Yahoo!ニュース

相手の日本対策に再び苦戦を強いられたベトナム戦で森保ジャパンが手にした収穫と課題【ベトナム戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

Aチームの編成を貫き通した森保監督

 ベトナムと対戦したアジアカップ準々決勝。森保ジャパンは、後半57分の堂安律(フローニンゲン)の決勝ゴールにより1-0で勝利を収め、順当にベスト4に駒を進めた。

 近年は急成長を遂げているものの、まだW杯に出場した経験のないベトナムの最新FIFAランキングは100位。登録メンバー全員が自国クラブに所属し、U-23代表を中心に編成した今大会のチーム平均年齢は、出場24チームのなかでもっとも若い23.1歳だ。

 W杯を含めた国際経験が豊富で、約半数の選手がヨーロッパでプレーするFIFAランキング50位の日本にとって、ベトナムは勝って当然の相手と言えた。

 とはいえ、森保ジャパンのこれまでのパフォーマンスレベルから見れば、大差をつけてベトナムに圧勝する展開が想像できなかったのも事実。実際、堂安の決勝ゴールはVAR判定で得たPKによって奪ったもの。日本が作った決定的チャンスは想像以上に少なく、内容的には乏しい試合となってしまった。

 ただ、勝利したこと以外に収穫がなかったこの試合を振り返るとき、日本側のエクスキューズとしておさえておかなければならない点もある。それは、ベトナムはこの試合まで中3日の休養があったのに対し、日本は中2日しかなかったという日程的ハンディキャップだ。

 もちろんその大前提を知りながら、ラウンド16(サウジアラビア戦)から1枚しかスタメンを入れ替えなかった日本の自業自得と言えばそれまでだが、少なくとも中2日の場合はリカバリーしかできないことを考慮すれば、この試合の日本が低調に終わった理由のひとつとして頭に入れておく必要はあるだろう。

 いずれにせよ、森保一監督はこの試合もサウジアラビア戦から継続してAチームでスタメンを編成した。唯一の変更は、累積警告による出場停止の武藤嘉紀(ニューカッスル)に代わって1トップに北川航也(清水エスパルス)を起用した点のみ。負傷が癒えた大迫勇也(ブレーメン)のスタメン復帰も囁かれたが、「今日の段階では90分できない」(森保監督)ため途中出場にとどまっている。

 毎度のことながら、この試合においてもスタメン編成について議論の余地はある。準決勝で強豪イランと対戦すると考えても、このベトナム戦ではスタメン数人を入れ替えるのが妥当だが、しかしこの試合でも指揮官はAチームの編成を貫いた。

 試合後にその理由を問われた森保監督は、「(中2日で)トレーニングができない状況だったので、サウジアラビア戦での良い連係を持続することが最善だと考えた」と答えているが、ここまでくると、それは建前のコメントにしか受け止められない。

 おそらく森保監督は、大会前からAチームでアジアカップを戦い抜くと決めていたのだろう。その穏やかな人柄とは裏腹に、心に秘めた信念は絶対に曲げないそのパーソナリティから推測すれば、そう考えるのが妥当だ。次の準決勝イラン戦でもAチームでスタメンを組むはずで、もし大迫のスタメン起用が難しいようなら、そこには出場停止明けの武藤を復帰させ、それ以外の10人はベトナム戦と同じメンバーが予想される。

 一方、グループ3位でグループリーグを突破し、ラウンド16では120分の激闘の末にPK戦でヨルダンを破ったベトナムは、その試合とまったく同じメンバーをスタメンに起用。システムも同じ5-4-1という守備的布陣だった。

 ヨルダン戦との唯一の違いは、試合開始から約10分間、2列目右サイドに16番(ド・フン・ズン)が位置し、19番(グエン・クアン・ハイ)が右インサイドハーフでプレーしていた点だ。ただし、それ以降は2人の位置を入れ替えて通常のポジションに戻ったことを考えると、日本の左サイドを惑わすための牽制的な意味合いが強かったと思われる。

前半はベトナムの日本対策に苦戦

 果たして、日本のキックオフで始まった前半は、いつものように吉田麻也(サウサンプトン)からサイドへのロングフィードで幕を開けると、日本が望まざる展開が待っていた。

 ベトナムの狙いははっきりしていた。中間ポジションをとる日本の両ウイング、そして両サイドバックの上がりを5バックがしっかりケアし、2列目4枚は左右にスライドして日本のボランチやセンターバックから前線に入れる縦パスのコースを封じる。そして、ボールを奪ったら、サイドに流れる1トップを起点に速攻を仕掛けてきた。それは、トルクメニスタンとよく似た日本対策だった。

 そんなベトナムに対し、日本の前半のボール支配率は69.2%を記録している。もちろん出場チーム中、もっとも低い平均ボール支配率(48.6%)を記録するベトナムにとってそれは想定内。つまり試合の構図は、日本がボールを握り、ベトナムが引いて守ってカウンターを狙うという展開となった。

 そんななか、日本は、センターバックやボランチがルックアップしたときにパスコースが見つからず、やむなく横パスやバックパスでビルドアップをやり直すというシーンが目立った。ベトナムはトルクメニスタンよりも低い位置で構え、しかも2列目中央の2人がボランチへのプレッシャーより、パスコースを消すことに重点を置いていたことが、その主な原因となった。

 日本は局面を打開すべく、吉田からサイド方向に入れる斜めのロングフィードで相手の守備ブロックを広げ、中央が空いたところで柴崎岳(ヘタフェ)からの縦パスを狙う攻撃を繰り返した。前半に吉田が入れた斜めのフィードは計9本。主に左サイドの長友佑都(ガラタサライ)、原口元気(ハノーファー)へのパス供給が多かった。また、柴崎の縦パスは前半だけで17本を記録している。

 狙いとしては悪くなかったが、ベトナムのスライドが素早く、柴崎が半ば強引に縦パスをつけようとしたことにより、ミスパスや受け手のボールロストが目立ち、結果的に相手の狙いにはまってしまった。吉田が入れた縦パスが引っかかるシーンも、何度か見受けられた。

 結局、前半で日本が作ったチャンスは2度。29分、ショートコーナーの流れから柴崎が入れたクロスをゴール前でフリーになっていた冨安健洋(シント・トロイデン)がヘディングシュートを放ったシーン。もうひとつは、前半終了間際に堂安のパスを斜めに走った南野拓実(ザルツブルク)がニアサイド至近距離から放ったシュートシーンだったが、いずれも相手GKの好セーブに阻まれた。

 逆に、ベトナムのもうひとつの狙いであるカウンターから日本がピンチになるシーンも2度あった。

 まず、14分に酒井宏樹(マルセイユ)のクロスを4番(ブイ・ティエン・ドゥン)がヘッドでクリアしたあと、そのボールをひろった10番(グエン・コン・フォン)がドリブルで冨安を振り切って日本のペナルティエリア付近まで持ち込み、右足を振り抜いたシーン。

 もうひとつは27分、自陣左サイドで堂安を囲み、ボールを奪ったあとに7番(グエン・フイ・フン)から10番にパスをつなげ、再び10番が堂安、冨安を振り切って吉田との1対1になったシーンだ。結局、どちらのシュートも枠をとらえることはなかったが、ヒヤリとさせられたシーンだった。

 そのほか、37分に厚みのあるサイド攻撃から最後は20番(ファン・バン・ズク)にシュートを放たれたシーン、38分にGK権田修一(サガン鳥栖)と吉田の意志疎通を欠いたパス交換が招いた危ないシーンもあったが、日本はいずれも事なきを得ている。

後半から日本のリズムになった要因

 前半の日本は予想どおりの展開で苦戦を強いられたわけだが、後半になるとリズムを取り戻したように見えた。しかし、そう見えたのはあくまでも印象の部分であって、実際に細かく見ていくと、後半から日本の攻撃が機能するようになったわけでもなく、チャンスが増えたわけでもなかった。

 たとえば、後半のボール支配率は前半の69.2%から67%にやや低下。終盤にベトナムがリスクをかけて攻めた時間帯に、日本が受けに回ったことがその原因だろう。

 また、日本は縦パスの回数も減って、後半の柴崎の縦パスは8本に激減。遠藤航(シント・トロイデン)の縦パスは増減がなく前半後半ともに6本のままで、吉田に関してはサイドへのロングフィードがなくなったうえ、中央方向への縦パスがロングフィードも含めてわずか3本に減っている。

 試合後の会見で、後半に縦パスが減った原因について聞かれた森保監督は、「データ的にも自分としても、そういう認識はない」と答えていたが、実際は縦方向へのパスが減少していたことは明らかだった。もちろん、縦パスがすべてではないのでそれ自体に問題はないが、少なくとも森保監督自身も後半の内容に悪い印象を持っていないことは、そのコメントからも伺えた。

 では、ボール支配率も縦パスも減少しながら、なぜ後半の日本はペースをつかんだように見えたのか。

 考えられる理由は、まずベトナムの選手が時間の経過とともに消耗したことが挙げられる。実際、パク・ハンソ監督もそれを想定していたのか、後半に入って54分、63分、75分と、交代カードを切ってフレッシュな選手を投入。勝機を見出そうとしたが、後半は2列目のスライドにズレが生じた結果、日本にパス回しをしやすい状況を与えてしまっていた。

 また、57分に先制した日本が、リスクの高いパスを控えたことも影響したと考えられる。事実、柴崎の縦パス本数は大きく減少したものの、8本のうち相手にカットされたのは2本のみで、直接チャンスを生み出すことはなかったが、パス成功率は前半よりも格段に上昇。吉田の縦パス3本も、すべて味方につながっている。

 さらに、72分に大迫がピッチに登場したことが日本のプレーに安定をもたらした。大迫の投入によってチャンスが増えたわけではなかったが、不用意にボールを失うシーンが減り、チーム全体が落ち着きを取り戻したように見えた。

 結局、先制以降、日本が作ったチャンスは66分のオフサイドになった北川のシュートと、77分の南野のシュートの2度だけだったが、相手のカウンターを受けるシーンもなく、終盤もピンチらしいピンチはなかった。

 とはいえ、ベトナム戦が低調な試合だったことに変わりはない。トルクメニスタンと同じような対策を打たれたなかで、日本が新たな解決策を見出したわけでもなく、勝った以外に次につながるものがあったかと言えば、それも見当たらなかった。

 こうなると、心配なのは準決勝のイラン戦だ。ここまでのイランの戦いぶりは、アジア最強(FIFAランキング29位)と呼ぶに相応しい内容で勝ち続けていて、とりわけここまでの5試合で失点はゼロ。日本にとっては、今大会初となる格上チームとの対戦になる。

 そこでもっとも注目されるのが、イランを率いるカルロス・ケイロス監督と、森保監督のベンチワークだ。これまで5試合は選手の自主性を軸に勝ち上がってきた森保ジャパンだが、さすがにイラン相手にそれだけでは通用しないと思われる。

 果たして、次のイラン戦で森保監督は自らの采配でチームを勝利に導くことができるのか。それとも、これまでどおり戦況を見守って選手の自主性に賭けるのか。現状では後者となる可能性は高いが、森保監督の本当の手腕を評価するうえで最高の舞台であることは間違いなさそうだ。

(集英社 Web Sportiva 1月27日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

中山淳の最近の記事