ダイソンのドライヤー盗難に悩むホテル-本当はやりたくないんですが・・・
ホテルと備品の盗難
仕事柄、取材先のホテルの現場スタッフや支配人と話をする機会を多くいただくが、現場ならではというかリアリティのある話も出てくる。たとえば“盗難“は、ポジティブなムードのホテルにあってネガティブなテーマであり、ホテルとしてはおおっぴらにはできないが、抑止という意味合いもあるだろうか、一般の方にも現場の悩みを知って欲しいと実情を吐露されることも。
ホテルの備品が盗まれるという話は昔から定番の話として聞いたことがある。新たなホテルは全室禁煙が常識といういまにあっては違和感もあるが、遠い昔の記憶を辿ると小学生の頃だったろうか、知人の家にホテル名の入った灰皿があり、いま思えば持ち帰ったホテルの備品だったのかもしれない。いずれにしても極々一部の利用者に当てはまることなのであろう。
備品の持ち帰りは犯罪であるが、持ち帰っていいものとしては、たとえば剃刀や歯ブラシといったアメニティ類はそれにあたる。最近流行の使い捨てスリッパは1度使用しただけでは捨てるに忍びないクオリティーのものもあり、ホテル好きな友人は自宅へ持ち帰って再使用しているとも話す。
ホテルのタオルでいえば持ち帰りNGだが、“布地”というカテゴリーでいえば、旅館名の入った手ぬぐいは「旅の記念にお持ち帰り下さい!」と言われたこともあるし、業態や施設によりどこまでOKかの線引きは異なる。
備品の高級化
ところで昨今、ホテル備品の高級化が著しい。高級ホテルであればいまも昔も当然なのだろうが、宿泊特化タイプのビジネスホテルでも高級化の傾向は進んでいる。客室でいえば大型テレビや高価なコーヒーマシンなどもよく見かけるようになった。近年、ビジネスホテルもローコストタイプとハイクラスタイプの二極化が進んでおり後者のタイプで顕著なようだ。
宿泊特化型ホテルは供給過多のフェーズにあるとされており、こうした高級備品の導入は他ホテルとの差別化ということもあるのだろう。客室のテレビにチェーンが取り付けられているのを見かけたことがあるが、軽量化がすすむテレビにあって実際に盗難されたという話を聞いたことがある。
高級化の傾向における最近の象徴的なアイテムとして「ドライヤー」が思い浮かぶ。それも客室ではなく大浴場のドライヤーだ。大浴場を設ける宿泊特化型ホテルが増加する中で、浴室も脱衣所もスタイリッシュでオシャレなデザインが多い。パウダーコーナーもしかりで、確かに安い簡易的なドライヤーが置かれているのは似合わないイメージだ。
よく見かけるようになったのが「ダイソン」のドライヤー。個人的にはプライベートにおいても全く縁の無い高級ドライヤーであるが人気を博しているという。価格.comで調べてみると最低でも4万円台前半のお値段だ。ビジネスホテルの大浴場でも見かけるようになったが、複数台導入するのも大変だなぁと改めて思う。そしてこちらも盗難の話が耳に入るように。
盗難防止という点でいえば、上の写真のようにコンセント部分がボードの中に収納されており、外からコンセントを外すことができない仕様のパウダーコーナーも見かける。一方、ホテルを建設・新規開業する際に最初からそのように造作するならまだしも、新たに工事するのは毎日営業するホテルにとってハードルは高い。
そのホテルはリゾートもテーマとする宿泊主体型ホテルであるが、ホテルのイメージやゲスト層も考慮しダイソンのドライヤーを導入した。開業して2年半、先日初めてドライヤーの盗難にあったとのこと。さすが人気アイテムなどと感心している場合ではない、脱衣所にはカメラはないがスタッフは定期的に巡回しているので盗難されたおおよその時間は特定できるという。
しかもそれは日中の時間帯、すなわち連泊のゲストか日帰り入浴客ということになる。浴室フロアの廊下やエレベーター前をはじめ、ロビー、駐車場等々防犯カメラがあるので、持ち去った人物についておおよその特定はできるというが、確定させるには警察の捜査協力も仰がなくてはならない。とはいえ不可能ではないという。
ホテル、旅という非日常かつポジティブな場所にして、ゲストが身を置く場所ゆえにホテルとゲストは、性善説とも言うべきある種強い信頼関係で成り立っている。その支配人は「ホテルの雰囲気やイメージからもゲストを疑っているような仕様は避けたいのですが・・・」と言いつつ、不本意ながら盗難防止の金具を取り付けたという。盗難防止を施すことは必須といういまのホテル事情なのか。
※一部を除き本稿の写真は記事になるならとホテルが提供してくれました