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【横浜市】新年度に知っておきたいハマっ子の生態(前編) 横浜市歌、浜銀、鳩サブレー、有隣堂

krayskyライター/東京神奈川行ったり来たり(横浜市)

何かとネタになりがちな横浜市民、「ハマっ子」。「生粋のハマっ子」や「自称ハマっ子」たちに聞き取りを行いながら、「ハマっ子の生態」について考えてみる。今春から新しく横浜に来た人、そして彼らを迎えるハマっ子たちにとって、話題の端緒となれば幸い。

かくいう筆者は横浜を身近に感じながら育つも、自称「ハマっ子ではない」。そんな適度な距離感を保ちつつ、横浜に関する確かな情報と、「確からしい」情報とを織り交ぜてお伝えします。

・「出身は?」と聞かれたら「横浜」。その答えにプライドを持っている
・横浜市歌、意外と歌えない
・初めての銀行口座は横浜銀行
・手土産はなぜか「鳩サブレー」
・「有隣堂」を全国区の書店だと思っている

「出身は?」と聞かれたら「横浜」。その答えにプライドを持っている

あまりにも有名なネタだが、横浜で生まれ育った人間なら、「出身は?」と聞かれたときの答えはただ一つ、「横浜」。「『神奈川県』とは言わないんだね?」と指摘してみても、「『神奈川』と答えることはないね」、「『横浜』って言っちゃう…」等、ニュアンスの差こそあれ、「横浜」と答えること自体を誇らしく思い、プライドを持っているようだ。

じつはこの「横浜」意識、人間のみならず行政からも感じたことがある。引っ越しや就職などで使う住民票。横浜市で住民票を取得すると「神奈川県」の表記がないのだ。つまり住民票上の世界は、横浜市から始まっている。

住民票(画像の一部と短辺を加工してあります)
住民票(画像の一部と短辺を加工してあります)

さらに住所表記では「横浜市」さえも省略され、突然「区」から始まる。全国に20ある政令指定都市の中で、人口377万を抱える横浜市は、押しも押されぬトップ。2位の大阪市をも100万人引き離している(※1)。この政令指定都市に「行政組織上の特例」として認められているのが、区の設置。横浜市内で生活する場合、「市」のくくりでは範囲が広いため、「中区」「西区」「瀬谷区」といった区の単位がよく使われるのだ。

横浜市歌、意外と歌えない

横浜市民が初等教育で刷り込まれる歌、それが「横浜市歌」だ(※2)。横浜市民は誰でも歌えるらしい、という形で取り上げられることも多いが、実際のところは「歌えない…」「メロディーはわかるけど…(歌詞は自信ない)」というハマっ子の声も聞く

そんなハマっ子、そして新しく横浜市民になる人のために、横浜市はホームページで横浜市歌の歌詞・楽譜・音源を提供している(「横浜市歌について」)。

横浜市ホームページ「横浜市歌について」より
横浜市ホームページ「横浜市歌について」より

横浜市歌は、明治42(1909)年に、横浜の開港五十周年を記念して作られた。明治42年ですでに五十周年というのがすごい。作詞を担当したのが、あの森鷗外先生というのもまたすごい。

付点8分音符を効果的に使った、弾むようなリズム。♪ターーンターンタ、タタタタ、タータッタッタッターー、という冒頭を聴くと思い出す、という人も多いのでは。

歌詞は港の立派さや、貿易で栄えている様子を歌っているが、面白いのは開港する前の小さな村だった横浜にも触れていること。「むかし思えば とま屋の煙/ちらりほらりと立てりしところ」と歌われているように、藁ぶき屋根などの質素でこぢんまりとした民家が並ぶ様子が、想像される。開港した当時は、東海道(旧東海道)のほうににぎわいがあり、もう少し内陸の神奈川宿あたりがメイン通りだったわけだ。

市立小学校に通わなかった、あるいは大人になってから横浜市民になったという人たちにとっては、歌う機会もなかなかないところ。現在では毎年6月2日の開港記念日などで演奏されるほか、横浜市営地下鉄の構内BGMとしても使われている

初めての銀行口座は横浜銀行

初めてのアルバイト、そして初めて作る銀行口座。自分名義の通帳を手にしたときには、一つ大人になったように感じたものだ。横浜育ちの場合、初めての銀行口座はかなりの高確率で「横浜銀行」らしい。筆者がヒアリングしたハマっ子に関しては、じつは全員が「初めての銀行口座は横浜銀行」と答えた!

大正9(1920)年に設立された「横浜興信銀行」を前身に、戦後「横浜銀行」と名前を改め、高度経済成長の時代には預金量が全国の地方銀行でトップに(※3)。横浜市民はもちろん、神奈川県民にとって最も身近な銀行として、存在感を増した。

かつての「神奈川スケートリンク」が現在では「横浜銀行アイスアリーナ」(横浜市神奈川区)となり、「横浜こども科学館」のネーミングライツを取得し「はまぎん こども宇宙科学館」(横浜市磯子区)とするなど、現在も地域密着の工夫が続いている。

手土産はなぜか「鳩サブレー」

ハマっ子のお出かけ、そして手土産持参。ここで大活躍するのが、豊島屋の「鳩サブレー」である。ところで豊島屋は鎌倉市の企業であり、「鳩サブレー」も厳密には鎌倉土産だ。そこをやや疑問に思って「でも『鳩サブレー』って鎌倉のお菓子だよね?」と改めて尋ねてみると、「えっ、うん、でもお土産といえば『鳩サブレー』だな…」と、ハマっ子は少し歩が悪そうである。

ちなみに崎陽軒のシウマイを持参するという案もなくはないらしいが、手土産としては菓子が一枚上手。親戚の家に行くといった場面では、どっしりとしたおかずとして、シウマイも候補にはなるらしい。

定番すぎて、この鎌倉土産であり神奈川土産である鳩サブレーは、横浜の市民権を得ている。横浜スタジアムのバックネット裏広告にも「鳩サブレ―」は掲げられている。豊島屋の販売店は、横浜高島屋、そごう横浜、上大岡の京急百貨店などにある。

「有隣堂」を全国区の書店だと思っている

明治42(1909)年、伊勢佐木町で創業。横浜市の学習と読書とミュージックを支える、地元の大書店である。神奈川県外では、東京と千葉に合わせて十数店舗を持つのみで、神奈川県内ローカルの展開を主としている。

有隣堂 伊勢佐木町本店
有隣堂 伊勢佐木町本店

とあるハマっ子は、県外に出たときに有隣堂が見つからずに戸惑ったらしい。書店といえば有隣堂、文房具が足りなくなったら有隣堂、ということなのだ。

最近ではYouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」も人気。時には自虐をも厭わないネタを折り込み、老舗書店でありながら攻めた姿勢を崩さない。有隣堂のカラフルなブックカバーにも通ずる、書籍や文房具を愛する明るさと、古びない感性があるようだ。ちなみに文庫カラーカバーは10枚1組で購入可能、それもネットストア(有隣堂ヤフーショッピング店)でも買えるから驚きだ。

有隣堂ホームページより「文庫カラーカバー」
有隣堂ホームページより「文庫カラーカバー」

故郷を離れ、有隣堂をなつかしく思っているハマっ子たちよ。ネットストアでブックカバーを買って、文庫本に巻くという手があるぞ!

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引き続き後編では、この春から横浜に編入する方にも(きっと)役立つ、ハマっ子ならではの話題をご紹介します。

<注>
※1 令和2(2020)年国勢調査 (総務省ホームページ)
※2 横浜市立の小学校では、校歌とともに横浜市歌が歌唱指導されている 。「横浜市歌について」(横浜市ホームページ)
※3 「横浜銀行の歴史」(横浜銀行ホームページ)

ライター/東京神奈川行ったり来たり(横浜市)

東京生まれ、東京&神奈川&アメリカ大陸育ち。出版社やメーカー勤務を経て、好奇心とともに東奔西走。好きな言葉は「一石二鳥」「三つ子の魂百まで」。文化/日本語/フィクションとノンフィクション/経済的/すこやかな生活。

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