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リモートワーク疲れの正体【井上一鷹×倉重公太朗】第3回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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緊急事態宣言が解除され、少し日常を取り戻しつつあります。しかし、数か月の在宅勤務の中で身に染みた「便利さと無駄の発見」を忘れて、完全に元通りになることはないと井上一鷹さんは推測しています。経営者の視点で見れば、オフィスの賃料や交通費・時間、会議の効率運用という利点を目の当たりにしているので、Beforeコロナの時代に100%逆戻りすることは考えにくいのです。これからの会社はどのような方向に向かうのでしょうか。また、労働者はどういうことを心にとめて働くべきでしょうか。

<ポイント>

・オフィスに毎日出社する意味を考える

・リアルに会う価値はどこにあるのか?

・これから会社を選ぶ基準はどう変わるのか

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■「オフィスにしかできないこと」は何か?

倉重:個人的に迷っているのが、オフィスに来る理由です。

出勤するだけでも戦場へ行くような感じで、子どもに「気を付けてね」「大丈夫?」と気遣われながら送り出されるわけです。

自社のオフィスは、わざわざ行く機能を果たせているのかという疑問があります。

例えばすごくおいしい寿司屋に食べに行くのだったら分かります。そこでしか食べられないものですから。

オフィスでしかできないことは何だろうと考えてしまうわけです。

井上:究極を言えばないような気がします。

「別になくてもいい」と言い切ってしまった会社も出てきています。

そこまで行くと、もしかしたら正社員が要らないという話に至るかもしれません。

契約形態は正社員なのに、集まるハードウエアが要らないというのは逸脱している気がするので。

倉重:「社員である必要は何なのか」という議論も多くありますね。

井上:そうです。ただ、コロナによって日本型経営の悪い部分だけが見えたのかというと、そうではないと私は思っています。

内部留保を取っていて貯蓄性向も高い国民で、解雇規制があるからこそ守られてきた良い部分があります。

それをあえて見直すべきタイミングに来ているのかもしれません。

その象徴であるメンバーシップ型の働き方と、ジョブ型の働き方のバランスを経営者が明示化して伝えるための象徴がオフィスなのだと思います。

いわば教会のようなものです。私は何の宗教にも入っていませんが、もしキリスト教徒の世界に生まれたら、ミサや教会に行かないと信心深さを守れないと思うのです。

倉重:オフィスはその会社のビジョンや理念などを伝え・語り・共有するための場所ということですね。

井上:そうです。教会やお寺に行くように、人は「共通のものを見ている」という確認をしたいのです。

共同注視というか、「同じ方向を向いている」というコンセンサスが取れることが、唯一リアルで集まったときの読後感として持てることです。

これはテクノロジーが10年で解決してしまうかもしれないですけれども。

うちは小売店で日本中に400店舗があるので、コロナに関係なく、店長同士は同期でも季節に1回ぐらいしか会いません。その状態で特に大事なのは、季節に1回の全国店長会議だったりします。

それって、同じ方向を向いて「離れているときも俺らは一緒だよね」と確認するための儀式なのです。

倉重:チーム感が大事なのでしょうね。

井上:宗教でも、定期的に教会に通って、隣で祈っている人がいないと、そんなに信心深くなれない気がします。

キリスト教についてはよく知らないので、違っていたらごめんなさい。

倉重:そういう意味では企業文化や価値観の醸成は、やはりオンラインだけでは限界があるという話になりますか。

井上:そうだと思います。

当然、コンテンツ化や言語化できるものはデジタル化して共有することも可能です。

ただ、できる限り非言語でやらなければならないコンテキストこそ、リアルに残すのが当たり前のロジックだと思っています。

コンテキストの象徴が、あいまいな言葉で語られる文化や読後感などです。

倉重:背中で語るようなものですね。

井上:そういうものだと思っています。

もう1つが成長、育成です。

育成だけはリアルでないとしんどいです。

倉重:今年の新卒の人などはすごく困っているわけですよね。

井上:ものすごく困っています。

先日メディアの人と話していて思ったのですけれども、メディアの人はなぜか会いたがるのです。

倉重:一番会いたがる業界ですね。

井上:そう言っていました。

なぜかというと、基本的に知らない人の何かを引き出すのが取材だからです。

言語で引き出せるものであればれ、そこまでベテランでなくても構いません。

その人が口にしたものをそのまま記事にするだけなら、誰でもできるのです。

でも、取材の勝負所は何かといったら、顔を見て「この人は多分この辺がかゆいのだ」ということを読み取って書いてあげることなのです。

倉重:ここに関心があるのだなということをオーラから探るわけですね。

井上:私にとっても、上司である社長に会いに行くことだけは、どうしてもリアルである必要があります。

なぜかというと、自分のフレームワークを話したら、絶対にあの人は私が考えてもいないところから話し始めるのです。

「井上君、ここは違うのだよ。こっちから考えなければ駄目だよ」ときょうも言っていました。

やはり自分がフレームワーク化したり理解したりしている範囲外のものは、耳だけで聞いても分かりにくいと思っています。

社長に対してプレゼンをしていく中で、興味をなくす瞬間や眉間にしわが寄るときがあるわけです。

倉重:それは五感で感じないと無理だと。

井上:「ここが気持ち悪いのだ」「この人にとっては違和感なのだ」ということを感じとらないといけないので、ズームのレイテンシーでは無理です。

思考のフレームワーク以外にある気づきってすごく大事ではないですか。

リモートではここの視点が得られないのです。

倉重:それはまさにオフィスの持つ「ダイアログ機能」だと、井上さんのnoteに書いていらっしゃったと思います。

https://note.com/thinklab/n/n0d35c5dc0349

井上:そうです。目的化できるものは自分の思考のフレームワーク内の話ですから、目的化できないものを拾いに行かないと成長できません。

倉重:プレゼンしている側にとっても、リアルでないと、自分の気づきが得られないということですね。

井上:そこがすごく大事です。

先ほど申し上げた文化などの共有感や、教会的なところ、あとは寺子屋のような教育的指導は残りやすいと思います。

それ以外は本当に要らないのかもしれません。

倉重:そこは多分1人でする仕事と、そういったダイアログ的仕事とは分けて考えたほうが良さそうですね。

井上:1人仕事も別に会社である必要はないですものね。

倉重:あとは雑談ですかね。

ズームはぶつっと切れてしまうのが問題ですからね。

井上:私は雑談できると思っています。

倉重:zoomで打ち合わせ終了後に、一部メンバーを残して「感想戦をしている」と書いていましたね。

井上:そうなのです。私は若手社員より10年ぐらい長く生きているので、会議のときにどうしても主導権を握ってしまうのです。

私がばーっと話して「これでいこうね」となったときに、若手だけ残って、「井上さんは何を言いたかったのだろう」ということを雑談してからチェックアウトをしていたそうです。

このチェックアウトがズームだとしにくいと言っていました。

つまり、「会議の内容を理解するための雑談」が重要だったのです。

倉重:上司はあえてそういう場をつくっていかなければいけないわけですね。

井上:先に抜けないと、老害になってしまうと思っています。

倉重:私もお客様に事務所に来てもらったときには、会議室からエレベーターのところまでお送りして雑談するようにしています。そこで「今度こういう社屋を建てるのですよ」「こういう事業を始めるのですよ」といった新しい情報や、プライベートな話などが出てくるのです。それはズームだけでは出てこないと最近実感しています。

井上:そうですよね。Think Labという株式会社は今5人います。2人はもともといたのですが、3人は4月から入社です。緊急事態宣言後に入社しているので、この3人はリアルでは一度も会ったことがないのです。

倉重:すごいですね。

井上:そこまで寄った関係値ですが、うまくいっていて問題がないと思っていました。

きょう初めて全員で集まってみたら、言語化できないのですが、ちょっと会話の精度が変わった感じがしたのです。

「この人は、本当はこんな感じなのだ」という気づきや、普通の反応として「意外と背が高いんだ」ということがわかりました。

倉重:確かに映像では背の高さすら分かりませんからね。

井上:「リアルの場がずっと必要なのか」という話と「一回でもいいから会ったほうがいいのか」というのは、違う論点だと思っているのですけれども。

昔ランサーズの社長に聞いて面白かった話があります。フリーランスの人と発注側の会社が一回でも会ったことがあるパターンと、そうでないパターンに分けると、単価が全然違うらしいのです。

人はやはり会ったことがある人を信用します。「仕事をこのぐらいのバッファーで見ても何とかなる」という、お互いに仕事のやりとりをするときのスケジュール感や、信頼感といったウェットな部分がリアルでないと持ちづらいのではないかと思っています。

そこが「会う価値」として1つ残ることではないでしょうか。

整理できていなくて恐縮です。

倉重:リアルで会う価値がどうしてもあるとすると、やはり今既存でつながりを持っている人が強いですね。これからつながりを作らなければいけない若手や、独立しようとしている人などは大変でしょう。

でも、ある程度このウィズコロナの社会は続くだろうと思いますし、アフターコロナになっても、一切テレカンがなくなるわけではなさそうです。

営業なども慣れていくしかないのでしょうね。

■テレカンで重要なリアクションやリテラシー

倉重:ズームでは「リアクションは3倍くらい大げさに」ということ意識したほうがいいのですよね?

井上:うなずくリテラシーは超大事ですからね。

早くやるとフレームレートで間に合いません。

倉重:ゆっくり大きくうなずく感じは本当にすごく大事だと、ここでも言葉に残しておきたいと思っています。あとは最初と最後に手を振るとか。

井上:これは大事ですね。

倉重:両手で丸を作ってもいいですね。おちゃらけてるとかそういう意味ではなく、敢えてこれをする人は「分かっているな」という感じがします。今まではビジネス的には手を振ったら失礼でしたが、視覚情報で補ってくれるとこちらもありがたいです。

私もセミナーやウェビナーをしているのですが、全員動画オフだときついです。

「差し支えない方はオンにしていただけませんか」と言っています。

井上:そう思います。

倉重:反応が見えるだけでも随分やりやすいです。

首振りボットでもいいから置いといてくれないかと思うぐらいです。

そういう意味では今後の働き方が一気に変わらざるを得ない状況になってきている中で、働く人はどういう意識を持っていたらいいと思いますか。

井上:会社選びの視点は変わるのではないかと思っています。

どういうミッションを持っているのかという話と、どういうファシリティーを前提に仕事をしているのかということが、同じぐらいの寄与度で大事になるのではないでしょうか。

倉重:ファシリティーの重要性が上がりそうですね。

井上:例えば5年後には、就職活動している子が「家で働けるところでないと嫌です」ということが当たり前になっているかもしれません。それをどう表現するかは会社の意思になりますし、法人と個人がどのように信頼関係で進めていくのかを象徴することだと思います。それが今後ますます大事になってくるのではないでしょうか。

倉重:確かに、今年の新卒採用でも「会ったことがない人を採用するのは不安だ」という話もありました。

それが常態化していくと、「どういう視点でお互いに選ぶのか」という話になりますね。

井上:それも面白いとは思います。

(つづく)

対談協力:井上一鷹(いのうえ かずたか)

大学卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにて大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事後、ジンズに入社。JINS MEMEの事業開発を経て、株式会社Think Labを立ち上げ、取締役。算数オリンピックではアジア4位になったこともある。最近「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」を執筆。 https://twitter.com/kazutaka_inou

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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