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英下院委員会が「フェイクニュース」中間報告  ――ソーシャルのプラットフォームに責任を問う

小林恭子ジャーナリスト
「フェイクニュースは『民主主義や価値観に対する』潜在的脅威」英下院委員会の報告書(写真:ロイター/アフロ)

 (新聞通信調査会が発行する「メディア展望」9月号掲載の筆者コラムに補足しました。)

 9月28日、フェイスブックの利用者5千万人の個人情報がハッキングによって流出したことが発覚した(FBにハッキング、5千万人の情報が危険な状態に 他サイトのアカウントも)。

 フェイクニュースについて調査を続けている英下院の文化・メディア・スポーツ委員会のダミアン・コリンズ委員長は、「これまで再三依頼しているように、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOにはぜひ委員会の公聴会で事情を説明してもらいたい」とツイートした。

 委員会は今年7月29日、「偽情報と『フェイクニュース』についての調査報告書」(中間報告)を発表している。フェイクニュースが社会に与える影響や、民主主義が今後どうなっていくかを調査したもので、英米両国でメディア関係者、監督組織、テクノロジー企業の経営幹部など61人を召喚して事情を聞き、150を超える参考文書の提出を受けた。現時点での概要を伝えてみたい。

昨年から調査を開始

 対象とした調査項目は「何がフェイクニュースか」、「フェイクニュースが国民の世界観にどのような影響を及ぼしているか」、「年齢、社会的背景、性別などの要素によってフェイクニュースの使い方や反応は異なるか」、「広告の販売方法の変化がフェイクニュースの成長を促したのか」。

 中間報告書の構成は、

 (1)序、これまでの背景(フェイクニュースとは何か)

 (2)テック企業の定義、役割、司法責任

 (3)フェイスブック、GSR(グローバル・サイエンス・リサーチ)社及びケンブリッジ・ アナリティカ(CA)社事件におけるデータ利用

 (4)政治運動

 (5)政治運動におけるロシアの影響

 (6)外国の選挙でのSCL社の影響

 (7)デジタル・リテラシー

 の7章構成となっている(GSR社、CA社、SCL社については後述)。

フェイクニュースは「民主主義への潜在的脅威」

 委員会は、フェイクニュースを「民主主義や価値観に対する」潜在的脅威の1つと捉えている。

 フェイクニュースは「金銭あるいはほかの利を得るために作られ、国家が後ろ盾となるプログラムを通して拡散されるか、選挙に影響を及ぼしたいなどの特定の目的を持っている人々によって、事実を捻じ曲げて広がっている」。

 委員会は民主主義が危機状態にあると認識し、「共有する価値観、民主主義的な組織の品位を守る」ために、何からの行動を起こす「ときが来た」と考える。報告書には次に何をすべきかが記されている。

 委員会の調査はフェイスブック、CA社をめぐる疑惑の発覚に合わせて、臨機応変に進んだ。

 今年3月、英オブザーバー紙や米ニューヨーク・タイムズ、英テレビ局チャンネル4が中心となって、英選挙コンサルティング会社CA社(5月、廃業)がフェイスブックの利用者の個人情報を誤用したとする報道を行った。いわゆる、「ケンブリッジ・アナリティカ事件」だ。

 これまでの報道によると、CA社は2016年11月の米大統領選と、その半年前に行われた英国の国民投票(欧州連合に英国が加盟し続けるか離脱するか)での投票行動に影響を及ぼすために、数千万人分のフェイスブックの利用者の個人データを「不正利用」。データはケンブリッジ大学のアレクサンドル・コーガン教授が開発したフェイスブック用アプリを通じて「吸い上げられた」。コーガン教授がアプリ開発のために設置したのが、GSR社である。

 委員会は、事件の関係者を公聴会に召喚し事情を聞いた。質疑に応じたのは、元CA社員のクリストファー・ワイリー氏、同社のCEO(当時)アレクサンダー・ニックス氏、コーガン教授など。ワイリー氏は、オブザーバー紙の情報源である、フェイスブックのザッカーバーグCEOも公聴会に出席するよう何度か依頼されたが、同氏は応じなかった。

「情報やニュースに接触する方法が深い意味で変わっている」

 (1)「序とこれまでの背景(フェイクニュースとは何か)」の中に、テクノロジーと人間の関係を考える「センター・フォー・ヒューメイン・テクノロジー」のトリスタン・ハリス氏の言葉が引用されている。「フェイスブックの利用者は世界で20億人。キリスト教徒の総人口とほぼ同じだ。ユーチューブの利用者18億人はイスラム教徒全員の数とほぼ一致する」。また、先進国に住む人は1日に約150回携帯電話をチェックしているという。

 報告書は、「私たちが情報やニュースに接触する方法が深い意味で変わっている。しかも私たちの大部分が無意識に起きた変化」であると指摘する。

 フェイクニュースとは何か?この言葉には決まった定義がなく、読み手が自分の考えていることにそぐわないニュースをこのように呼ぶこともある。そこで、報告書はフェイクニュースという言葉を使う代わりに「間違った情報・誤情報(ミスインフォメーション)」、「欺くために故意に発信する偽情報(ディスインフォメーション)」という言葉を使うよう推奨している。

テック企業に責任を求める

 (2)「テック企業の定義、役割、司法責任」の項では、誤情報、偽情報が伝播されるのはテクノロジー企業のプラットフォーム上であり、これは「規制がない空間」であることを指摘。個人情報の保護について責任を持つ英規制組織「情報コミッショナーのオフィス」の権限の強化を求めた。

 また、選挙管理委員会の意見を参考にし、ネットを使ったすべての選挙運動はどこの組織が誰の資金で行っているかを簡単に識別できるようにするべき、とした。

 ソーシャルメディアを運営するテック大手に対して、報告書は厳しい姿勢を見せた。

 テック大手が自分たちは「単にプラットフォームに過ぎない」として伝達するコンテンツに責任を持たないやり方はもはや許されないとし、こうした企業に対し、英政府が「プラットフォーム」でもコンテンツの「発行者」でもなく、「新たなカテゴリーを設けるべきだ」という。テック大手はその活動について透明性を欠き、個人情報の保護について不十分であると指摘し、デジタル空間での権利保護のための仕組み作りが必要と述べる。

 特に厳しく批判されたのはフェイスブックだ。

 ミャンマーの少数民族ロヒンギャに対するヘイトスピーチがフェイスブックを通じて拡散され、これが民族浄化行為の発生につながったと報告書は指摘した。テック大手には「グローバルな倫理規定」を設けるよう呼びかけ、もしこれが実現しない場合「政府は倫理規定を強制的に順守させる規制を導入するべき」としている。

 

 (3)「フェイスブック、GSR社及びケンブリッジ・ アナリティカ社事件におけるデータ利用」では事件の一部始終を記し、フェイスブック側の対応が不十分であったために「データの操作、誤情報、偽情報」が拡散されたとして、CA事件の後にも同様の事件が発生したことを記している。

 

 (4)「政治運動」の項では、「政治についての議論を活性化するためにソーシャルメディアが役割を果たすようになったことは知られている」ものの、一人一人の個人に対しほかの人には知られないやり方でメッセージを送ることができるようになってから「まだ日が浅い」。公の場での選挙運動とは異なり、「新たな問題が生まれてきた」。報告書は政府に対し、電子上の政治運動を法律の中で位置づけるよう求めた

 

 (5)「政治運動におけるロシアの影響」の項では他国政府と連携しながら、「ロシアからの政治干渉を防ぐよう」英政府に求めている。

 

 (6)「外国の選挙でのSCL社の影響」のSCLとはCA社の親会社SCLエレクションズ社を指す。

 3月、英メディアは同社がケニア、ガーナ、メキシコ、スロバキアなどの選挙で誤情報、偽情報を流布させ、倫理に反するあるいは違法な行為を行っていた可能性を暴露した。

 報告書はSCL社が複数の国で違法行為の疑いがある活動を行っているとして、その調査は委員会の「対象外」になるため、政府に対し犯罪捜査を開始するよう求めた。

 最後の(7)「デジタル・リテラシー」の項目では、委員会は政府が年内に発表する、インターネットを安全に使うための白書に「リテラシー教育税」の導入を入れるよう提案した。慈善団体や非政府組織が開発するリテラシー教育をこの財源で実施に移す。「デジタル・リテラシーは読み書きと計算に次ぐ、教育の第4の柱だ」。

 7月29日付の社説で、英ガーディアン紙はこの報告書を高く評価した。フェイクニュースがソーシャルメディアを通じて広がる中、何をするべきかが明確に書かれているからだ。フェイクニュース拡散問題において、「中立という選択肢はない」と言い切っている。

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 参考

 英議会の関連サイト

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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