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ロバート・ダウニー・Jr.に恩赦。服役囚から最高のギャラを稼ぐ大スターになるまでの長い道のり

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「アイアンマン」などで3年連続”最も稼ぐ俳優”となったロバート・ダウニー・Jr.(写真:Splash/アフロ)

ロバート・ダウニー・Jr.が、カリフォルニア州知事ジェリー・ブラウンから恩赦を受けた。今年ちょうど50歳になる彼は、人生なかばにして、ついに暗い過去をすっかりと捨て去ったのだ。「処罰を終え、釈放されてから、ロバート・ダウニー・Jr.は、彼が住むコミュニティで良い行動を取ってきた。彼は社会への借りを返し、完全かつ無条件の恩赦を手にしたのだ」と、ブラウンはコメントを発表している(恩赦は犯罪歴を消すことはしないが、ある種の免許や職業に就くことが許されるようになる。)

「アイアンマン」でダウニー・Jr.を知るようになった若い映画ファンにはピンとこないかもしれないが、90年代、ダウニー・Jr.は、ドラッグとアルコールのせいで警察のお世話になりっぱなしで、1999年には1年近くを刑務所で過ごしている。ドラッグ中毒の父をもつ彼は、ドラッグに囲まれて育ち、6歳で父にマリファナを教わった。1996年には、運転中、スピード違反で止められ、車の中にヘロイン、コカイン、銃があったことから、逮捕されることに。その1週間後の仮釈放中には、近所の家に入り込み、子供の寝室で寝るという事件を起こしたが、その時も薬物の影響が確認され、3年の保護観察処分を言い渡されている。97年には、裁判所が定めるドラッグテストを行わなかったため6ヶ月を刑務所で過ごし、99年にはまた同じ理由で3年の服役を言い渡され、1年で出所した。さらに、2000年にはパーム・スプリングスで、その翌年にはカルバー・シティで、ドラッグの使用のため逮捕されている。

その間も、同僚の間での彼の演技力への評価は高く、メル・ギブソンは彼が出所するやいなや舞台劇「ハムレット」の主役を彼にオファーしているし(結局、ダウニー・Jr.が再び逮捕されたため、実現しなかった、)当時高い視聴率を誇っていたテレビドラマ「アリー・myラブ」にもゲスト出演し、エミー賞にノミネートされている(が、やはり、またもやドラッグがらみの警察沙汰で、番組から急遽消されることになっている。)ジュリア・ロバーツ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズらの「アメリカン・スイートハート」にも出演が決まったが、逮捕のため役を失い、ウディ・アレンは「メリンダとメリンダ」に彼の出演を望んだが、度重なる事件で、保険会社が嫌がり、断念している。

そんな彼の新しい人生は、2003年に始まる。この年、ダウニー・Jr.は、ギブソンが共演する低予算映画「The Singing Detective」でスクリーンに復帰。ダウニー・Jr.の高額な保険代は、ギブソンが自腹で払っている。また、同年には、ハル・ベリー主演のホラー映画「ゴシカ」で、久々にメジャー映画に出演した。現在の妻でプロデューサーのスーザン・ダウニーとは、今作で出会っている。

その後は、「キスキス、バンバン」「毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト」「ゾディアック」などに出演。2008年にはマーベル・スタジオが手がける初の映画「アイアンマン」に主演し、トップスターの仲間入りを果たす。ダウニー・Jr.がスーパーヒーローを演じるというのは、当時、非常に意外なキャスティングで、彼こそふさわしいと信じるジョン・ファヴロー監督は、このアイデアを通すために、相当に戦ったらしい。

同じ年に出演した「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」では、オスカー助演男優部門にノミネート。その後も「シャーロック・ホームズ」「アベンジャーズ」などを次々にヒットさせ、現在は、「Forbes」の、「最も稼ぐ俳優」の1位に3年連続で輝くまでになった。同誌によれば、2014年6月から2015年6月までに彼が稼いだ金額は、なんと8,000万ドルということだ。私生活も順調で、2015年に結婚したスーザンとの間に、3歳と1歳の子供をもつ。夫妻はプロダクション会社チーム・ダウニーを立ち上げ、「ジャッジ 裁かれる判事」などを製作している。

ダウニー・Jr.が成功への階段を駆け上る中、友人ギブソンは、飲酒運転、ユダヤ人差別発言、ロシア人の愛人に対するDV問題などで、大きな低迷に陥った。その間、ダウニー・Jr.は、ギブソンへのサポートを表明し続け、昨年には、「メルが監督するならば『アイアンマン4』に出演する」とまで発言している。それが実現しなくても、彼らは、一緒に組むプロジェクトを考えているようだ。人生の次の節目となるような、記念すべきすばらしい作品を、果たしてこのふたりは生み出すことになるだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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