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カーリングは女子だけじゃない! 長年、陽が当たらなかった男子カーリング界に革命と旋風が!?

竹田聡一郎スポーツライター
7月のアドヴィックス杯では見事優勝。松村(右から2人目)の顔色が珍しく良い。

 札幌のどうぎんカーリングスタジアムで開催中のどうぎんクラシック2017は予選リーグ初日が終わり、女子はロコ・ソラーレ北見と北海道銀行フォルティウスが、男子AブロックはSC軽井沢クラブがそれぞれ連勝スタートを切るなど、有力チームが順調な滑り出しを見せた。

 男子Bブロックは波乱が起きている。グループの軸と目されていた平昌五輪代表に内定している韓国のナショナルチームC.Kimが、軽井沢WILE(Ogihara)と4REAL(Abe)に連敗を喫し、早々に脱落が決定した。

 逆に韓国代表をエキストラエンドで追い落とした4REALが上位進出の可能性を残す。今季、フォースに入っている松村雄太は「みんなに助けられて勝ちました。今は内容よりも結果。勝てて良かった」と胸を撫でおろした。

 松村の言う「内容よりも結果」にはいくつかの意味が含まれている。

 昨季、日本選手権決勝でSC軽井沢クラブに敗れ平昌五輪への道が絶たれた後、4REALはチームの存続の危機に陥った。

 メンバーの多くは昨季まで「平昌五輪へのチャレンジ」と所属する会社に理解を求めていて、それぞれの職場がそれに応える形で競技を継続していた。

 しかし、五輪の芽がなくなりすべては白紙に戻った。チームは新たなチャレンジを余儀なくされる。

 松村は所属していたタカハシグループ勤続が決まっていたが札幌勤務から本社のある網走へ移動となった。谷田康真は札幌の私大を卒業し、北見市内の株式会社北海道クボタの北見支社で新社会人としての生活をスタートさせた。

 チームは次の5年、北京五輪に向けて、松村と谷田を中心にしたグループを形成するために、拠点を札幌から北見市常呂町に移すことを決意する。新メンバーとして北見工業大学の相田晃輔も加えた。相田は1998年常呂町生まれの19歳、リレハンメルユースオリンピック2016の混合代表だ。「常呂出身とあってやはりセンスがある。数試合スイープしてもブレずに履ききってくれるから体力もあると思う」と松村は新たな矢を評した。

 さらに、チーム青森がバンクーバー五輪に出場した際、広報宣伝担当として辣腕を振るった近藤学をプロデューサーとして迎えた。

 近藤はさっそく、昨年までのチームスポンサーである不動産業の株式会社小黒(神奈川県川崎市)、生メロンソフトで有名なやおきゅう(北海道札幌市)に加え、永山運送株式会社(東京都多摩市)、家電や自動車をなどはじめとした総合デザイン会社オウル・クラフト(神奈川県横浜市)など新規スポンサー5社と提携し、チームの運営強化のためのランニングコストの公算を整えた。

 同時にチーム情報もこれまではFacebookのみだったが、公式HPを新設し、この8月に公開した。特にプロフィール写真は都内のスタジオを貸し切って新しいネイビーのユニホーム、さらに移動用のスーツをそれぞれ着用し、プロのカメラマンによって撮影する念の入れようだ。

「カーリングの未来を1つの組織として考えていきたい」とは近藤の言葉だが、彼は「ジュニア世代が、『4REAL、カッコいいな。一緒にやってみたいな』と思ってくれるようなチームでなければ意味がない」とも言う。この撮影も一流アスリートとしてチームに自覚を芽生えさせ、外部に啓蒙を促す仕掛けの一つだろう。同時にチームコンセプトの「継続して勝ち続ける組織」には、長期的な視野、次世代の育成も含まれていることは間違いない。

 しかし、ポジティブな面だけではないことも事実だ。活動資金の見通しが立った一方で、昨季までチームの主軸として活躍した阿部晋也と林佑樹が、多忙や勤務形態が理由で十分にトレーニングを積めていない側面もある。

 ただ、これら選手の雇用やチーム単位での長いスパンでの強化継続は、彼らだけに限ったことではない。日本選手権に出場する国内トップチームのほとんどが抱える問題だ。選手自身や協会がシェアして取り組むべき命題で、男子カーリングの現在地とも言えるだろう。

 そんな現状を打破すべく、新生4REALはまず、国内開幕戦に当たる先月のアドヴィックス杯でSC軽井沢クラブから白星を奪うなど躍動を見せて、同大会で初優勝を果たした。国内カップ戦連勝を目指し、残りのゲームも必勝を期す。新たなホームアイスの応援、理解あるスポンサー、チームの存続強化、様々なものを背負い、4REALの新シーズンは始まっている。「勝つことで、結果を残すことでしか今はアピールできない。本気で戦います」(松村)

 4REALとは「本気で、本物の、真剣に」という意味の英口語だ。改めて世界に真剣に挑むため、まずは日本選手権の初優勝を目標に今季を過ごす。秋以降にはチームとしては2年ぶりの海外遠征も視野に入れているという。男子チームの海外遠征をスタンダードにするためにも、カナダ合宿を是が非でも実現、結実させて欲しい。

 4REALだけではなく、多くのチームが目先の五輪に振り回されずに、次の10年20年を見据えた強化や普及活動への取り組みに期待したい。

 カーリングは女子だけのゲームではないし、決して4年に一度のスポーツでもない。過去の認識を捨て、メジャースポーツへと踏み出す過渡期、好機が訪れているのかもしれない。4REALのチャレンジはモデルケースになってくれるだろうか。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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