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知られざる環境汚染源「タバコの吸い殻」は「マイクロプラスチック」である

石田雅彦サイエンスライター、編集者
写真撮影筆者

 海岸を歩くと、驚くほど多くのタバコの吸い殻が打ち上げられていることを見つける。実は、タバコの吸い殻はマイクロプラスチック(マイクロファイバー)として、海を含む地球環境を汚染し続けている。

吸い殻は街から海へ

 タバコの吸い殻のポイ捨てがなくならない。喫煙者が減っているとはいえ、路上などにポイ捨てされた吸い殻はまだかなり目立つ。

 こうして街中でポイ捨てされたタバコの吸い殻は、雨水で流され、風で吹き寄せられるなどして排水溝のスリットから下水へ流れ込む。その後、河川へ流れ、やがて海へいたり沖合で漂流したり海岸へ打ち上げられたりする。

タバコの吸い殻を街中で捨てると、それはやがて海へ流れ、マイクロプラスチックとなって広く環境を汚染する。図作成筆者
タバコの吸い殻を街中で捨てると、それはやがて海へ流れ、マイクロプラスチックとなって広く環境を汚染する。図作成筆者

 タバコ(加熱式タバコを含む)関連のゴミを構成しているのは、吸い残しの葉タバコ、フィルター、フィルター巻取紙、糊、印刷インク、パッケージなどだ。そして、使い捨てライターもタバコ関連のゴミに含まれるだろう。また、電子タバコやアイコス(IQOS)などの加熱式タバコでは、電気デバイスも厄介なゴミになる。

 タバコのフィルターは、パルプを酢酸に反応させて作られるアセテート繊維(酢酸セルロース、アセチルセルロース)という合成樹脂プラスチックの一種だ。また、フィルターには、柔軟性を持たせるための可塑剤としてトリアセチン(グリセリントリアセート)、臭気吸着のためのアナターゼ二酸化チタンなどが添加され、1万2000本以上の繊維がY字型により合わされているとされる。

 毎年、世界で4兆5000億本のタバコの吸い殻がポイ捨てゴミになると推計されている(※1)。タバコの吸い殻1本3cmとして4兆5000億個を並べると1億3500万kmで、これは太陽までの距離(1億5000万km)にやや足りないほどの長さだ。

 少なく見積もっても、1年のタバコ生産量の1/2が吸い殻としてポイ捨てされると換算すると、日本では年間約500億本(紙巻きタバコ、2019年の販売数量1181億本)以上がポイ捨てされていることになる。

吸い殻はマイクロプラスチックになる

 環境汚染源としてマイクロプラスチックが問題視されているが、衣類から出る合成繊維もプラスチックの一種であり、自然素材も染料や仕上げ材などの化学物質が付着している。これらが環境中へ流出し、紫外線や波風などで細かくなるとマイクロプラスチック(マイクロファイバー)と化す(※2)。

 タバコのフィルターも同じで、マイクロプラスチック、マイクロファイバーとして環境の汚染源になる。スペインの研究グループによる推計では、タバコの吸い殻によるマイクロファイバーは年間約30万トンになるという(※3)。

 韓国の研究グループによる研究によれば、タバコの吸い殻によるマイクロファイバーが、バナメイエビ(クルマエビの一種)のエラから入り込み、骨格形成に悪影響をおよぼすことで脱皮などに問題を生じさせる恐れのあることがわかった(※4)。同研究グループは、吸い殻のマイクロファイバーにより、甲殻類などの海洋生物の環境適応能力が減衰する危険があると指摘している。

タバコ会社に製造物責任を

 タバコの吸い殻自体には、ニコチン、ヒ素、鉛、銅、クロム、カドミウムなどの重金属、発がん性物質を含む多環芳香族炭化水素などの毒性の高い物質が濃縮されている。また、タバコのフィルターは、2年経っても38%ほどしか分解されず、素材にもよるが完全に分解されるまでには2.3〜13年ほどかかるという(※5)。

 マイクロプラスチックは、細かくなると製造元がわからなくなる。だが、ポイ捨てタバコの製造元は明らかだ。この環境汚染の責任は、製造元であるタバコ会社が負うべきだ(※6)。

 実際、2023年1月5日、EU(欧州連合)は、タバコの吸い殻対策に新たな規則を作り、タバコ廃棄物の清掃や回収、処理をタバコ会社の製造物責任とし、タバコ会社はタバコの廃棄物の害について人々に広く周知する義務も負うと定めた。アイルランドでは道路の清掃費用の一部(56億円以上)をタバコ会社が負担しなければならないようになり、スペインではタバコの吸い殻を収集して廃棄する責任をタバコ会社が負うことになっている。

 製造元がはっきりとわかるタバコの吸い殻が、マイクロプラスチック、マイクロファイバーとなって環境を汚染し、我々の健康を脅かす。タバコ会社への一刻も早い規制が必要だろう。

※1:Thomas E. Novotny, et al., "Tobacco Product Waste: An Environmental Approach to Reduce Tobacco Consumption." Current Environmental Health Reports, Vol.1, Issue3, 208-216, 2014
※2-1:Samantha N. Athery, Lisa M. Erdle, "Are We Underestimating Anthropogenic Microfiber Pollution? A Critical Review of Occurrence, Methods, and Reporting" Environmental Toxicology and Chemistry, Vol.41, Issue4, 822-837, April, 2022
※2-2:Alexander Matthew David Finnegan, et al., "Man-made natural and regenerated cellulosic fibers greatly outnumber microplastic fibers in the atmosphere" Environmental Pollution, Vol.310, 1, October, 2022
※3:Rrancisco Belzagui, et al., "Cigarette butts as a microfiber source with a microplastic level of concern" Science of The Total Environment, Vol.762, 25, March, 2021
※4:Lia Kim, et al., "Microfibers from cigarette butts can induce exoskeletal alteration in whiteleg shrimp (Penaeus vannamei)" Marine Pollution Bulletin, Vol.197, December, 2023
※5-1:Giuliano Bonanomi, et al., "Cigarette Butt Decomposition and Associated Chemical Changes Assessed by 13C CPMAS NMR." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0117393, 2015
※5-2:Francois-Xavier Joly, et al., "Comparison of cellulose vs. plastic cigarette filter decomposition under distinct disposal environments." Waste Management, Vol.72, 349-353, 2018
※6:Clifton Curtis, et al., "Tobacco industry responsibility for butts: a Model Tobacco Waste Act." Tobacco Control, Vol.26, Issue1, 2016

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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