韓国大統領候補の読み方「ユン・ソクヨル」「ユン・ソギョル」「ユン・ソンヨル」いったいどれが正しい??
韓国大統領選(2022年3月)の候補として、保守系野党「国民の力」が今月5日選出した前検察総長、尹錫悦氏の名前をどう読めばよいか? 日本メディアはおろか、韓国でもその読み方について意見が割れている。次期大統領になろうという人物の名前が統一されない背景にあるものは――。
◇幼いころから家では「ソンヨル」
韓国の公共放送KBSのラジオを聴いていると、アナウンサーが「尹錫悦」を「ユン・ソンヨル」と発音するのに対し、ゲストの政治家や学者らが「ユン・ソギョル」と呼ぶ場面に、頻繁に出くわす。KBS記者の中には「ユン・ソンニョル」と言ったと思えば、次に「ユン・ソンヨル」「ユン・ソギョル」と口にして混乱する人もいる。この現象は、尹錫悦氏が検事総長候補に指名された2019年6月ごろから起きている。
なぜ混乱が起きるのか。KBSアナウンサーのユ・ジチョル氏が2019年6月24日、韓国日報への寄稿で解説したことがある。その内容をカタカナを交えて簡略化してみる。
尹錫悦の「錫」は韓国語で「ソク」(クは子音のみ)と読む。この「ソク」に「ヨル」が続けば、「ク」と「ヨ」の連音化によって「キョ(語頭でなければ「ギョ」に近い音に聞こえる)」となる。それゆえ韓国語としては「ユン・ソギョル」と発音するのが正しいことになる。
これに対し、尹錫悦氏本人はメディアの取材に対し、幼いころから家で「ソンヨル」と呼ばれてきたため、慣れ親しんだ「ユン・ソンヨル」と呼ぶよう望んでいると話しているようだ。
一方、「ユン・ソンニョル」となるカラクリについて、仮に「悦」を「リョル」と読ませるならば、それが「錫」に引っ付くことで「ソクニョル」に変化し、さらに「ソンニョル」で落ち着くことになる。ただし「悦」はあくまで「ヨル」であるため、「ソンニョル」は間違いということになる。
◇「本人が望む読み方を認識しているか否か」
ユ・ジチョル氏は「最近では、名前を表記する際、ハングル正書法(ハングル表記のための規則)に合わなくても、個人の意思を尊重して名前を書く場合がある」と指摘する。
ユ氏が例として挙げているのは、日本の中日ドラゴンズで活躍し、韓国で「国宝投手」と呼ばれた宣銅烈氏。韓国でも日本で活躍した時と同様、「ソン・ドンヨル」と呼ばれている。「烈」は本来、ハングルで「リョル」と記され、「銅烈」であればハングル表記は「ドンリョル」となる。ただ、本人が「烈」に「ヨル」のハングルをあてるよう希望したことから、メディア側もそれを尊重し、「ドンヨル」と記されるようになった。
ただ、これはハングル表記に限っての話であり、「自分の名前を呼ぶのに、標準的な発音ではなく本人が望む音を使う例は非常に珍しい」(ユ氏)そうだ。そのため、ユ氏は「尹錫悦氏本人が望む読み方を認識している人は『ユン・ソンヨル』または『ユン・ソンニョル』と言い、そうでない人は標準的な発音通り、『ユン・ソギョル』と口にしている」という。
さて、尹錫悦氏の読み方について、日本メディアでは主に「ユン・ソクヨル」「ユン・ソギョル」「ユン・ソンヨル」の三つに分かれている。多くが「ソクヨル」を使っているが、連音化が考慮されておらず、現地の発音に比べると明らかに違和感がある。かつて「朴槿恵」氏が大統領になった際、当初は「パク・クンヘ」と書いていたメディアの多くが、後に連音化を考慮して「パク・クネ」に変更している。
少なくとも2022年3月まで尹錫悦氏の名前はメディアを賑わすことになる。早期の“一本化”に期待したい。