出場解禁! Jリーグ夏の移籍市場 コリアンJリーガーの新トレンドを読む!
この週末は、今季のJリーグの“夏の移籍ウインドー”がオープンになり、最初のリーグ戦が行われた。
要は「シーズン前半を戦って、新しい戦力が必要だなと思ったらこの期間で登録しなさい」という時期のことで、 今年のJリーグの場合は7月21日から8月18日が夏の移籍登録期間となっている。
今夏、ここまでの話題のひとつとなっている点がある。
“韓国選手の加入”だ。
「次々とやってきている」とも報じられた。J1の18クラブだけで新たに6人が加入した。
確かに多くはなっているが、筆者の見解はこうだ。「日韓のサッカーシーンを変えるまでの決定的な変化ではない」。
韓国側のトッププレーヤーたる欧州組が日本に活躍の場を求めたのなら劇的な変化だが、そういった事情の変化はない。韓国でも「Jリーグ移籍続出」と報じられる一方で、最近の自国監督の中国での活躍を報じる記事では「Kリーグに最も影響を与える中国リーグ」というフレーズも見られる。
中東、中国リーグとのKリーグの関係性の変化により、Jリーグ移籍が微増したという表現が正しい。韓国代表内の位置づけも、欧州組、中東・中国組につぐ第3勢力といったところ。02年ワールドカップ前の「Jリーグ組が第1勢力」という時代とは事情が決定的に違う。
では、韓国選手のJリーグ加入への新たなトレンドとして、何を見るべきか。
ずばり、“ACL(アジアチャンピオンズリーグ)の影響”だ。
今夏の2大ビックネーム、キム・ボギョン(柏レイソル)、ファン・ウィジョ(ガンバ大阪)に話を聞きつつ、考えてみた。
キム・ボギョン「チャンピオンズリーグに出られるチームに来なければ」
MFキム・ボギョンは、1989年生まれの26歳。韓国のシンガル高から2010年にセレッソ大阪に入団。すぐに大分トリニータへレンタル移籍した後、2011年と12年セレッソ大阪でプレーした。
その後、2012年から15年までカーディフに所属。初年度にイングランドの2部からプレミアリーグへの昇格に貢献した。渡欧後、2年目のシーズン初戦ではマンチェスターユナイテッド相手に試合終盤の劇的な同点ゴールを一躍名を知られた。その後は2015年に同2部のウィガン、同年の後半は当時J1だった松本山雅でプレー。16年から1シーズン半をKリーグの全北現代モータースで過ごし、この夏柏レイソルに加わった。
韓国代表としても35試合に出場。左利き。精巧な技術で知られる。2012年ロンドン五輪銅メダル、2014年ブラジルワールドカップ出場、さらには朴智星が代表引退の際、後継者として指名した。20代後半の重要な時期を自国の強豪・全北ではなく、日本で過ごすことに決めた背景は何だったのか。
ある”仮説”をもって、7月下旬に柏レイソルの練習場を訪れた。
――柏レイソルは現在上位にいるチーム。本人が力を発揮すれば、十分にアジアチャンピオンズリーグ出場権を獲得しうる位置にいます。そういった点は今回の移籍にどういった影響があったのでしょう?
「日本行きを考える場合には、『チャンピオンズリーグに出られるチームに来なければ』という考えを前から持っていました。それが一番大きな要素だった。そう思っていたところに、優勝が可能な位置にいて、ACLの出場権も十分に獲得可能なチーム(柏)からオファーをいただきました。さらにJリーグ全体に投資が集まっているイメージもあったので、決めました。この先も、韓国選手にとっても非常にプレーするメリットのあるチームになっていくと思います」
―過去に本人も大会を経験しています。そこから得た刺激も大きい?
「セレッソ大阪時代は、優勝よりもチャレンジという側面があったと思います。全北は優勝を狙うチームで、実際に優勝もした。柏も、そういったチームなるべくともに成長していく、という点が大きなモチベーションです。その点こそが、(Kリーグで“1強”ともいわれ、2016年のACL優勝チームである)全北というチームから自分が移ってきた大きな理由です」
―当然、今季もそれを狙っていく。
「ACLの出場権を得る、そのうえで優勝を狙うということが今年、柏での当面で重要な目標です。Kリーグもそうだし、Jリーグ、中東、中国でもそう。国内リーグの優勝と合わせて、アジアチャンピオンズリーグでのタイトルというのはとても大きな価値を持つと思います。まだまだ、ヨーロッパほどではないですが。でも自分自身が昨年、全北でACL優勝を経験して(Kリーグは2位に終わった)、その価値の大きさを肌で感じた。僕は本当にACLを重要な目標と位置付けて戦っています」
ヨーロッパを経験した韓国人選手の新たなモチベーションが、外国人選手として他国チームでアジアチャンピオンズリーグを戦うこととなる。筆者が日韓のサッカーシーンを取材してきたなかでは、06年に全北が優勝を果たすまでは、アジアチャンピオンズリーグの韓国での注目度は決して高くなかった。10年来の激戦が大会をステイタスを上げてきた成果だ。Jリーグを巡る新しい時代の流れのひとつとなるのではないか。
キム・ボギョンは日本再デビューとなった30日のJ1第19節ベガルタ仙台戦(アウェー)に後半15分から出場。試合は1-1の引き分けに終わったが、スルーパスで決定機を演出するなど、今後に期待を抱かせるプレーを披露した。
ファン・ウィジョ「ガンバにはパスをつなぐチーム、というイメージがあった」
Jリーグ移籍に際し、アジアチャンピオンズリーグ出場権獲得が現状で有望なチームという点が重要だったのか。
同じ質問をもって、ガンバ大阪のFWファン・ウィジョを訪ねた。1992年生まれの24歳。ソウル郊外城南市のプンセン高から延世大を経て2013年に地元城南FCへ入団。韓国A代表として9キャップ1ゴールの記録を持つ。
Jリーグデビュー戦が、ホームでの大阪ダービーだった。相手セレッソのラインがコンパクトだった前半はあまり力を発揮できなかったが、後半20分にヘディングで同点ゴールを挙げるや、一気にボールタッチの機会も増えた。試合後はメディアに多く囲まれるなか、やや緊張した面持ちで「嬉しい」「頑張る」といったありふれたコメントが続いた。最後に一つ、「勝ったから試合以外のことも聞きたい」と韓国語で先の質問を切り出した。
「もちろん、アジアチャンピオンズリーグは出たい大会。自分がしっかりとやればこれに出場できる、という考えはある。でもこれはまだ先にあること。はっきりとのこのために移籍を決めたとは言えない。自分はまず、目の前のゲームをひとつひとつ戦うことが重要」
新たにチャレンジする立場にあるファン・ウィジョはキム・ボギョンとは考えが少し違った。しかしながら、ファンは2015年シーズンのACLに古巣城南FCの一員として出場。ガンバ大阪とグループリーグで対戦したことが移籍のきっかけになったことはよく知られるところだ。ガンバは当時、前年度のリーグ三冠チームとして出場していた。いっぽうの城南は前年に母体企業が撤退し、市民クラブとして生まれ変わった転換期にあった。国内カップ戦で準決勝、決勝ともにPK勝ちを収めての出場権獲得だった。そんななか行われたホームアンドアウェーの2度の対戦で、ファンは2ゴールを挙げた。
筆者はこの年の3月3日、グループリーグ第2節を韓国で取材していた。ガンバは寒さの残る雨中戦で高いボールキープ率を見せながらも0-2で敗退した。試合後、長谷川健太監督にこう伝えてみた。
――相手選手たちは『ゴール前を守っておけば、相手は怖くない』と言っていましたが」
答えはあっさりとしたものだった。
「そう言っているなら、そういうことでしょう」
敗戦を受け入れるしかない、と感情を押し殺していたのか。あるいは怒っていたのか。定かではないが、いずれにせよ敗戦のなかにも、2点目を許したファンの良さを見出していた、ということだったのだ。
ちなみにこの時のファンのガンバに対する印象は「パスをしっかりつなぎ、丁寧なサッカーをするチーム」だったという。
「ウチ、来季のACL出場権がありますから」が”殺し文句”になるか
出場権獲得をはっきりと目指して渡ってきたキムと、ACLでの好プレーから相手チームのオファーを引き出したファン。かたちは違うが、アジアの他国プレーヤーから見ても”ACL”というキーワードがJリーグの外国人獲得を巡る新たな潮流になりうるのではないか。そんな兆しを感じる。出場権を持つチームはより質の高い外国人選手にアプローチできる。今後、中東・中国リーグとの外国人選手獲得競争でもこの「チャンピオンズリーグ出場権」は効いてくるのではないか。ヨーロッパで当然のように起きている現象が日本でも始まろうとしている。そしてファン・ウィジョとガンバ大阪の出会いのように、出場したチームはよいタレントと直接戦う機会を得る。
アジアチャンピオンズリーグのステイタス向上が、アジア全般で起きている。これを感じさせる「もっとも敏感な反応」が今夏の韓国トッププレーヤーの動きだ、ともいえる。ドイツのスーパースター、ルーカス・ポドルスキーがヴィッセル神戸にやってきた。質の高い外国人選手を観たい、というのはファンのシンプルな願望だ。「ウチ、来季のACL出場権がありますから」というフレーズが”殺し文句”になる時代が幕を開けるのであれば、それはちょっとした希望であり、アジアサッカー全体の努力の成果ではないだろうか。