、毎回のように最大のテーマとなる温暖化対策に関して言えば、安倍元首相の「実績」は惨憺たるもので、日本の国際的な地位を大きく引き下げたと言える。

〇石炭火力を推進、温暖化対策に逆行

 温暖化防止策の中でも最も優先順位が高いのが、石炭火力発電の廃止だ。石炭火力発電は温室効果ガスであるCO2を大量に排出し、高効率型のものであっても、天然ガス火力発電に比べ、CO2排出係数は約2倍だ。ところが、安倍政権は、2013年6月14日にまとめた経済戦略「日本再興戦略-JAPAN is BACK」で、

  • 高効率火力発電を徹底活用、国内で率先して導入するとともに、世界へ積極的に展開
  • 発電所の建て替えや新増設での環境アセスメント審査期間を短縮、投資環境を整備
  • 火力発電の技術開発支援

などの石炭火力推進策を決定。さらに、2014年4月11日閣議決定したエネルギー基本計画で、石炭火力を「重要なベースロード電源」と位置づけた。そうしたこともあり、日本の石炭火力発電は、2013年6月以降急増。現在まで30基を超える石炭火力発電が新たに運転開始した。また、石炭火力発電の海外への輸出を成長戦略とする安倍政権の下、国際協力銀行(JBIC)や国際協力機構(JICA)が旗振り役となり、メガバンクや大手電力、商社などを巻き込んで、東南アジアなどでのメイドインジャパンの石炭火力発電の計画推進が行われた。

 こうした安倍政権の国内外での石炭火力推進は、脱石炭を目指す世界の流れに逆行し、強い反発を招いてきた。温暖化防止に関する国際会議の度に、日本は批判の対象となり、また、大気・水質汚染などの懸念から、東南アジアでの石炭火力発電の予定地でも日本に計画の撤回を求める声が住民達からあがったのである。

〇国際社会からの安倍政権への批判

 2016年11月にモロッコで開催されたCOP22(国連気候変動枠組条約第22回締約国会議)では、温暖化防止を求める世界最大規模のNGOネットワーク「CAN」が、温暖化対策に後ろ向きな国に送る不名誉な賞として、「化石賞」を日本に授与。これは安倍政権の下での国内外の石炭火力発電の推進を「クレイジー」(正気でない)と批判するものだった。これ以降も、毎回、COPの度に日本は化石賞を「受賞」してきた。

 2017年3月には、JICA主導の「インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業」に対し抗議するため、建設地周辺の住民達や彼らを支援する現地NGOが来日。同事業への日本からの公的融資の停止を求める要望書には、世界47カ国の280団体が署名した。

 2019年4月には、国内外51の環境団体が英紙「フィナンシャル・タイムズ」に、安倍晋三首相(当時)に対し温暖化対策を強化し石炭火力から脱却するよう求める意見広告が掲載された。

 同年9月の国連気候変動サミットでは、環境NPO「オイル・チェンジ・インターナショナル」が安倍晋三首相(当時)を模した風船人形ともに抗議。同団体首席アナリストのアレックス・デュカス氏は「いまだに石炭火力発電所にこだわっているのは先進国で日本だけ」と批判した。

 同じく、国連気候行動サミットでは、安倍晋三首相(当時)自身も参加し演説することを打診していたが、国連側から断られる有様であった(安倍政権側は報道を否定)。

 同年12月4日、温暖化による海面上昇の影響が深刻な島国マーシャル諸島の大統領が安倍首相(当時)に宛てて、石炭火力発電からの脱却を求める書簡を送った。

 2020年5月には、ベトナムで計画中のブンアン2石炭火力発電事業に関し、40カ国異常の環境NGOなど127団体が安倍晋三首相(当時)や、事業に融資するJBIC及びメガバンクに事業からの撤退を求めた。

 例をあげればキリがないが、温暖化防止において安倍元首相ほど国際社会の中で悪目立ちした日本の政治家は他にいないだろう。今は、「気候危機」とも言われる温暖化の進行をいかに食い止めるかは、人類の存続をも左右しかねない全世界的な課題である。そうした重要テーマで、石炭まみれの汚点を日本の外交に残した安倍政権を「強いリーダーシップで外交で大きな貢献を果たした」と評価すべきなのだろうか。政府与党だけでなく、メディアにも安倍政権の「実績」を美化するような傾向があるが、故人の非業の死を悼み、暴力を批難することと、故人を過度に美化し、その負の面がなかったことにすることは全く別である。ロシアによるウクライナ侵攻を受けてのエネルギー危機を受けてなお、否、それだからこそ、脱炭素と再生可能エネルギー中心の社会の実現は、これまでに増して重要である。冷徹な目で、安倍政権以降の日本のエネルギー政策の問題点を直視すべきだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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