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月曜ジャズ通信 2014年4月14日 ソメイヨシノばかりが桜じゃないよ号

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

もくじ

♪今週のスタンダード〜オータム・リーヴス

♪今週のヴォーカル〜ダイナ・ワシントン

♪今週の自画自賛〜ジャズ耳養成マガジン「JAZZ100年」第1巻

♪今週の気になる1枚〜ケニー・バロン『ビューティフル・ラヴ』『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』

♪執筆後記〜上原ひろみ「さくらさくら」

「月曜ジャズ通信」のサンプルは、無料公開の準備号(⇒月曜ジャズ通信<テスト版(無料)>2013年12月16日号)をご覧ください。

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『ベスト・オブ・ジュリエット・グレコ』
『ベスト・オブ・ジュリエット・グレコ』

♪今週のスタンダード〜オータム・リーヴス

サクラの季節だっていうのに、「枯葉」を選ぶとは……。まぁ、どちらも“散るもの”ということでご容赦を(笑)。

もともとはシャンソン、すなわちフランス語で歌われるポピュラー・ソングです。余談ですが、フランス人ミュージシャンに「フランスの音楽シーンでシャンソンはいまどうなっているの?」と聞いたら、「え? シャンソンって“歌”って意味だけど、君の質問の意味がよくわからないな。“歌”ならいまでも歌われているけど……」と言われて会話がしばらくフリーズしてしまった苦い想い出があります。彼ら(とくに若い世代)にとって“シャンソン”というジャンルの音楽は存在しないことが判明したエピソードでした。

一般的に日本ではフランスの小唄風の流行曲をシャンソンと呼んでいて、そのスタイルを踏襲したものも含まれているようです。イヴ・モンタン、エディット・ピアフあたりが代表的なシャンソンの歌い手として知られていますが、1960年代あたりまでにフランスで流行歌を歌っていた人の楽曲を“シャンソン”と逆定義するような傾向もありますね。

「枯葉」は1945年にローラン・プティ・バレエ団のステージ「ランデヴー」の伴奏音楽としてジョセフ・コズマが作曲。翌1946年に、このバレエに触発されて製作された映画「夜の門」の挿入歌として、脚本家のジャック・プレヴェールが詞を付けました。

コズマはハンガリー出身の作曲家で、ナチスのユダヤ人迫害から逃れるためにフランスに移住、“フランス映画音楽の大家”と呼ばれるようになった人物です。

残念ながらこの映画はヒットしませんでしたが、この曲に眼をつけたのが当時ハタチそこそこで注目を浴びていたシンガーのジュリエット・グレコ。レジスタンス運動に身を投じ、知性派として注目されていたグレコが歌うことで「枯葉」も話題となり、1950年代にかけて多くの歌手に歌い継がれ、シャンソンを代表する1曲になりました。

と、ここまではフランスでの話。「フランスでこんな曲が流行っているぞ」と、アメリカの大手レコード会社キャピタル・レコードの経営会議で話題になったかどうかは定かではありませんが、「よし、アメリカでも売り出そう」と決まったのが1949年。その際、アメリカではフランス語では売れないからと英語詞を付けることになって、それを担当したのがキャピタル・レコードの創立メンバーでもあったジョニー・マーサーでした。彼は数々のヒット・ナンバーを手がけていた売れっ子の作詞家でもあったのです。

英語詞になった「枯葉」を最初に歌ったのはビング・クロスビーで、その後もナット・キング・コールなどヒット・メーカーたちが取り上げたのですが、思うように売り上げが伸びずにいたところ、“大統領のピアニスト”ことロジャー・ウィリアムスが抑揚たっぷりの演奏で仕上げるとこれがヒットして、1955年の全米ヒット・チャート4週連続第1位を達成してしまいました。ビルボードのチャート1位をピアノ曲で獲得したのはいまだにこの1例のみとか。

このヒットにジャズ界も反応、マイルス・デイヴィス(キャノンボール・アダレイ『サムシン・エルス』1958年)やビル・エヴァンス(『ポートレート・イン・ジャズ』1959年)といった名演が生まれ、その後も多くのジャズ・ミュージシャンに愛されるようになりました。

またまた余談ですが、フランスで最初に「枯葉」を歌ったジュリエット・グレコはマイルス・デイヴィスと恋愛関係にあり、マイルスが渡仏した1949年に彼女が歌う「枯葉」を聴いていたと思われます。

♪Autumn Leaves(枯葉)- cannonball adderley

名目上はアルト・サックスの巨人キャノンボール・アダレイのリーダー名義ですが、実際はマイルス・デイヴィスが仕切ったと言われているアルバムの冒頭を飾る名演です。いま聴き比べると、キャノンボールはこの6年前(1952年)に同曲を録音しているスタン・ゲッツを意識した演奏をしているなという気がします。一方のマイルスは、恋人だったグレコを思い出しているのでしょうか、絶品のソロを披露してくれています。

♪Autumn Leaves/Bill Evans Trio

ビル・エヴァンスがピアノ・トリオを芸術の域にまで高めたと言われる背景には、この「枯葉」の演奏があったと言っても過言ではありません。マイルスの演奏にはまだ少し“甘さ”が残っていますが、エヴァンスはドライそのもの。そんなテイストの違いを楽しんでみてください。

♪Juliette Greco- Les Feuilles Mortes

ジュリエット・グレコの1967年のライヴ映像です。バースと呼ばれる前奏部分も長く、テーマも地味ですが、ブロードウェイやハリウッドで生み出されたアメリカのスタンダードにはない斬新さが当時のジャズ・ミュージシャンの琴線に触れたに違いありません。

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ダイナ・ワシントン『Dinah Jams』
ダイナ・ワシントン『Dinah Jams』

♪今週のヴォーカル〜ダイナ・ワシントン

ダイナ・ワシントンは“ブルースの女王”という異名をもちR&Bチャートを賑わせたこともあって、ジャズ・シンガーとしての評価が高いとは言えないかもしれません。

しかし、御三家の“エラ・サラ・カーメン”がアフリカン・アメリカンらしからぬ“美声”だったのに対して、彼女はブルース味たっぷりの声質で、それを愛するヴォーカル・ファンが多いのも事実。

同じ系列の声質だったビリー・ホリデイのレパートリーが狭かったのに比べ、彼女はなんにでもチャレンジして歌いこなしてしまっていたのも好感がもたれる要素になっているようです。

そんな陽気で前向きに思えるダイナですが、実生活では8回の結婚と7回の離婚を経験し、39歳の若さでアルコールと薬物(睡眠薬とダイエット薬)の過剰摂取で死に急いでしまいました。そんな人生がまた、彼女が歌ったブルースそのものだと思う人も多かったのではないでしょうか。

♪Dinah Washington- All of Me

1958年にニューポート・ジャズ・フェスティヴァルに出演した際のステージ映像です。ヴィブラフォンはテリー・ギブス、ドラムがマックス・ローチ、ピアノがウィントン・ケリーという豪華な面々で、歴史に残るパフォーマンスを披露しています。

♪Lover Come Back To Me / Dinah Jams

1954年『Dinah Jams(ダイナ・ワシントン・ウィズ・クリフォード・ブラウン)』からの1曲。クラーク・テリー、クリフォード・ブラウン、メイナード・ファーガソンというスーパー・トランペッターが次々に超絶ソロを披露して、それに負けないメロディをダイナが歌うという、夢の共演です。

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ジャズ耳養成マガジン「JAZZ100年」第1巻
ジャズ耳養成マガジン「JAZZ100年」第1巻

♪今週の自画自賛〜ジャズ耳養成マガジン「JAZZ100年」第1巻

隔週刊でCD付きの雑誌「JAZZ100年」の連載を担当することになりました。1年間、26巻の予定です。

ボクが担当している記事は「名演に乾杯!」という1ページの企画。

銀座にあるスタア・バー・ギンザのバーテンダー岸久さんの提案する“ジャズにマッチしたカクテル”を写真付きで紹介して、酒とジャズのうんちくを語れるようにしちゃおうじゃないの、というボク向きの企画ですね(笑)。

取り上げるのはその巻付属のCDに収録されている曲で、第1回はビル・エヴァンスの「マイ・フーリッシュ・ハート」。この曲に合わせて岸さんが選んだ1杯は、ウォッカ・ベースでスノー・スタイルのショート・カクテル“キッス・オブ・ファイヤー”です。

撮影のためにお店まで出向き、実際に作っていただいたカクテルを飲んで書いている原稿なので、読んでいるうちに自分も作って飲んでみたいと思っていただけるものと自負しております。

カクテル名になった「キッス・オブ・ファイヤー」は、ルイ・アームストロングが歌って、日本でも大ヒットした曲。

エピソードを探っていくといろいろな繋がりがあって、より広い間口からジャズに親しんでもらえる企画になりそうです。

♪Louis Armstrong- Kiss of Fire (El Choclo)

1950年代初頭にリリースしたタンゴのカヴァー曲「キッス・オブ・ファイヤー」が世界的なヒットとなったルイ・アームストロングは、この曲をひっさげて1953年に来日を果たし、日本でも“サッチモ・ブーム”を巻き起こしました。そんなムーヴメントのさなか、同年開催された第5回オール・ジャパン・ドリンクス・コンクールにバーテンダーの石岡賢司氏が出品し、見事優勝に輝いたカクテルが“キッス・オブ・ファイヤー”だったのです。

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ケニー・バロン『ビューティフル・ラヴ』
ケニー・バロン『ビューティフル・ラヴ』
ケニー・バロン『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』
ケニー・バロン『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』

♪今週の気になる1枚〜ケニー・バロン『ビューティフル・ラヴ』『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』

ケニー・バロンのソロ・アルバムが2枚、リリースされました。

昨年生誕70周年を迎えたケニー・バロンは、19歳でニューヨークに進出して以降、最前線で活躍を続けるトップ・ピアニストのひとり。

そのタッチの美しさに虜となってしまう人が続出し、羨望のまなざしで教えを乞うピアニストが絶えないといったミュージシャンズ・ミュージシャンでもあります。

そんな珠玉のピアノをソロでたっぷりと2枚丸々楽しめる企画。贅沢と言わずしてなんと表現しましょうか。

♪Kenny Barron I am getting sentimental over you

ジャズらしからぬ端正さなのですが、聴いているうちにこれ以上ないぐらいのジャズらしさのなかに浸っている自分を発見するという、まさにバロン・マジックをアナタも体験してください。

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富澤えいち『頑張らないジャズの聴き方』
富澤えいち『頑張らないジャズの聴き方』

♪執筆後記

今年の春は、早咲きの河津桜はちょうど見頃に当たったのですが、ソメイヨシノは締め切りに追われて見逃してしまいました。なんか心残りに感じるのは、日本人ならではの感傷なのか、それとも風評に惑わされているだけなのか……。

♪Hiromi-'SAKURA SAKURA' UNESCO International Jazz Day 2012

“サクラ”+“ジャズ”で検索してみたら、こんな動画が出てきました。

2012年4月30日にニューヨーク市の国連総会ホールで行なわれた第1回インターナショナル・ジャズ・デイの祝賀コンサートの一幕です。

メンバーは、上原ひろみ(ピアノ)、テレンス・ブランチャード(トランペット)、エリ・ジグペリ(テナー・サックス)、クリスチャン・マクブライド(ベース)、ヴィニー・カリウタ(ドラム)。

日本を象徴する「さくらさくら」という曲は、江戸時代の筝の練習曲が元になり、明治以降に歌詞が付いて広まったものですが、日本固有の5音音階を使っているためにジャズっぽく聴かせるにはかなりの工夫が必要になります。

でも、上原ひろみヴァージョンはそんなハードルを微塵も感じさせず、見事にインターナショナルなジャズとして成立させています。

“インターナショナル・ジャズ・デイ”とは、2011年にユネスコ親善大使に任命されたハービー・ハンコックの呼びかけで決められた“ジャズの日”。第3回にあたる今年はホスト・シティとして大阪が選ばれ、「大阪を象徴する史跡・大阪城西の丸庭園特設ステージにて、ハービー・ハンコック氏が指揮するオールスターバンドでグローバル・コンサートを開催」する予定です。

富澤えいちのジャズブログ⇒http://jazz.e10330.com/

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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