「そだねー」商標登録出願が(北見工大生協のものも含めて)事実上拒絶
「特許庁、”そだねー”商標認めず=北海道の法人、独占回避へ出願」というニュースがありました。昨年の流行語大賞にもなった「そだねー」の商標登録出願に対して特許庁が昨年の11月に拒絶理由を通知していたという話です。いくつかあった便乗出願だけでなく、「そだねー」の発信源であったLS北見に縁のある北見工業大学生活協同組合による出願も含めてです。
ところで記事中にある「却下」とは、手続自体が受付けられなかったこと(料金未納、期限切れ等)を言いますので、今回のように審査の結果として登録が認められなかった場合には「拒絶」と呼ぶのが正しいです。さらに言えば昨年11月の時点では拒絶はまだ確定ではなかったので、暫定的に拒絶された(正確には拒絶理由が通知された)と言うべきです(応答期間はもう過ぎているので本記事タイトルでは「事実上拒絶」としました)。
特許と異なり商標の審査経過はウェブからでは見られません(今年の1月1日以降に出願されたものは特許情報プラットフォームから無料で閲覧可能になりましたが)ので、料金(600円)を払って北見工大生協の出願(商願2018-03345)の審査書類を取り寄せてみました。
当該拒絶理由からポイントを引用します(これに加えて同日出願の便乗出願とのバッティングも通知されています)。
商標法第3条第1項第6号とは「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」という一般的な規定で、審査官の裁量が入りやすいところです。流行語であることを理由として3条1項6号の拒絶理由が通知されるのは珍しい(少なくとも過去のケースとは一貫していない)ように思えます。
方言が流行語になって商標登録出願されてというと、今は懐かしい「じぇじぇじぇ」を思い出しますが、最先願であった久慈市のお菓子屋さん沢菊の出願(商願2013-39171)は無事登録されています。「NHKの業務との混同を招く」との拒絶理由(4条1項15号)が通知されていますが、相当に気合の入った意見書により(少なくとも菓子については)混同が生じ得ないことが認められ、無事登録となりました(ちなみに、この意見書は素晴らしいのでまた別の機会にご紹介したく思います)。
また、「本家」であるNHKエンタープライズの出願(商願2013-46638)は、2013年10月に前記の沢菊の先願を理由とする拒絶理由が通知された後、なぜかNHKが2015年6月に出願を取り下げています。補正で菓子を指定商品から削除すれば登録されていたはずですが、取り下げた理由は不明です。一般的な方言を独占することによる久慈市との関係悪化を嫌ったのかもしれません。
とにかく、いずれのケースでも識別性を欠くことを理由とした拒絶理由(3条1項6号)は通知されていません。
ちなみに、拒絶理由通知は最終通知ではないので(まさに上記の沢菊のケースのように)意見書や補正で対応すれば登録され得ますし、仮に拒絶となっても、不服審判や審決取消訴訟という手段もありますが、北見生協の目的は「そだねー」商標を独占することではなく、他の関係ない人に独占されることを防ぐことにあったので、特段のアクションはとらないようです。
ひょっとすると、北見工業大学生協は(関係はあるものの)LS北見の「本家」とはみなせないというのが、審査官の気持ちとしてあったのかもしれません。そうだとすると、LS北見の運営元(一般社団法人ロコ・ソラーレ)を出願人として、北見工業大学生協に商標権をライセンスする形にしておけば無事登録できていたのかもしれません(ちなみに、特許と違って商標は公開後に再出願しても登録され得ます)。