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高市氏には、虚偽公文書作成罪で告発する「覚悟」はあるのか?~加計学園問題と共通する構図

郷原信郎郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

3月3日、参院予算委員会で立憲民主党の小西洋之議員が、安倍政権下で放送法の政治的公平性をめぐる新解釈が加わる過程で、当時の礒崎陽輔首相補佐官が総務省側に働きかけた発言、当時の安倍晋三首相、高市早苗総務相のものとされる発言などが記録されている文書を、総務省内部文書として公表し、質疑を行った。当時の総務大臣の高市早苗氏(現経済安全保障担当大臣)は、3月3日の参院予算委員会でこの文書を

「信ぴょう性について大いに疑問を持っている」

「悪意を持って捏造されたものだ」

とし、小西参院議員から

「もし捏造でなければ議員辞職するのか」

と迫られると

「けっこうですよ」

と答えた。

放送法が規定する「政治的公平性」をめぐっては、政府は従来

一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体をみて判断する

と解釈してきたが、安倍政権下の2015年5月、高市氏が国会答弁で

「一つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」

と新たな解釈を示した。小西議員が公表した文書は、この放送法の解釈に関する総務省内のやり取りと安倍氏と高市氏の電話などを内容とするものだった。

松本剛明総務大臣は、7日午前、

「すべて総務省の行政文書であることが確認できた」

と明らかにした。

文書が捏造でなかった場合、議員辞職も辞さない考えを示していた高市氏は、会見で自身の進退について問われ、

「私に関係する4枚の文書は不正確だと確信を持っている。ありもしないことをあったかのように作るというのは捏造だ」

とした。

「閣僚辞任や議員辞職を迫るのであれば、文書が完全に正確なものであると相手様も立証されなければならない」

とも述べた。

このような総務省内部文書に対する高市氏の発言や対応が、森友学園問題が初めて国会で取り上げられた2017年2月17日の衆議院予算委員会で、当時の安倍晋三首相が

「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに、もちろん事務所も含めて、一切かかわっていないということは明確にさせていただきたい」

「私や妻が関係していたということになれば、総理大臣も国会議員も辞める」

などと述べ、それが発端となって、当時の財務省理財局長の国会での虚偽答弁や決裁文書改ざんなどに発展していったことと対比して論じられている。

しかし、むしろ、放送法についての総務省文書や高市氏の発言の問題は、森友学園問題と同時期に表面化した加計学園問題とも併せて対比した方が、構図を正しくとらえることができるように思う。

2017年5月17日、朝日新聞が「これは総理のご意向」等と記された加計学園の獣医学部新設計画に関する文部科学省の文書の存在を報道した。菅義偉内閣官房長官は、この報道について、

「全く、怪文書みたいな文書じゃないか。出どころも明確になっていない」

と述べた。

5月25日、前任の文科省事務次官だった前川喜平氏が、記者会見を開き、文科省内に「総理のご意向」文書が存在したことを認め、

「行政が捻じ曲げられた」

と明言したことで、この問題をめぐる構図が大きく変わった。

その直近まで文科省事務次官という中央省庁の事務方のトップの地位にあった人間の発言や、その省内で作成された文書によって、「不当な優遇」を疑う具体的な根拠が示された。それによって、国会の内外で安倍首相や安倍内閣が厳しい追及を受ける事態に発展することになった。

その後も、文科省内部者からの匿名の告発・証言が相次ぐ中、菅義偉官房長官は、6月8日の記者会見で、

「出所や、入手経路が明らかにされない文書については、その存否や内容などの確認の調査を行う必要ないと判断した」

との答えを繰り返していたが、翌9日午前、松野博一文科大臣が記者会見を開き、「文書の存在は確認できなかった」としていた文科省の調査について、再調査を行う方針を明らかにした。

その再調査の結果、同省内部者からの存在が指摘されていた19文書のうち14文書の存在が確認された。

文書が確認できなかったとした当初調査の後、複数の同省職員から、同省幹部数人に対して「文書は省内のパソコンにある」といった報告があったのに、こうした証言は公表されず、事実上放置されていた。「文書の存在が確認できなかった」とした当初の調査も、実質的に「隠ぺい」であった疑いが濃厚になった。

こうした中で、前文科次官の前川喜平氏が、記者会見でそれが正式な文書だと公言する動きを見せるや、読売新聞が、前川氏の「出会い系バー通い」に関して、官邸筋からの情報に基づくと思える記事で「売春、援助交際への関わり」を印象づけるような真実性に重大な問題のある記事を掲載したり(【読売新聞は死んだに等しい】)、義家弘介文部科学副大臣が、参院農林水産委員会で、「国家公務員法違反(守秘義務違反)での処分」を示唆したりするなど(【菅「怪文書」発言、義家「守秘義務」発言こそ、国民にとって“残念”】)、文科省側からの告発封じのために、あらゆる手段が講じられた。

森友学園問題では、安倍氏と昭恵氏が、同学園の認可あるいは国有地払い下げに関わったのかどうかという「安倍氏自身の側の問題」についての安倍氏自身の国会答弁が発端となって、財務省側が様々な問題行為を行い、決裁文書改ざんを命じられた赤木俊夫氏の自殺という痛ましい出来事に至ったのであるが、加計学園問題では、「総理のご意向」文書について、その意向の当事者である安倍首相の総理官邸側が、朝日新聞が報じた「文科省文書」を「怪文書」扱いして、「行政文書」であること自体を否定し、その否定が続けられなくなるや、ありとあらゆる方法で、文科省文書の信憑性を否定しようとした。

加計学園問題で問題になったのが文科省の文書に記載された「総理のご意向」だった。国家戦略特区に関する権限を有する総理大臣と、加計学園理事長が「腹心の友」であることで、文科省が所管する獣医学部新設の認可が捻じ曲げられた疑いが問題とされた。

今回の放送法に関する総務省の文書でも、当時の安倍首相の意向で、総務省が所管する放送法の解釈が捻じ曲げられた疑いが指摘されている。しかし、両者の展開は大きく異なる。

加計学園問題では、首相官邸側が、当初、新聞で公開された文科省文書を「怪文書」と切り捨て、その意向を受けた文科省の大臣・副大臣が、内部文書の信憑性を否定しようとする方向に動き、それに反発する文科省からの内部告発の動きも封じ込めようとした。

それに対して、高市氏は、安倍氏自身が、首相として放送法への不当な介入に関わったという批判につながりかねない総務省の文書の信憑性を必死に否定しようとし、小西議員が公表した文書を、当初は、「捏造」と決めつけたが、松本総務大臣以下総務省側が、小西議員が公表した文書についてただちに調査を行い、当該文書が「行政文書」であることを明確に認めたことで、総務省の「行政文書」であることが否定できなくなった。そこで、高市氏は、「捏造」を「不正確な文書を作り上げた」という意味にすり替えて、「捏造ではなかった場合には大臣も議員も辞職」と明言したことによる辞任を免れようとしている。

しかし、安倍氏亡き後、「最大の政治的な後ろ盾」を失った高市氏にとっては、一人で、放送法の解釈変更についての「安倍氏の意向」が示されたことを否定しようとしても、加計学園問題について、官邸・政府を挙げて文科省文書の信憑性と「総理のご意向」の事実を否定しようとした状況とは全く異なる。

高市氏は、大臣会見でにこやかな表情で余裕があるように装っているが、内実は、土壇場に追い込まれていることは否定できない。

正式な行政文書と認められた「公文書」について、「意図的に不正確な記載が行われた」というのであれば、その文書は「虚偽公文書」に該当することになる。高市氏が、その主張を通すのであれば、不正確だと確信を持っているとする「4枚の文書」の作成者を「虚偽公文書作成罪」で告発するのが当然、ということになる。

高市氏が検察に告発を行えば、検察が捜査に乗り出し、文書の作成者を特定して、その内容の正確性について捜査することになる。文書作成者は、安倍氏と高市氏との電話の内容について何らかの情報があったからその文書に記載したはずだ。意図的に虚偽の記載をしたと疑われる状況がなければ、「意図的に虚偽の記載をしたこと」は否定され、不起訴処分ということになる。(捜査の結果判明した文書作成の時期によっては、公訴時効完成による不起訴となる可能性もある。)

同様に虚偽公文書作成罪で告発され、検察の捜査の対象とされた森友学園への国有地売却についての決裁文書については、多くの記載が削除されていても「決裁文書の内容に実質的な変更はない」との理由で不起訴となった。しかし、高市氏は、「不正確な記載」を意図的に行ったことを「捏造」として問題にしているのであり、虚偽公文書作成罪の成否と、高市氏が問題にしている「不正確な記載」のレベルは、実質的に一致することになる。

高市氏は、総務省文書についての現在の主張を貫くのであれば、虚偽公文書作成罪で告発すべきだが、もし、検察の捜査の結果、不起訴となった場合には、逆に、高市氏の側に虚偽告訴罪の問題が生じることになる。

「虚偽公文書作成罪による告発」を行うのか、高市氏には、その「覚悟」が問われている。

郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

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