Yahoo!ニュース

成長するスタートアップの人事戦略(後編)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

――――――――――――――――――

世の中で何か新しいことを始めようとしているスタートアップ企業は、常に外的な環境変化にさらされます。その変化にうまく対応しながら、事業と組織のフェーズにあわせて社内組織を整えていかないといけません。社外も社内も変数だらけの中で事業を軌道に乗せることは至難の業です。そんな中で社員が「明日、また頑張ろう」と思える人事制度を構築していくにはどうすれば良いのでしょうか? 田口光さんにインタビューしました。

<ポイント>

・ポジションにつけるにはCanとWillを見極める

・最も大事なのは、会社も人もすべてが成長できること

・人事担当者になったばかりの人が着手すること

―――――――――――――――――――――――――

■最低限やるべき人事とは?

倉重:組織に人が増えていくと、いよいよ人事を行うというフェーズになってくるわけです。最低限の人事とは何ですか?

田口:キーポジションを明らかにすることですね。スタートアップの成長速度だと、次々にポジションが出てくるわけです。その中で事業を推し進めるためのドライバーになるポジションが必ず出てきます。

 例えば、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の初期確立がなされたらセールスでどんどん新規客を増やします。次のステップとしてユーザーの離脱が増加してきたときには、カスタマーサクセスがキーポジションになります。「キーポジションはどこなのか」ということを、きちんと事業サイドと確認することがスタートです。

倉重:そのようなことを考えだすと、人事専門の人がいないときついですよね。

田口:事業部門の人に、人事の考え方を持ってもらったほうが早い場合もあります。

 最初にやることは「カスタマーサクセスのマネジャーをやるための要件とは何か?」ということを、丁寧に言語化していくことです。これが雑になるとミスマッチになってしまいます。何ができるのか、何が目標なのか、何を成し遂げたいのか、どんな能力が必要なのかをこちらから問いを立てることで言語化していかないといけません。

倉重:求められる人材要件をはっきりさせないといけないのは、募集と同じですね。大企業の適者生存のように、だんだんと選抜されていくようなスタイルではなく、「今そこに誰が必要なのか」を考えるのはポジションありきですね。

田口:日本企業は、年功や能力で給料を払ってきたので、部長代理や専任部長などの役職がたくさんできました。

倉重:メンバーシップ型といわれるものですね。

田口:バブルの時が一番顕著でしたが、それだと環境変化が起きた時にワークしなくなります。スタートアップは事業をピポッドすることも多く、環境変化を自ら起こす側でもありますので、やはりポジション側から考えないとマッチしないわけです。

倉重:今は大企業でもジョブ型のようなポジションベースで、スキルを明確化し、人をあてていくという考え方も出てきていますね。スタートアップで人事部を始めるのはどのくらいのタイミングですか。

田口:50人ぐらいで、人事専任者が置けるぐらいではないかと思います。部の規模だと100人前後くらいからでしょうか。事業の型にもよります。

倉重:最初に準備することは、本の第6章に書かれている「Xカ月後の事業状況と必要な組織体制をまず把握する」ということですね。

田口:要はシナリオプランニングの話になります。事業は変わっていくのが速く、当然事業計画どおりにはいきません。今、事業がどのような進捗(しんちょく)になっているのかをにらんで、半年後や1年後にはどのような姿になっているか逆算します。例えば「1年後には確実に部長が必要になる」「この採用計画でいくと半年後にはマネジャーが必要になる」という計画を見るところから始めます。

倉重:採用だけではなく、今いる人を抜てきしていくパターンもありますよね。その際に注意すべきことは何ですか?

田口:抜擢がうまくいかないケースとしては、対象者のCan、つまりポジション要件に必要な能力やWill、そのポジションがやりたい仕事なのかを把握せず、一方的に組織サイドの都合で配置されているからということが多いです。一日話したからわかるということでもなく、積み重ねが必要です。

倉重:スタートアップ企業にとって必要な人事制度とは何でしょうか?

田口:まず大原則として、「明日、また頑張ろう」と思えるかどうかです。人事制度は「報酬を決めるためのもの」として捉えられている節が強いですが、もともとは何が良くて何が駄目なのかをはっきりさせるためのものでもあります。それを受けて行動が改善されなければ、成果も変わりません。

 スタートアップ企業の場合、頑張って目標を達成したからといって、必ずしもそれが売り上げやインセンティブの原資になるわけではありません。

倉重:目標を達成しても、ですか?

田口:例えば「このようなことをするとユーザーが増えるのではないか」という仮説を立てたとします。そのとおりにしてみて、増えないということが分かりましたということも成果です。早くやり切ってくれたおかげで戦術を変えることができます。でもユーザーが増えていないから、原資は増えていません。多くの企業が原資から逆算しますよね。「法務本部は、昇給の原資が200万です」という予算から、誰にいくら振り分けるか考えます。

倉重:順位をつけて相対評価をするということですね。

田口:そうすると、「倉重君はすごく頑張ってくれたけど、1万円しか昇給できないな」ということになります。本来の評価はSなのに、1万円しか昇給できないのでB評価ということになります。

倉重:それはおかしな話ですよね。

田口:B評価を付けた理由をフィードバックしなければいけませんから、「倉重君はすごく頑張ったけど、ここはこうだったよね」と伝えます。相手は「すごく頑張って褒められたのに、なんで評価が低いんだろう」と戸惑いますし、明日から何をしていいのか分からなくなってしまいます。

倉重:どう改善したらいいのかも分からないわけですね。

田口:そういったことのないように、評価は評価、査定は査定で切り分けましょうというのが主張の1つです。

倉重:評価をする上では、まず記録することが大事なんですね。

田口:「人事考課」と「人事評価」「人事査定」という言葉は、みな同じような意味で使われていますよね。かなり流通している言葉ですので、それでも良いのですが、人事評価を考える上では、分けて考えたほうが構造の理解が進みます。考課は把握すること。評価は把握したものに良し悪しを付けること。査定は、処遇を決めることです。そう考えていくと、考課なくして評価はありませんし、評価なくして査定もありません。

 まず考課することと、それを把握できる体制をつくることです。小まめに事実確認をして、1on1を毎週にして、「今週はどうだったか」というフィードバックを積み重ねていくのは全然難しいことではありません。

倉重:評価の部分で気を付けるべきことは何ですか?

田口:人の行動を観る・把握するという経験を組織全体で持つことです。例えば皆で360度評価をしたり、「最もバリュー行動をとっていたのは誰か」ということを投票したり、人の行動に興味を持つことを会社全体でしていきます。

倉重:例えば、プロフェッショナルらしい行動をしているのは誰かということですね。

田口:はい、そして、なぜそう思ったのかというようなフィードバックを組織全体でします。フィードバックをすることも、受けることも特殊なことではなく、明日を良くするためのものなのです。組織全体で考課・評価の能力を底上げしていくことと、文化を形成していくことが肝要です。

■報酬の配分の考え方

倉重:その上で最後はお金に結び付けるということですね。先ほどの原資から逆算するのは良くないということでした。では、どうしたらいいですか。

田口:評価は評価として、まずきちんとフィードバックしていきます。何が良くて何が駄目なのかを共に話し合います。その上で、お金の部分では個人、チーム、会社の目標達成であれば昇給。個人の目標は達成できたけど、チームの目標が未達成であれば一時金などで対処します。事業の方程式が確定していないスタートアップの初期フェーズでは、毎期、そうした取り決めで全然構わないわけです

資料出所:田口光著『スタートアップ企業の人事戦略』(労務行政)
資料出所:田口光著『スタートアップ企業の人事戦略』(労務行政)

倉重:毎年、何パーセントの定昇というわけではなく、上げ方や上げ幅が都度変わるということですね。

田口:逆に言えば、競合が出てきて人を取られる恐れがある時は上げる必要が出てきます。制度で決めてしまっていたら、上げづらいですよね。

倉重:確かにそうですね。本に書いてあった「最も大事なのは、全てが成長できるかどうかだ」というご説明に、なるほどと思いました。

田口:それは、この本の中で最も強調している部分の1つです。事業が成長しているにも関わらず人が成長していない場合は、人が一気に辞めていくなど、遠からず疲弊します。そうなると当然、事業もスタックしますよね。

倉重:全てとは、事業だけではなく経営層自身もですか?

田口:経営層もそうですし、一般社員もそうです。

倉重:その全てのステークホルダーが成長できていないということは、採用や配置、評価、報酬のどこかにひずみがあるということですね。

田口:どこかにひずみがあり、無理をしています。ある瞬間を輪切りにすれば、もちろんどこかに偏っているということは当然ありますが、一定の時間軸で見た時に、両方が一緒に成長していなければ遠からず破綻します。

倉重:それがだんだんと組織というものになっていき、最終的には上場などに結び付いていくのだと思います。

 最後のお金の話で言えば、やはりスタートアップにおいては、金銭の報酬だけではなく、非金銭報酬もきちんと整理しておくことが大事ですよね。

田口:お金の報酬だけでは、やがて資金の限界がきます。加えて、給与が入社動機だったり、行動動機が給与に偏っている場合、もっと給与が高い所に転職してしまうということもあります。また、本来は仕事そのものに面白みをもって夢中になっていたのに、いわゆるアンダーマイニング効果で、金銭がないと行動が鈍るようになってしまうこともあります。

単純に好きだからしていることがあるのに、急に「お金をあげるからもっとやって」と言われると、やる気が起きなくなることがありませんか。

倉重:確かに。どうしたらいいですか?

田口:これは個々人の動機の見極めも必要ですが、まず報酬体系を金銭に偏らせないことです。非金銭報酬もきちんと設計しないといけません。

倉重:設計とは、例えばどのようなことをするのですか。

田口:非金銭報酬の中でも「働くうえで価値を感じる報酬」というものを、本の中ではいくつか体系付けてご紹介しています。

倉重:快適なオフィス、成長の機会、仲のいい同僚、上司などですね。

田口:はい、環境の価値・仕事の価値・人の価値・組織の価値です。もっと給料を上げたくてスタートアップに来るという人もいますが、それほど多くありません。働きがいや自分が成長している実感を求めて来たのに、お金だけを提示されたら、やはり辞めていってしまいます。その人が何を求めているのかを見定めて提供する必要があるのです。

倉重:仲間との一体感やチーム感、それも非金銭報酬の1つですよね。

田口:そうですね。実際このような仕事や人の価値、組織の価値などは、スタートアップにごろごろと転がっています。けれども、それを認知するかどうかは別です。

 いろいろな経験をしているので、成長していないはずはありません。でも日々忙しいので、自分がどれぐらい成長したかを振り返る暇がないのです。だから、1on1でどれぐらい成長したかということをフィードバックすることが大切になります。

倉重:あとはスタートアップならではの金銭報酬がありますね。

田口:ストック・オプションですね。

倉重:この設計で気を付けるべきポイントはありますか。

田口:「上場したらストックオプションで儲けられるから!」と上場前に薄給待遇にしてしまうと、上場後にストック・オプションの権利を行使して一度に大勢が辞めてしまうということがあります。

よって、中期のトータルの報酬設計であまりストックオプションの比率をあげすぎないということも大事です。その他のインセンティブも同じで、業界や職種の慣習はあるにしても、あまりそれに偏り過ぎると破綻します。よって、 あくまでも月々の金銭報酬は事業に基づいて市場に劣らないようしっかり設計する必要があります。そもそも、ストックオプションの利得を経験したことがある人も少なく、あまりイメージされず、私はその効果は限定的だと考えています。テクニカルな手法では、ベスティング条項といって、一度にストックオプションの権利を行使できないようにする方法もあります。

■わかりやすいノウハウに飛びつくのは危険

倉重:いろいろとお聞きしましたが、改めてスタートアップ企業にお伝えしたいことはありますか?

田口:人事戦略は変数だらけで鉄板はないということです。新しいことを行うスタートアップ企業には、他社と共通するものはありません。だから「これさえやれば絶対大丈夫」というようなものに、安易に飛び付かないでほしいという思いがあります。

倉重:課題は現場にあるということですよね。

田口:はい、スタートアップには底流に流れる共通項、圧倒的な成長性と、誰もしたことがないことをしているという革新性の2つがありますが、この2つとタレントマネジメントのモデルを掛け合わせるとどういうことが起きるのか、唯一解は存在しえません。正解はどこにもなく、自社の事業の現場に当てはめて考えねばなりません。本書はそうした意味でも、安易なHowに寄らず、原理原則の提供を意識しました。

倉重:自分で考えるための枠組みを提供するということですね。スタートアップの中で人事担当者になった人に対してメッセージはありますか?

田口:人事担当者になったばかりの人に着手してほしいこととしては、「するべきこと」と「したほうがいいこと」の区分けです。

倉重:「やったほうがいいこと」は無数にありますよね。

田口:はい、事業戦略を鑑みて、今、人事として集中してするべきことを見定め、勇気を持って「それ以外は今はやらない」と決めることです。場合によっては、経営者・管理者に「ノー」を提言し説明する必要もあるでしょう。経営者や管理者は、仕事の一つとして「できればやったほうがいいこと」に言及します。実際にできればそれに越したことはないですが、全てに手を付けると、ただでさえ少ないリソースですから、事業戦略上もっとも大切なことへの取り組みが不十分になってしまいがちです。

倉重:組織の優先順位をきちんとつけていくということですね。人事を重視するスタートアップが増えてくると、成功確率も上がるのではないでしょうか。

田口:そうですね。スタートアップ企業に限らず、全企業で事業の成功確度を高められるのではと考えています。

「するべきこと」の観点でいえば、今回は戦略の話だったので触れませんでしたが、勤怠管理は社員が1人のうちから必ずしろと話しています。

倉重:労使紛争や労災案件を起こしてしまったら、かなり事業の足が引っ張られてしまいますからね。私からは最後になりますが、田口さんの夢をお伺いしたいと思います。

田口:実現するかどうか分かりませんけれども、人事の仕事をする、もしくは起業をする時に、資格や検定というほど大げさなものではないですが、何か講習や人事の基準のようなものがあるといいのではないかと思っています。

 例えば、「これから会社をつくります」という人であれば、最低限の労働法はきちんと身に付けていてほしいし、人事であっても「人的資源管理とはこういうことだよ」ということは、勉強したほうがいいと思います。

倉重:今ちょうど、私が理事をやっているJSHRM(日本人材マネジメント協会) でHRナレッジ体系というものをつくって、講座で検定などをしようと思っています。ぜひ田口さんにも関わっていただきたいです。

田口:本当ですか。ぜひやってみたいです。

■リスナーからの質問

倉重:ここからは観覧の皆さまから質問を募集したいと思います。いかがでしょうか。

A:お話をありがとうございました。1個、とても気になったのが、非金銭報酬もしっかりと用意するというところです。

人によって非金銭報酬で重要視するところが違ってくるため、組織としてどこに注力するかを決定するのは難しいのではないですか?

田口:組織としては簡単ではありませんね。HRMPolicyがあればそれにも寄ります。

A:そのような場合、どのような形で従業員に提供するのが良いのでしょうか。

田口:「入社の時に何を求めてくるのかを必ず確認してください」と言っています。候補者の方が求めるキャリアを提供できそうもない場合、大事なところで辞められてしまったりするので、お断りすることもあります。働くうえで何に価値を感じるのかは、働いている途中で変化していくので、何に渇望しているのか、何を報酬と感じているのかを捉えていき、実感してもらえるよう個々人にフィットしていきます。

倉重:ありがとうございます。個々人に対して、重要視しているところをより強調するようなコミュニケーションを取っていくということですね。次のご質問はいかがでしょうか。

B:ありがとうございました。僕もスタートアップ企業の人事制度をお手伝いしています。だんだんと企業が有名になり、大きくなってくると、後から入ってきた人の能力のほうが高いという問題が起きてくるのではないかと思っています。これは、ベンチャーに関わる人たちに毎回、必ずいつも聞くことです。

 「よし、みんなで一緒にやろうぜ」という志は高いけれども、大企業出身の本当に優秀な人を採れるようになった時、元からいた人との処遇やポジションのバランスをとることに苦慮されている所が多いと思います。田口さんの経験から、どう解消したらいいと思われますか。

田口:これは等級に紐づく賃金の問題と心理的な問題の2つがあると思います。心理的な問題に対しては、初めから「後から入ってくる人のほうが例外なくあなたたちより優秀だよ」ということを言い続けます。なぜかというと、後から来る人たちは、今組織にできないことをしてもらうための組織能力保有者として採用するので、例外なく相対的には優秀なのです。それを言い続けていると、「今、俺たちができなくて困っていることをやってくれる人がきた」「俺たちを助けに来てくれて、ありがとう」という認識に変わります。これが心理的なハードルの解決策です。

 等級は前職の給与に合わせて設定してしまっていると、実態とそぐわないことが多々あります。あくまでも今の役割や職務に応じた等級にして、その等級の賃金レンジからはみ出るところは、年度を区切った調整給などにします。

B:ありがとうございます。もう一点だけ、お願いします。僕はいわゆる文鎮型、フラット型の組織から、ツリー状、ピラミッド型の組織に変わる頃に人事制度というものが必要になってくる感じがしています。どれぐらいの規模から、だんだんとツリー状の組織になっていったほうがいいのでしょうか。

田口:やはり20人から30人ぐらいの規模であれば、必要になるのではないかと思います。

 文鎮型でトップがすべて決定するのであれば、結果的に、評価・査定においてマネージャー等の属人性が出ないわけです。しかし、文鎮のトップである社長も全部の経験があるわけではないから、意思決定も毎回苦しみますよね。文鎮からツリー状になると、今度は逆に社長が見れなくなり、マネージャー等複数人が関与することになります。そうすると、何かに基づいて評価をしていくことが必要になります。「人事国家から法治国家へ」ということをよく言っています。

 また、どれくらいの規模からか?は社長の能力や社員への興味関心の強さによっても変わってきます。必ずとは言えないですが、20人から30人ぐらいになると分業組織になり、マネジャーが必要になってくると思います。

B:ありがとうございます。創業社長であれば、200人でも300人でも把握できるという人がいますが、気持ちとしては把握しているつもりでも、本当の詳細は把握できていないですよね。

田口:ダンバー指数というものがあって、150人ぐらいまでしか把握できないというのは本当だと思います。150人以上になると、社長も一社員の顔と名前が一致しません。

倉重:ありがとうございます。それでは、最後にCさん。

C:中小企業の人材に関する本は、実は中小企業研究の中にもあまりありません。田口さんのこの本の素晴らしいところは、中小企業における人のリアルを書いているところです。スタートアップだからこそ発揮しなければいけない人事機能は、採用をスムーズにすること、事業戦略とそれをかちっと合わせることなどです。中小企業には人が来ない、お金も時間もない、社長が突っ走り過ぎてミドルがなかなか付いてこれないという課題を織り込みながら、しなければいけないことがきちんと書いてあるという点は、とても素晴らしいと思いました。

田口:ありがとうございます。在籍していた人材サービス企業も言ってみれば当時のスタートアップ企業です。その後、別のスタートアップ企業の役員もしましたし、エンジェル投資して株主にもなっています。社員・役員・株主、そして顧問・コンサルタントといった外部支援者と、多角的な立場で見てきたので、リアルなところは結構つかんでいると思います。

 この本で言いたかったことは、「先のことが分かると安心する」ということです。何かを二回目にやるとき気持ちが楽なのは、その道を通っていて次に何が起こるか分かっているからです。それに備えて準備ができます。

倉重:この本はスタートアップの人事の羅針盤になるということですね。本当に素晴らしいと思います。今日はありがとうございました。

(おわり)

対談協力:田口 光(たぐち ひかる)

合同会社YUGAKUDO 代表

情報経営イノベーション専門職大学(通称iU) 客員教授(人的資源管理・組織行動論担当)中小機構BusiNest メンター

早稲田大学大学院商学研究科(MBA)修了。大手人材サービス企業で 新規事業開発・事業戦略・人事総務等の部門長を歴任。IPO 準備・M&A などのプロジェクトにも参画する。

その後、外資企業の人材開発部門長を経て起業。多くのスタートアップ企業で 顧問・役員を務める。

所属団体:経営行動科学学会、人材育成学会、日本労務学会、日本人材マネジメント協会(jshrm)

著書:スタートアップ企業の人事戦略(労務行政)

労働条件不利益変更の判断と実務(共著:新日本法規)

組織文化診断と組織開発(共著:産業能率大学出版)

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

倉重公太朗の最近の記事