【再突入確認】長征5Bロケット第1段の再突入は現在7月30日~31日中の見込み。予想は最新のものを
2022/07/31 03:15更新【インド洋上空で再突入を確認】
2022年7月31日、米宇宙コマンド(U.S. Space Command)は、中国が7月24日に打ち上げた大型ロケット「長征5号B(CZ-5B)」のコアステージ(第1段)が7月30日16:45UTC(日本時間7月31日01:45)にインド洋上空で再突入したと発表した。その後、ボルネオ島北部のマレーシア領サラワク州付近で再突入した長征5号Bの機体と見られる物体が目撃されており、米国は残骸の落下地点の確認を行っている。正確な落下地点の推定には数時間を要するため、日本時間朝の発表とみられる。
NASAのビル・ネルソン長官は、長征5号Bの地球への落下に際して中国が「詳細な軌道情報を共有しなかった」として責任ある態度を求めるコメントを発表した。
これまでの再突入予測
2022年7月31日ごろ、中国が打ち上げた大型ロケット「長征5号B(CZ-5B)」のコアステージ(第1段)が再突入すると予想されている。米国の航空宇宙シンクタンクAerospace Corporationによる再突入の予想時刻は、現時点で2022年7月31日00:24UTC ± 16時間(日本時間7月30日17:24~8月1日1:24)と大きな幅がある。観測が進むにつれて予測精度が向上するため、最新情報への更新が必要だ。
2022/07/31 01:45更新
米国の18th Space Defense Squadronが運用するSpace-Track.orgによれば、最新の予測では長征5号Bコアステージの再突入予測は2022年7月30日16:50UTC(日本時間7月31日01:50)となった。再突入予測地点はインド洋上とみられる。
2022/07/30 23:30更新
Aerospace Corporation、EU SST共に最新の予測では長征5号Bコアステージの再突入予測は2022年7月30日17:24UTC(日本時間7月31日02:24)となった。Aerospace Corporationは ±1時間、EU SSTは ±58分としており、おおむね日本時間の31日午前1時すぎから再突入ウインドウに入る見込み。
https://aerospace.org/reentries/cz-5b-rb-id-53240
https://www.eusst.eu/newsroom/eu-sst-monitors-reentry-space-object-cz5b/
2022/07/30 20:35更新
Aerospace Corporationが発表した最新の予測によれば、長征5号Bコアステージの再突入予測は2022年7月30日17:15UTC ± 1時間(日本時間7月31日01:15~7月31日03:15)。画像では予想再突入時刻は太平洋上となっているが、「まだ確かな残骸の到達予想地点を決定できる段階にはない」とのコメントがある。
2022/07/30 20:20更新
EU SSTが発表した最新の予測によれば、長征5号Bコアステージの再突入予測は2022年7月30日20:53:53UTC ± 5時間47分(日本時間7月31日00:06~7月31日07:40)。
2022/07/30 13:00更新
Aerospace Corporationが発表した最新の予測によれば、長征5号Bコアステージの再突入予測は2022年7月30日18:16UTC ± 5時間(日本時間7月30日22:16~7月31日08:16)
2022/07/29 22:15更新
EU SSTが発表した最新の予測によれば、長征5号Bコアステージの再突入予測は2022年7月31日02:53:14UTC ± 8時間(日本時間7月31日03:53~7月31日19:53)。
7月24日、中国は宇宙ステーション実験モジュール「問天」を長征5号Bに搭載し打ち上げた。問天は天和コアモジュールにドッキングし、中国独自の宇宙ステーションの構築が進んでいる。一方で、2020年と2021年に引き続いて、大型ロケット長征5号Bの第1段が打ち上げミッションの性質から打ち上げ中に海上に落下せず、軌道まで到達して地球上に落下してくることとなった。長征5号Bの第1段は高さ53.6メートル、約23トンあるとみられる。
欧州の軌道監視協力ネットワーク、EU 宇宙サーヴェイランス・アンド・トラッキング(EU SST)の予想によれば、長征5号Bコアステージは北緯41.47度から南緯41.47度の範囲で再突入するとみられる。この地域は多くが海上または人がほとんど住んでいない地域であるため、落下物による人や建物への損傷のリスクは低い。ただし、レーダーの観測ではコアステージが3.3秒ごとにタンブリング(回転)していることが判明したといい、再突入の不確実性が高まっているという。
大型ロケットの一部など質量の大きな物体の再突入の場合、一度停止したエンジンを再び点火して速度などを制御し、人口密度が低い地域の海上への落下を確実にする。「制御落下」や「コントロールド・リエントリ」と呼ばれる操作だが、実施するためにはエンジンに再点火する機能をロケットが備えている必要がある。長征5号Bはこの機能を持たないため「制御しない落下」とされる。ロケットの飛行計画の段階で再突入までの経路が盛り込まれており、どこに落ちるのかまったく何も予測できないという意味ではない。ただし、地球の大気の状態によって予測と異なるタイミングで再突入する可能性があり、制御されない状態では再突入時のリスクが増す。素材や形状にもよるが、大型の物体の質量の20~40パーセント(長征5号Bでは5~9トン程度)が燃え残って地表に到達する可能性がある。
監視網によって異なる再突入予想時刻
Aerospace Corporationの再突入予測(7月29日)
米Aerospace Corporationによる最新の再突入予測。黄色いアイコンは現在32時間となっている予測ウインドウの中央(7月31日00:24UTC)で再突入した場合の長征5号Bコアステージの位置。オレンジ色の円は目視可能な範囲を示す。
※再突入は高度80キロメートル付近で、さらに軌道に沿って移動するためこの地域の真下に落下するという意味ではないことに注意。
EU SSTの再突入予測(7月29日)
欧州EU SSTによる最新の再突入予測。マーカーは予測ウインドウの中央で再突入した場合の長征5号Bコアステージの位置。
2つの機関で予測が異なるのは、それぞれが持つ観測施設からの情報を予測に反映させているため。現在のところ、再突入地点は比較的近いものの異なっており、一致した見解と言える段階ではない。
再突入予測時刻が収束するのはいつごろか
2021年、同じく中国の長征5号Bコアステージが制御されない再突入を行った際に、EU SSTが示した再突入予測ウインドウの変化を示したのが下のグラフだ。再突入予想時刻が先であるほど不確実性が高くなっている。数時間の範囲で予測可能になるのは実際の再突入の直前で、観測結果から得られた実際の再突入時刻は2021年5月9日の02:32UTC±25分とみられる。
過去の経緯を元に考えると、再突入予測時刻と地点が絞り込まれてくるのは日本時間で7月31日に入ってからと見られる。それまで、特定の地域名を挙げて断定的に何らかの危険が迫っているかのような言説が現れるとすれば、センセーショナルな言葉で注目を集める狙いと疑ってかかってよい。
とはいえ、不確実性が高く、各国にモニタリングの負担を強いるような大型ロケットの再突入を中国が行うのは2020年以来3回目だ。今年10月にはさらなる宇宙ステーションモジュール、2024年には宇宙望遠鏡の打ち上げと大型の打ち上げが続く。情報公開のあり方や根本的なロケットエンジンの機能追加など、軌道上の安全に向けた取り組みを求める建設的な批判はあってよいはずだ。