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最弱・中国に勝利で残るもやもや。森保ジャパンの現状とは?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

 カタールワールドカップ・アジア最終予選、第2戦。日本は中国を0-1と下している。グループ4位と順位は変わっていない。初戦、ホームでオマーンに0-1と敗れて行く末が危ぶまれていたが、どうにか一息付けた。

 もっとも、世界を相手に戦う覚悟でいるなら、勝って当然の相手だろう。

 中国と戦って、見えた森保ジャパンの現状とは――。

サッカーになっていない中国

「中国は強い」

 試合前にはそんな論調も聞こえたが、まったくの的外れ。予想通り、中国のサッカーは弱かった。一目見たら、分かるレベルだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20210907-00256615

「サッカーを知らない」

 早く言えば、その手のチームである。

 フィジカル、データ信仰が強すぎるのだろう。確かに、すべての選手が屈強な体をしていたし、闘争心の旺盛さは顔つきにまで出ていた。彼らの能力を数値化した場合、世界にも引けを取らないだろう。例えば、身長、体脂肪率、垂直跳び、スプリント数、走行距離。そうした数字では、アジアではトップレベルだ。

 しかし、サッカーはフィジカル・データで勝負が決まるスポーツではない。どこにポジションを取って、どのように周りと連携し、相手のプレーを読めるか。コミュニケーション、駆け引きのスポーツなのである。

 中国は本質的にサッカーを誤っている。

 前代表監督であるマルチェロ・リッピはサッカーのかけらも選手が身につけていないことにがくぜんとしただろう。イタリアの名将でも、何の手も施せずに代表チームを去った。言葉の壁以上の隔たりを感じたはずだ。

 日本戦、中国は5-3-2というシステムを採用していた。オーストラリア戦で4-1-4-1を用いて、守備が崩壊していたからだろう。前半から、穴熊戦法のように自陣にこもった。

 しかしどんなフォーメーションを組もうと、根っこは変わっていない。選手にチャレンジ&カバーの意識が徹底されておらず、マークの受け渡しや攻守の切り替え、あるいはスライドもほとんどできていない。漫然と、後ろで固めて守るだけで、単なる人海戦術。技量も低く、満足にボールをつなげない。戦術的にも、技術的にも拙かった。

 日本が勝ったのは、そんな相手だ。

久保が見せた存在感 

 ともあれ、日本は中国の籠城戦を打ち破っている。持っている武器が違うような強さを見せた。決勝点は象徴的だろう。右サイドの伊東純也がマーカーを置き去りにするドリブルで、ゴール前に入ってきた大迫勇也が足先で合わせる技巧的なシュートで流し込んだ。

 ここ一番、存在感を発揮していたのは久保建英だろう。パス交換のテンポが良く、トップ下に入って、自由に切り崩していた。エリア内に入って、一人外して右足で打ったシュートはポスト直撃も、スキルの高さで中国ディフェンスを手玉に取った。

 決勝点の前、久保はカットインからの左足ミドルでGKを脅かしている。そのこぼれ球からのシュートも決定機過ぎるほど決定機だった(オフサイドで取り消されたが、大迫が外した)。後半に入って伊東から受けたパスからのシュートは阻まれたが(オフサイドで取り消し)、常に攻撃に顔を出し、最後まで遠藤航、鎌田大地に決定的パスを供給していた。

 日本はしばしばライン間にボールを入れ、それをスイッチに、ヒールやスルーなどを使って、守備陣を崩している。そのプレースピードは中国を凌駕。単純なコントロール&キックの質で違いを見せたし、同時に守備の連係もできていて、自由にプレーさせなかった。結果、攻守の切り替えで上回って、波状攻撃も可能にしていた。

 端的に言えば、完勝と言える。

 しかし、喜ぶような要素は少ない。

森保ジャパンの懸念

 後半に入って、日本のプレーの質は目に見えて落ちていた。やはりコンディションが良くないのか。あるいは、チームを活性化させていた古橋亨梧の負傷退場も影響していたかもしれない。パスの精度が落ちたし、ボールを受ける動きが少なくなり、プレスにも行けなくなった。久保が孤軍奮闘。いくつかあった決定機も決められず、流れは悪いままだった。

 厳しく言えば、先制点が遅かったし、追加点も奪えず、危うさを残したままでの勝利と言える。

 選手選考から起用法まで、森保一監督は抜本的に見直す必要があるかもしれない。アジア最終予選は、コンディションが深刻なまでに影響しそうな気配がある。外せない選手はいるが、なぜ固執するのか、わからない選手もいる。例えば古橋は2トップの一角でもよかったし、旬の選手の力を最大限に引き出すべきだろう。後半に差し掛かってペースが落ちるのも気になり、交代策は再考の余地がある。

 チームに新陳代謝を起こさないと、苦境に陥ることになるだろう。

 繰り返すが、グループ最弱の中国に勝って喜ぶ状況ではない。1位のオーストラリアは総合力が高く、2位のサウジアラビアは曲者で、5位で連敗中のベトナムもサッカーの質そのものは中国より上。上位2か国だけがワールドカップに出場することを考えると、甘くはない戦いだ(3位はプレーオフへ)。

 3位のオマーンも伏兵となり得る。4-4-2の中盤ダイヤモンドというユニークな形で、最終ラインは高さを常にコントロールし、前線、中盤が連携。お互いのラインを緊密に保ち、ポジション的優位を保ったことで、攻める側にスペースを与えない。ポジションがいいことで、ボールもつながり、トランジションからのカウンターも徹底されている。サウジには敗れたが、サッカーの匂いはした。

 森保ジャパンは、10月7日に敵地でサウジと戦う。そして12日にはオーストラリアと上位連戦で、前半戦の山場となるか。コンディションの見極めと選手起用法の見直しが必要になりそうだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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