電波芸者とオトコ芸者と人身御供 テレビ朝日の女性記者セクハラ告発とイギリス女性参政権100周年
財務省からの意趣返しが怖かった?
[ロンドン発]財務省の福田淳一前事務次官からセクハラ被害を受けたと週刊誌で訴えたテレビ朝日の女性記者は上司に複数回にわたって被害を訴え、約1年前からは夜の単独取材を控えていたそうです。角南(すなみ)源五テレビ朝日社長が24日の定例会見で明らかにしました。
今月4日、森友学園への国有地売却問題でNHKの独自ネタの裏付けをデスクから命じられた女性記者は福田氏から電話を受け、デスクに報告した上で福田氏に単独取材。その際もセクハラ被害を受けたため、隠し録音をして上司に福田氏のセクハラを報道するよう訴えました。
しかし聞き入れられなかったため、セクハラ被害が黙認される恐れがあるとして週刊新潮に隠し録音した音源を持ち込んだそうです。女子アナが「電波芸者」で、男性記者が「オトコ芸者」なら、女性記者は完全な「人身御供」です。
テレビ局も財務省からの意趣返しが怖くて、女性記者の訴えを黙殺したとしたら情けなくて言葉もありません。女性記者に人権は認められていないのでしょうか。抜いた抜かれたのくだらない特ダネ競争より、もっと大切な社会的公正というものがあるはずです。
イギリスの女性記者は団結
イギリスの女性記者の割合は2016年時点で45%。もし同じような事件が起きたら、会社の垣根を越えて女性記者が団結して福田氏とテレビ朝日の社長やデスクは完全に吊し上げられていたでしょう。
11年5月にケネス・クラーク司法相(当時)が英BBC放送のラジオ番組で、強姦(レイプ)犯を含め犯罪者が早く有罪を認めた場合、刑期を半分にする考えを明らかにした際、「重大なレイプ」と「デート・レイプ」を区別したことがあります。
「レイプに重大も、そうでないもない」と瞬く間に30人以上の女性記者がクラーク氏を追いかけ回し、その映像が24時間TVニュースで流され続けました。クラーク氏は即座に「私の見解はすべてのレイプは重大ということだ」という釈明に追い込まれてしまいました。
しかし、そんなイギリスでも3分の2の女性がセクハラを経験していると報じられています。イギリスで男女平等の運動が始まったのは18世紀の産業革命がきっかけです。女性も工場の賃金労働者として外に働きに出るようになりましたが、低賃金労働に苦しめられていました。
女性参政権運動
女性の地位を向上させるには議会で法律を成立させるしかありません。しかし当時、女性には参政権が認められていませんでした。 1897 年にミリセント・フォーセット夫人(1847~1929年)が「女性参政権協会全国連合(NUWSS)」を設立して女性参政権運動に取り組みます。
合法的な手段で運動を進めたNUWSSは「穏健派サフラジスト」と呼ばれ、1918年に一定の財産を持つ30歳以上の女性に投票が認められました。
今年がちょうど100年に当たることからフォーセットの銅像が英議会前広場に建てられました。24日に除幕式が行われました。
議会前広場には第二次大戦でナチス・ドイツに勝利したウィンストン・チャーチル元首相、インド独立の父マハトマ・ガンジー氏、アパルトヘイト撤廃のネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領ら11体の像がありますが、すべて男性です。女性の像はフォーセットが初めてです。イギリスには828体の像がありますが、女性の像は5分の1の174体だそうです。
除幕式に出席したテリーザ・メイ首相は「ミリセント・フォーセットの行動がなければ、私がここに首相として立っていることも、女性議員が議会に議席を持つことも、今、女性が享受している権利や保護を持つこともなかったでしょう」とフォーセットの功績をたたえました。
メイ首相は「鉄の女」と呼ばれたマーガレット・サッチャー以来、イギリス2人目の女性首相。欧州連合(EU)離脱交渉という火中の栗を拾う役回りを担っています。
女性議員50%を達成しよう
昨年8月に発表された民間シンクタンクIPPRの報告書によると、イギリスの女性議員の比率は地方議会で33%(日本は都道府県議会・町村議会9.8%、市区議会14.8%)、地方議会のリーダーは17%。男女半々の比率にするためにはさらに3028人の女性議員(50%超の増加)が誕生する必要があります。
ちなみに国会議員の比率は32%(日本は10.1%)です。
議会前広場に男女平等の実現を求めて多くの女性が集まりました。
建設業界でエンジニアとして働くメグ・ロビンソンさん(25)は「私が働く業界はまだまだオトコ社会。フォーセット夫人の銅像は私たち若い女性を刺激してくれます。議会前広場にはもっと多くの女性像が必要です」と話しました。
議会で働くビッキー・ネビンさん(24)は「女性はもっと主張していかなければなりません。女性議員がもっともっと必要です」と訴えます。
テロリストと呼ばれた女性闘士
イギリスの女性参政権獲得でフォーセットより大きな役割を果たした女性闘士がいます。「女性社会政治連合(WSPU)」を設立したエメリン・パンクハースト(1858~1928年)です。
下院への突入、投石、公立美術館での絵画切り裂き、教会への爆弾投げ入れ、放火、郵便ポストへの薬品注入を繰り返したWSPUは「過激派サフラジェット」と呼ばれます。サフラジェットは治安警察の監視下に置かれ、投獄された女性は1,000人を超えました。
サフラジェットの闘争がなければ、フォーセットの銅像が議会前広場に立つこともなかったでしょう。除幕式の最後はサフラジェットに捧げる歌で締めくくられました。
イギリスでは女性と仕事をする機会が多く、セクハラと少しでも疑われる行為をすると仕事ができなくなり、友人も失ってしまいます。
筆者は福田前事務次官と刺し違える覚悟で告発したテレビ朝日の女性記者の行動を全面的に支持します。日本でも女性の就業率が25~44歳で72.7%に達した今、セクハラを放置していてはいけません。セクハラは女性への冒涜(ぼうとく)であり、社会の効率性を落としてしまうからです。
権利は与えられるものではありません。まず女性の一人ひとりがパンクハーストのように闘う覚悟を決めなければ、日本に男女平等は永遠に訪れないでしょう。手始めに「#MeToo(私も)」や、ノーベル文学賞を選ぶスウェーデン・アカデミー(定員18人)を舞台にしたセクハラに抗議する「プッシーボウ(リボン結び)」をバッジにして身に着ける運動を展開してみてはどうでしょう。
(おわり)