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相模原施設襲撃事件から考える大量殺人の心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
現場に集まる警察関係者と中継車(写真:ロイター/アフロ)

大量殺人の多くは、孤独と絶望感に押しつぶされた人による犯行である。

■相模原の障害者施設「津久井やまゆり園」に刃物を持った男が侵入。19人死亡、戦後最大の大量殺人か

26日午前2時半すぎ、「津久井やまゆり園」から「刃物を持った男が施設に侵入した」と110番通報がありました。その後、午前3時ごろ、男が「私がやった」と出頭しています。19人が死亡、26人が負傷と報道されてます(相模原の障害者施設、刺され19人死亡 「元職員」と話す26歳の男逮捕:産経)。

身柄を確保された男(26)は、近所に住むこの施設の元職員で、「障害者なんていなくなればいい」という趣旨の供述をしていると報道されています(身柄確保の男「障害者なんていなくなればいい」相模原:朝日)。

■施設の混乱と被害者

死亡したのは、18歳から70までのの19人です。施設利用者か職員かは現段階では不明で、まだ氏名も発表されていません(死亡者19人は18~70歳 相模原障害者施設殺傷:神奈川新聞)。

被害者4名が運ばれた病院スタッフは、「全員共通して首に刺し傷がある。首を狙った、という強い意図を感じた」と述べています(相模原多数刺殺 被害者の搬送先病院「全員が首に刺し傷」 うめき声あげ、血まみれの患者ら:産経

津久井やまゆり園は、18歳以上の知的障害者を受け入れている定員160名の大きな施設です。約130名の常勤職員が、日常生活の介助を行っています。

就寝中の夜中に大きな事件事故が起これば誰もが慌てますが、知的障害児者の施設ではなおさらです。

施設によっては、たとえば夜中に突然起こすような本気の避難訓練が行われています。それぞれの入所者が、夜中に突然起こされるとどのようになるかを知った上で、避難の計画を考えるためです。

今回の事件で、施設内がどれほど大きな混乱に陥ったのかは、想像もできないほどです。

■大量殺人者の心理

多くの場合、金目当てなど自分の利益のためではありません。同じ複数殺人でも、連続殺人は、逮捕されないように巧妙に犯行を続けますが、一度に多くの人を殺す大量殺人は、逃げることを考えないことが普通です。

大量殺人者の多くは、逃亡計画を立てず、顔も隠さず、大勢の人の前で犯行に至ります。すべてを終わりにしたいと感じるような孤独と絶望感からの犯行だからです。

大量殺人者の多くは主観的には、自分の行為を正当化する「歪んだ正義感」を持っています。死をも恐れず、自分なりの正義を持った人の犯罪は、しばしば極端に大きく、残虐になりがちです。

欧米ではその場で射殺されることも多いですし、日本でもその場で現行犯逮捕されたり、犯行直後に自殺したり、自ら出頭することもあります。

■逮捕された容疑者男性

ヤフーニュース等に掲載された報道によれば、「「腰低く明るい好青年」=数年前退職、1人暮らし―相模原市の施設襲撃逮捕の容疑者」(時事通信7/26)、「相模原多数刺殺 植松容疑者、精神的に不安定だったとの声も…「子供好きの好青年」」(産経7/26)などと報道されています。

一方、「障害者なんていなくなってしまえ」という趣旨の供述をしているとも報道されています(相模原多数刺殺 「障害者いなくなってしまえ」 血の付いた刃物持ち出頭:産経新聞 7月26日)。

男性は、施設利用者への暴言などがあり、解雇されたとも報道さています。

一般に、自己否定の思いが強くなりすぎると、その思いが、他者への否定や破壊衝動へと変化してしまうと言われています。

■孤独と絶望?:犯罪防止のために

秋葉原通り魔事件の大量殺人加害者は、孤独な青年と報道されましたが、その後、一緒に酒を飲むような友人はいたと報道されています。誰とも会話しない孤独な青年ではなく、仲間がいたのにもかかわらず大量殺人に走ったことが問題です。

人は、時に「好青年」と思われるような人でも、心の底に孤独と絶望感を抱えています。

一般論ではありますが、明るく陽気にふるまうのは得意でも、どろどろしたネガティブな感情を出すことは、苦手な現代人がたくさんいます。

怒りや恨みの感情は、自分の心の中だけで反すうする(繰り返し思い返す)ようなことをすると、ますます深くなってしまいます。一方、周囲に受け止めてくれる人がいて、社会的に認められる形でネガティブ感情を出せれば、怒りや恨みが爆発することを防げます。

世界のあちこちで、大量殺人の事件報道が続いています。大きな事件報道は、犯罪予備軍を刺激し、次の事件を誘発する危険性があります。

それでも、これまでの例では、家族に迷惑がかかることを考え、逡巡した例もあります。殺意を抱いた人が、誰にも話しかけられず、実行へと進んだ例もありました。

死刑をも覚悟している大量殺人者を止める力となるのは、身近な人との人間関係であり、周囲とのコミュニケーション、社会との絆(ソーシャルボンド)しかないのかもしれません。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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