米政府がターゲットにした新型コロナ“コウモリ女”&「テレワーク」Zoom創始者の謎の組み合わせ
新型コロナウイルス感染をめぐる米中衝突が激しくなるなか、米教育省がテキサス大学システムに対し、中国の研究機関などとやり取りした電子メールなどの提出を要求している。その中で、コウモリ関連のコロナウイルス研究を統括して「コウモリ女」と呼ばれる石正麗氏と、コロナ禍で急成長したビデオ会議システム「Zoom」の創業者、袁征(エリック・ユアン)最高経営責任者(CEO)のふたりだけがターゲットとして名指しされており、この謎めいた組み合わせが関係者の話題になっている。
◇電子メールや契約書の開示要求
米教育省がホームページ上で公開した書簡(4月24日付)によると、同省がテキサス大学システムに提出を求めたのは▽中国科学院▽武漢ウイルス研究所▽石正麗氏▽袁征氏――との間で交わされた電子メールや契約などのあらゆる記録。同時に中国共産党やその代理人などとのやり取りに関しても情報共有を求めている。
中国科学院や武漢ウイルス研究所、石正麗氏は今回の新型コロナウイルス感染拡大のカギを握る組織・人物であり、米国としては、中国の責任を問うために、こうした対象に関する情報を可能な限り収集しておきたい。特に石正麗氏に関しては「秘密文書を持ち出して逃亡した」との噂が飛び交い、その動向が注目されている。(参考資料:新型コロナで注目の“コウモリ女”が「中国から機密文書を持ち出して米国に亡命」情報の真偽)
ただ、新型コロナウイルスに絡む中国との衝突に関連して、米政府がなぜZoomの袁征氏とテキサス大学システムとのやり取りに関心を抱いているのか、書簡だけでははっきりしない。
ほかにも同省は、北京大学や上海大学、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)など、20以上の中国の大学や大手企業、共産党機関からの寄付や契約に関する資料の提出を求めている。
◇「ビル・ゲイツ氏に感銘」
調査の対象となった袁征氏は米国籍を持つ中国人(漢族)。米中メディアの情報を総合すると、1970年、中国山東省泰安で生まれ、現在の山東科学技術大学を卒業した。
1994年に4カ月間、横浜に滞在。その時、ビル・ゲイツ氏の「情報ハイウェイ」に関する演説を聞いて感銘を受け、シリコンバレーを目指した。ところが米国ビザの取得が難航し、94~95年に計8回拒否されたという。
1997年に米企業WebExにエンジニアとして入り、同社がコンピュータネットワーク機器開発会社Ciscoに買収されたのちには技術部門の責任者を務めた。2011年に離職し、「Zoom Video Communications」(本社・米カリフォルニア州サンノゼ)を設立した。
新型コロナウイルスの感染が拡大し、外出自粛などの措置が取られるなか、Zoomは新たなコミュニケーションツールになって「オンライン飲み会」などで使われ、昨年末時点で1000万人だった1日当たりの利用者は、今年3月に2億人以上に急増。4月下旬には3億人を突破した。
一方で、プライバシーや安全性に関連した問題が続出する。英ニュースサイト・インディペンデントがZoomを使って社内会議を開いたところ、英経済紙フィナンシャル・タイムズの記者が無断で侵入したと報じられるなど、トラブルが相次いでいる。
◇外国資金に警戒
米教育省が外国からの資金に関する調査を実施するのは、中国などが米国の研究者の活動を支援して知的財産を獲得しようとしている、との懸念があるためだ。
英BBCによると、米教育省は今年2月、中国やサウジアラビアなどから寄付や契約として何億ドルもの資金提供を受けたにもかかわらず正確に報告していなかったとして、ハーバード大とエール大を調査した。合わせて華為技術との関係についての説明も求めた。
教育省の記録では、米国内の複数の大学は1990年ごろから中国やサウジアラビアなどから少なくとも66億ドル(約7020億円)を受け取ったのに、適切に報告していなかったという。