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学童保育「おしゃべり禁止・マスクで熱中症?人手不足…」現場の苦悩続く【#コロナとどう暮らす

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
手洗いを習慣づけるため、学童保育の支援員が歌を作って教えたという(写真:アフロ)

突然の休校3か月を経て分散登校が始まり、コロナとの生活に手探りしながらも、学校が再開した。休校期間も休みなく開所していた学童保育(学童クラブ)は、もともとの人手不足の中、イレギュラーな長時間の預かりと、衛生の対応に奔走している。今は、さらにコロナ対策を強化。子どもたちのおしゃべりを禁止にするジレンマや、マスクも関連した熱中症への恐怖があるという。関西地方にある学童クラブで10年ほど働く支援員の女性から、「現状をお知らせしたい」と切実な声が届き、取材した。

〇「子どもの会話禁止」にジレンマ

3か月の休校を経て、学校が再開しましたね。学童保育の様子はどうですか?

「私たちの学童クラブは公営で、1~6年生までおよそ130人いて、2クラスにわけています。6月に入り、自粛している家庭もありますが、共働きやシングルマザーの家庭が多く、毎日50〜60人ぐらいの児童が来ています。

第二波が怖くて、コロナ対策は、これまでよりさらに厳しくしています。消毒の回数を増やすだけでなく、今までは『昼食やおやつを食べ終わって、マスクをしたらお話ししてもいいよ』と伝えていましたが、人数も増え、全員に目が行き届かないため、会話を一切禁止にしています。

子どもたちはつまらなさそうで、ついおしゃべりしてしまいます。それに対して注意するのも、子どもたちに責任があるわけではないのに、と気持ちが進みません」

「暑さ対策も、例年より早めに始めています。気温のせいか、マスクのせいか、熱中症のような症状の児童が何人も出ており、とても怖いです。外遊びの時はマスクを外してもいいとは伝えていますが...」

「4月に入ったばかりで、来ていなかった1年生については、細々したルールや、物がどこにあってどこに片付けたらいいか、タイムスケジュールを、一から教えなくてはいけなくなり、人手がとられています。

上級生も休校期間が長かったので、学習をかなり忘れてしまっているようで、宿題がなかなか一人では進まず、次から次に呼ばれるので忙しいです」

〇常勤職員の長時間労働でカバー

急な休校になった3月は、どのような状況でしたか?

「厚生労働省や自治体に、子どもの居場所として確保するよう言われ、学童クラブを休みなく開所してきました。3月は、朝から100人ぐらい来ていました。保育園や学校は、朝からの勤務ですが、学童クラブは本来なら、放課後の受け入れです。休校に伴い、急きょ朝8時~夜7時の開所になり、もともと人手が足りない中での対応でした。

スタッフはパート勤務が7割で、扶養の範囲内で働くため、勤務時間の制限があります。人数も増やせません。私も含め、常勤はその分、長時間労働をしてきました。責任が重い常勤の職員でも、1年ごとの契約更新です。

もともと3月は、一番忙しい時期なんです。新入生の準備や、持ちあがる子の書類を作る時間がなくなって、常勤は休日出勤もしました」

〇1メートルの距離を取るのも難しい

衛生面は、どのようにしてきましたか?

「子どもたちに、マスクしてねと話しても、苦しい、暑いからと外してしまう子もいます。3月ごろは、スタッフのマスクや消毒液もなかった。ハイターを薄めて、おもちゃや手すりをふいていました。

おやつ・お昼ご飯前のテーブルの消毒をするのに『待って』と言っても、子どもたちには、その1分を待つのが難しいんです」

「部屋はそんなに広くなくて、スペースが足りません。学童保育では本来、一人当たり1.65平方メートル以上が望ましいという基準がありますが、児童が多く、ソーシャルディスタンスを取らなければならない中、1メートルの距離を取るのも難しいです。

遊ぶ時間は、長机に7~8人、対面で座らないと過ごせません。お弁当の時も、対面をやめて、なるべく離れてねといっても、お友達のお弁当がかわいいと、のぞき込みます。子どもは、近づきあったり、スタッフの背中に乗ってきたりもします」

「手洗いを嫌がる子もいます。手洗いの歌を作り、手順を教えて、この歌の間は洗おうね、と低学年の子には伝えました。高学年になって、ちょっと反抗期になってくると、大人の言うことを聞きたくない子もいて…心の中で歌っているという子もいます」

〇「学校も休みなのに…」密すぎる

4月初めに緊急事態宣言が出て、利用は減りましたか?

「緊急事態宣言が出ても、初めは変わらず、100人ぐらいが来ていて、密だなあという印象でした。地域の中で感染があり、緊張感がすごかったです。『学校も休みなのに、こんなに子どもがいて大丈夫なのか』と思いました。

でも、休めない仕事がある保護者もたくさんいます。ありがとうございます、と言って帰っていくので、やらなきゃと思いました。スタッフも自分の子を留守番させて働いており、複雑な気持ちはあります」

「4月下旬、自治体の方針で、医療関係者など職業を限定する保育になり、子どもは20人ほどになりました。スーパーで働いていて必要という家庭も受け入れました。他の家庭は協力して、利用を自粛してくれたので、負担は減りました。それまでに働きすぎのスタッフには休んでもらいました」

「5月のゴールデンウィーク明けは、少し増えて30~40人ぐらいになりました。『これ以上、仕事を休めない』『在宅ワークは無理だった』『1人でお留守番できない』という家庭があったためです。職業限定の保育が解除された後も、4月・5月と保育料を払わなくてよかったこともあり、お休みの家庭はありました」

〇学童保育も必要不可欠の場

休校が長引き、子どもたちの心身が、限界の様子でした。留守番中に、事故や事件に巻き込まれる報道もあります。学童保育は、働く保護者にとっても、子どもにとっても、大切な居場所ですよね。

「学童クラブの子どもたちが、元気に過ごしているのは、うれしいことです。みんな、友だちに会いたいと言っていましたね。1年生は保育園とのつながりも切れて、友だちがいなくて寂しそうでした。

感染リスクはあっても、子どもの居場所と、保護者支援は必要です。ただ、補償があれば、仕事を休めた保護者もいます。

医療・介護の関係者は、応援されていますし、支援金という話も聞きます。でも、学童支援員は時給制で、仕事が増えて働いた分の他は、手当という話はありません。

スタッフは、放課後に子どもたちを見る人数でやってきていて、休校中も、短縮授業の日も、とにかく人手が足りません」

「大学生のアルバイトスタッフがいた時期もありました。3月~4月は大学が休みで、緊急事態宣言の前でした。けれど、大学のオンライン授業が始まり、家族からも感染が怖いと言われ、やめていきました。

スタッフは、年齢が高い人もいます。行政が決めることで、もどかしいのですが、スタッフを増やせたら、どんなにいいかと思います」

〇深刻な暑さ問題と人手不足

コロナとの生活は、まだまだ続きます。

「学童クラブ内のミーティングや、各学童保育から支援員が集まる連絡会も、普通は月に数回あるところ、3月~5月の間は、なかなか開けませんでした。

コロナに関しては、行政も、状況が変わりすぎて追いつかないようです。現場は『明日から』とか『金曜の夕方に言われて、来週に』とか、流れが早すぎます」

「これから、もっと暑くなるのが心配です。夏の暑い時期を、どうやって子どもたちが過ごすかが、問題です。

この数年、暑い季節は外遊びを短くして、部屋で過ごしていました。今年も、外遊びは難しいかもしれません。かといって、部屋にずっといると、換気や密を避けるという課題があります。学校の教室を借りると、それを見る人手が足りません。

従来、夏休みだった期間は、学校が短縮授業になりそうです。暑い時期なので、子どもたちにとってはよかったと思いますが、早い時間に学童クラブに集まってくることになりそうです。

パートのスタッフの勤務時間は、すでに足りなくなっていますし、人手の確保をどうしようか悩んでいます」

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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