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このドラフト候補を知っていますか? 3 小孫竜二(鷺宮製作所)

楊順行スポーツライター
黒獅子旗と呼ばれる都市対抗野球の初代優勝旗(撮影/筆者)

 7月19日、都市対抗第2日。155キロを投じる鷺宮製作所・小孫竜二を目当てに、多くのスカウトが東京ドームに駆けつけた。だが……スタメンに、小孫の名前がない。

 東京の2次予選では先発で2勝、救援で1勝と、チームの全勝ち星に貢献して第1代表に導いた。18回3分の2を投げて防御率1.45、なにより21の奪三振が出色だ。それが、無念のコロナ感染。チームが2回戦に進めば復帰も可能だったが、エースを欠いたチームは東京からの5代表のうち唯一、初戦で敗退した。

 今季の小孫は、とにかくずば抜けた投球を見せている。春先の東京スポニチ大会では先発して2試合11回を15三振、防御率0.82。ほかの主要大会でも、先発の一角として負けなしだ。

「いいでしょう?」都市対抗V監督が太鼓判

 こんなによかったっけ……と感じたのは、昨年10月末からの伊勢・松阪大会である。12月開催の都市対抗本大会出場チームがずらりと並び、いわば本番直前の小手調べだったこの大会。小孫は、NTT東日本に補強されて2試合に救援登板し、つごう打者19人を2安打という力投を見せる。ほぼストレートだけの力強い投球で優勝に貢献し、NTT東日本・飯塚智広監督(当時)も「いいでしょう? 都市対抗が楽しみ」とご満悦だった。小孫はいう。

「強豪を率いる飯塚監督の考え方、安田(武一)コーチのちょっとしたアドバイスを聞き、ベテラン投手の方の姿を見ているうちに、マウンドでしっかり打者を見る余裕を持てるようになったんです」

 そして都市対抗本番でも、155キロをマークするなど、救援した3試合6回3分の2を無失点。NTT東日本はベスト4まで進み、小孫は期待に応える活躍を見せている。それも「まっすぐとスライダーだけ」(小孫)というから驚きだ。

 さらなる飛躍のきっかけは今季、鷺宮製作所に大学の先輩でもある幡野一男投手コーチが就任したことだ。

「リリースポイントを安定させることをテーマに幡野さんと二人三脚で取り組み、コントロールがすごく安定しました。ここでリリースすればあそこに行く、という感覚が身についた」

 と小孫はいう。すると、ばらつきのあった体の使い方が洗練され、加えてフォーク、カーブを習得。それが、これまで以上の安定感につながっている。

「先発として、長いイニングを投げるために取り組んだ球種ですが、投球の幅が広がりました。まずカーブでカウントを稼ぎ……などと、三振のイメージから逆算した投球ができる。三振までのプロセスで打ち取れれば、球数も少なくなります」

 それもこれも、プロ入りを見すえてのこと。エースとして長くチームを支えた鷺宮製作所の岡崎淳二監督からも、「今年はドラフト上位で指名される選手になろう」と背中を押されてきたという。

「高校時代に(プロ)志望届を出し、大学でも出し、いずれも指名はありませんでした。社会人2年目の去年もなし。だから今年のドラフトが、4回目のチャレンジなんです」

 遊学館高で同期だった石森大誠(中日)、創価大で同期の杉山晃基(ヤクルト)、望月大希(日本ハム)と、身近にいたライバルがプロに進んでいる。心中、期するものがあったはずだ。小孫はいう。

「人は人、と思っています。自分はチャレンジャー。あきらめていません。社会人での経験は、本当に大きい。むしろ、大学からプロに入れていてもうまくいっていないかもしれません」

 4度目のチャレンジ、実るか。

■こまご・りゅうじ/1997年9月15日生まれ/石川県出身/179cm85kg/右投右打/遊学館高→創価大

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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