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オリンピックの競技連盟で権力を持ち始める、中国のスポーツ戦略

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
2022年冬季五輪競技大会の北京組織委員会の近くにある彫像。2021年撮影。(写真:ロイター/アフロ)

中国が意欲的なのは、一帯一路による政治経済の世界だけではない。スポーツ界も同じである。世界のサッカーにバスケットボール、そして最も大きいのは、何と言ってもオリンピックである。

2008年の夏季北京オリンピック、そして2022年2月には冬季北京オリンピックが開かれる予定で、史上初の一都市開催となる。

オリンピックの正式競技になっている大半の競技連盟は、スイスのローザンヌ、チューリッヒ、バーゼルなどに本部を置いている。これらの静かなホールでは、スポーツの地政学が大きな役割を果たしている。

中国は、ここで大きな権力をつかもうと努力しているとル・モンド紙は伝えている

狙うべき場所を知っている

それでは、現状はどうなっているのだろうか。

今の段階で、約40存在するオリンピックに参加する競技の連盟の中で、中国人が会長を務めているのは、セーリング(ヨット)連盟だけである。2020年11月から、中国人男性が任に就いている。

この数は、26人いるヨーロッパ人、3人いるロシア人に比べれば少ない。しかし、アメリカですら、今は国際テニス連盟(ITF)という1団体しかトップを務めていない。

「国際の競技連盟の会長になるには、副会長や、執行委員会のメンバーになっていなければならないことが多いのです。そこが最も大きな力を持つ場所であることが多いと言えるでしょう」と、ローザンヌ大学名誉教授のジャン=ルイ・シャプレ氏は語る。

自国の声を届け、利益を得るためには、これらの連盟の中に足を入れることが重要なのである。中国人はこの点をよく理解しており、現在では5人の副会長を擁している。

「幹部にしか興味のないアメリカ人よりも、はるかに慎重にネットワークを編んでいます」と、ある関係者はいう。

中国という国は、広大で多様な地域を束ねている。共通語である北京語を話さなければ、地域が異なるとお互い言葉すら通じないのだ。そのため、国際組織でどこを狙えば良いか、心得ているのかもしれない。

スポーツエリートの批判から国威高揚の手段へ

このような戦略は、比較的最近のものである。

1950年代までの中国では、スポーツには政治的な価値はないと思われていた。娯楽か軍事の目的でしか行われていなかった。冷戦の影響で、「オリンピックは単なるスポーツだけではない」という意識が芽生えたと、国際戦略関係研究所(IRIS)研究員であるキャロル・ゴメス氏は言う。

1966年から始まった文化大革命では、スポーツの政策や体制はほとんど否定され、批判の対象となった。公式的なスポーツイベントは言うまでもなく、競技選手のトレーニング活動も停止されただという。

70年代半ばに文化対革命は終わりを告げ、改革解放の時代がやって来ると、国のスポーツ政策のとして、初めて競技力の向上を優先的に配慮するようになった歴史をもっている

このようにして70年代から80年代にかけて、「スポーツエリートに対する民衆の支持」というドクトリンが実施された後は、「参加するだけではなく、国際大会で優秀な成績を収め、国全体が誇りに思えるようになること」が課題となったと、ゴメス研究員は語る。

中国の戦略の公式は「第一段階では中国が参加する。次に結果を出す、その次にはスポーツ大会を組織する、最後は国際的なスポーツ連盟に席を得ることだ」と、シャプレ名誉教授はまとめた。

巨大人口にすりよる新スポーツ

中国では、体操、卓球、射撃など、伝統的にメダルを獲得できる種目の連盟を中心に活動しているが、スケートボードやクライミングにも参入し始めている。

これらは、東京大会で初めて実施される新しいスポーツだ。国際オリンピック委員会は、新しい人たち、特に若者をひきつけ、競技人口を増やすことを期待しているのだ。

「中国は賭けに出ています。数々の連盟の未来に、自らを位置づけているのです」と、ゴメス研究員は説明する。例として、7人制ラグビーを挙げている。このスポーツは、2016年のブラジル・リオ五輪でメディアに取り上げられ、関心をもった人が多くなったのが原因だという。

シャプレ名誉教授は、「場所(places)が『安い』ことも原因です。何年にもわたって、ヨーロッパ人に占領されていないのです」という。

さらに、「中国はいつも、適応したスポーツ施設を建設するとほのめかしています。北京オリンピックの前に近代五種競技のために建設をしたように、です。新しい連盟に夢を見させてくれるのです」と名誉教授はいう。10億人以上の消費者がいる市場へのアクセスが、夢を見させてくれるのだという。同じような理由で、卓球界でも水泳界でも、異変が起きてきている。

(近代五種競技とは、一人でフェンシングランキングラウンド・水泳・フェンシングボーナスラウンド・馬術・レーザーランの5種目をこなし、順位を決める複合競技のこと)。

国際経済や国連と同じ

このように、スポーツ界でも中国は自国の利益を追求している。

スイス・ローザンヌにある国際オリンピック委員会の本部を訪れる人がよく指摘するように、「国際スポーツの世界は、現実の世界を反映したものでしかありません。国際貿易機関(WTO)や国連と同じように、地位や影響力をめぐる戦いが繰り広げられるのです」。

しかし、中国の少数民族ウイグル人への迫害は、問題を引き起こすかもしれない。このことを理由に、2022年冬季五輪をボイコットするという控えめな脅しが始まっているからだ。中国のソフトパワーによる「良き秩序づくり」は、妨害されることになるかもしれない。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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