ダイソンドライヤー盗難ホテルへ刑事が…盗んだ客が払った代償とは
そんな甘いものではない
とあるホテル支配人との立ち話に出たダイソンのドライヤー盗難被害を端緒となった盗難被害に悩むホテルへの取材から、前々回の“本編”では不本意ながら盗難防止の仕掛けを施したホテルについて、前回の“続編”では(本編記事の反響なのかは不明であるが)盗んだ者が返してきた話をレポートした。
本編
続編
返してきてくれた、戻ってきた、ノーサイド、めでたしめでたし・・・いやいや、実際の現場はそんな甘いものではない。一連の記事には多くのアクセスをいただいたが、さらに他のホテルからは被害を未然に防げるならとダイソンドライヤー盗難にまつわる情報提供があった。今回は“完結編”として警察の協力のもと犯人に行き着いたリアリティある事例を紹介する(それにしても盗難多しである)。
8000字にも及ぶレポート
ここに8000字にも及ぶレポートの写しがある。ホテルの現場支配人が本社へ送付した、ダイソンドライヤー盗難から警察の協力を得つつ犯人へ行き着く報告であるが、綿密なやりとりが記されている。個人など特定される部分(犯人名・客室番号・警察官名・弁護士名など)は黒塗りにされているものの、ホテル側の了解を得つつ抜粋していくことにする(時系列などわかりやすさという点から一部筆者により修正している)。
発生年月日:202×年×月2日
件名:男性大浴場ダイソンドライヤー盗難について
●×月2日23時/巡回スタッフが男性浴場パウダーコーナーのダイツンドライヤーがすべてあることを確認済み後、盗難発生確認、盗難防止用に施してある、鍵がないと外せない電源カバーが強引に破壊されている。大浴場出口付近の防犯カメラ映像をチェック。23:37にエレベーター付近で不自然なビニール袋を持っている怪しい人物を確認。前後にそのようなゲストはおらず防犯カメラで男性の足跡を追うことに。客室とチェックイン時の映像から人物特定。
●×月3日9時/○○警察署へ相談、警察官がホテルヘ来訪。支配人が被害届を提出、受理、引き続き捜査協力。さらに防犯カメラの映像を提出・分析。深夜ホテル裏口から袋を携えたくだんの男性が外出している模様が。現場確認のため刑事2名が大浴場へ。電源カバーが破壊し持ち去ったことを確認。
●×月3日13時/鑑識が呼ばれ指紋採取。再度監視カメラを確認しつつ大浴場の入室者と退室者を割り出す。容疑者は現在客室におり連泊していることも伝え早く対応していただくようお願いする。
●×月3日14時/正面玄関で待機していた刑事がホテル出てきた容疑者と対面、ドライヤーの件を問うと「借りた」との弁明。任意同行。警察署での聴取によると「ドライヤーは部屋にあるが絶対に入室はしないで欲しい」「明日返却する」と言っていると警察から連絡。逮捕令状は無いため事情聴取後はホテルへ戻ってもらい、翌日9時に再度来署する約束とのこと。
●×月3日16時/容疑者がホテルに戻るのを確認。特にフロントに立ち寄り等は無いが裏口から出入りしている模様。
●×月4日9時過ぎ/警察署から入電。まだ来ていないので容疑者の車があるか確認してはしいとのこと。対象の車が無いことを伝えると防犯カメラで入退館情報の確認依頼をされる。チェックすると黒いスーツケースを持った容疑者が裏口から出ていく姿。カードキーの返却は無し。ホテルへ戻ってきたら連絡が欲しいと依頼される。
●×月5日14時/刑事から入電。逃亡した可能性もあるため逮捕状の手配し逮捕に動くとのこと。客室はそのままにしておくよう依頼される。
●×月6日11時/「○○○号室の者ですが」と容疑者より入電。ナンバーディスプレイで表示された電話番号と符号し確認。「現在○○(離れた観光地)にいるが所用で帰れなくなった」「今日チェックアウトする予定だったが客室に荷物をまとめてあるので出してもらってかまわない」「明日の15時頃取りに行く」といい切電。警察へ報告。「他所へ行っていることは嘘の可能性が高く現在市内で容疑者を追っている」とのこと。
●×月7日9時/刑事より入電。「容疑者が借りている車のレンタカー会社に確認をしたところ7日に返却予定ということで付近にて捜索している」「もしホテルヘ戻ってきたらすぐに電話してほしい」とのこと。「戻ってきた際にそのまま入室させても良いのか」と聞くと「(警察が到着するまで)ロビーで待ってもらうよう促して欲しい」との指示。
●×月7日11時/刑事より入電。容疑者を市街地で確保、警察署へ連行。電源カバーを破損しドライヤーを持ち去ったことを認めているとの連絡。
●×月7日20時/容疑者の代理人という○○弁護士から入電。支配人不在と伝えると翌日再度連絡するとのこと。
●×月8日9時/警察へ弁護士の件を電話報告すると警察も承知しており、弁護活動ということで事実をそのまま話していただいて構わないとのこと。
●×月8日10時/弁護士とは本社対応とし損害賠償請求額を算出。ドライヤー本体、破損されたカバー、入室できなかった(使用可能となるまでの)客室補償分を請求すると弁護士へ伝える。
●×月10日13時/刑事2名来館、捜査令状のもと客室捜索に立ち会い。ドライヤー見つかる。
●×月10日14時/警察から「勾留延長を求める請求が裁判所に却下されたので被疑者釈放となる」との連絡。
●×月10日15時/警察から釈放されたとの連絡。本人か弁護士から連絡または来館があるかもしれないが対応して構わないとのこと。
●×月28日15時/刑事来館。ドライヤーの返却を受ける。本体には大きな傷はないとはいえ強引に奪い取っただろう特にコンセント部分の傷が酷く、ホテル備品として再度の使用は不可と判断。
言うまでもなく代償は大きい
その後、ホテル運営会社から弁護士へ使用不能だった客室代も含め15万9369円の請求書が送付された。容疑者の支払った弁護士費用については不知であるが、金銭的負担も考えるとまことに高く付いた実売価格4万円強のドライヤー窃盗であった。
何より通常のホテル業務外に費やされたホテル側の労力も換算したいところだろうし、警察の手間は行くきつくところ我々の税金である。
このホテルに限らず、別のホテルでの取材ではクッションひとつの盗難でも警察に相談、防犯カメラの映像から捜査され、容疑者へたどり着いた話もあったが、警察とホテルの密な連携を感じる話は多い。
「旅行のスタイルも多様化、ホテルの常識としてこれまでとは想像ができないようなゲストも来訪するようになった。性善説に立ちつつも・・・盗難や窃盗については直ちに警察へ相談するのが一番」という支配人の話が印象的だった。