カタツムリと料理人に共通点はあるか?
バイオミメティクスという分野をご存知でしょうか。バイオミメティクスとは「生物の構造や生産プロセスなどから着想を得て、新しい技術の開発やものづくりに活かそうとする科学技術」のことです(公益社団法人日本高分子学会)。
この春、国立科学博物館でバイオミメティクスの企画展が開催されており、見に行ってきましたが、生物が持っている構造や機能の素晴らしさに感動しました。また、それらを他の物質で再現できる技術力にも感動をおぼえました。例えば、昆虫などが持つ構造色という仕組みを活用した色褪せない素材や、羽の構造を活用し少ない風でも効率よく回転する風車などが紹介されていました。これらの素材は、エネルギー効率や持続性などの面で、課題解決に活かされているそうです。
ただ、生物学の分野と工学の分野にはまだあまり接点がなく、両者の知見が利用されにくい現状があるとのことでした。企画展の出口でアンケート調査をしていた研究者の方が教えてくれました。こうした課題を解決すべく、生物規範工学オントロジーというウェブサイトで生物学の知見と工学の知見の関連性について視覚的に探索する方法が提供されるなど、試行錯誤が続いているようです。
このウェブサイトで調べると、例えば、カタツムリには防水・自浄機能があり、防汚・抗菌塗料の開発や製造に役立つ可能性があると、わかります。
このように、生物の構造が工学的にどんな意味を持つのかを視覚的につなげて示すことで、両者に接点というか道ができ、知見の活用につながりやすくなるのでしょう。そもそも、工学的な問題の解決に生物学の知見が役立つ可能性があると思わなければ着想は得られないでしょうし、わかっていたとしても具体的に何がどうつながるかが見えにくければ、着想を得ることは難しいのかもしれません。両者の道をつなげる取り組みが今後進み、色々な分野で活用されることが期待されます。
バイオミメティクスの例は、一見接点がないような分野の間でも、それぞれの持つ構造や機能の類似点に注目すると、課題の解決に向けたアイディアが得られる可能性があることを、示しています。
知識や技能を伝える場面でも、一見無関係な分野同士の中に、構造や機能について類似点があり、アイディアが共有できる可能性があると考えます。例えば、料理の腕は確かなものの接客が苦手な料理人の方が、カウンター形式のお店を開く場合、対人支援の分野で使われているようなヒューマンスキルに関するトレーニングやケーススタディが役立つ可能性があります。しかし、料理と対人支援は基本的に無関係な分野と見えるため、こうした活かし方をされることは稀かもしれません。
カタツムリが汚れにくい外壁に役立つ、と言われてもピンと来ないように、異なる分野同士は、基本的に共通点よりも相違点が多いものです。また、自分にとって近い分野よりも遠い分野の方が接点を見つけにくいとも言われています(学習転移の問題)。
その中で、異なる分野間の接点をどう見つけ、両者に道をつなげるかは、難しいことですが、考え甲斐のあるテーマとも思います。その際、構造や機能の相違点ではなく共通点に注目し、両者をつなげてみることの重要性を、バイオミメティクスは教えてくれます。そして、構造や機能のつながりを見つけた人は、他の人は想像することが難しいような新しい方法を発見し、課題の解決に前進できるのかもしれません。
カタツムリと料理人の共通点は何でしょうか?きかれてもパッとわかるものではないでしょうし、両者に共通点なんてそもそもないか、あっても何かの役に立たないかもしれません。そう考えるとモヤモヤしますが、両者の共通点を探すプロセスの先に、大きな発見があるのだと思います。