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財務省の神田財務官が円安対応として利上げを指摘した意味

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 神田真人財務官は16日夕、為替相場が激しく下落した場合には、国は「金利を上げることによって資本流出を止めるか、為替介入で過度の変動に対抗する」と述べた。財務省内で記者団に語った(16日付ブルームバーグ)。

 一般論として当然のことを言ったはずだが、それでもこの発言は注目せざるを得ない。管轄は違えど日銀が所管の「利上げ」に財務省財務官が言及したことは、いまの状況からみると異例のように思われる。

 日銀の現在の金融政策が教科書的な金融政策から逸脱していることは明らかである。物価高にあるにもかかわらず、いろいろと理由を付けて現状の緩和策を続けている。現在の日銀の金融政策が緩和方向しか向いていないのは、どう考えてもおかしい。

 欧米主体に他の国の中央銀行が物価高に対応して、金融引き締めに動いているなか、日銀は緩和方向からの正常化すら拒否しており、それが結果として円安を招いている。

 国際通貨基金(IMF)アジア太平洋局のサンジャヤ・パンス副局長は現状の金利差が維持される限り、円安圧力にさらされ続けるとも語っていた。

 なぜこれほどまでに日銀は意地を通しているのか。その背景に何があるのが。そのヒントとなる記事があった。

 3日の日本経済新聞の電子版に、植田日銀、2%へ揺るがぬ信念 確信なら「一気に動く」、というタイトルの記事があり、この記事のなかに気になる箇所があったのである。

 「植田氏は4月の就任直後にある洗礼を受けたとされる。関係者によると、首相官邸を訪れた植田氏に岸田文雄首相はこんな趣旨のけん制を繰り出した。当面は金融政策の転換と受け止められる動きは避けるように――」

 日銀の緩和を意地でも維持している背景に、官邸があったことがうかがえる。いまだ岸田政権はアベノミクスを引きずっているということであろう。それをアドバイスしている人物もいるとみられる。

 それに日銀の執行部の一部が同調している結果、この状況化で金融政策の軌道修正すらしないという政策を継続していると推測される。

 ただし、これには財務省は同調していないともみられ、それが財務省の神田真人財務官の今回の発言ともなったのではなかろうか。

 このタイミングでこの発言が出た意味は意外に大きいかもしれない。現在の日銀の金融政策に違和感を持つ人は当然多いはずであり、日銀の政策委員のなかにも少なからず存在しているはずである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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