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「オスカー助演女優賞を取るとキャリアは低迷、離婚につながる」説は、本当か?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
2004年オスカー助演女優賞に輝いたレネ・ゼルウェガー。近年はキャリアが低迷(写真:ロイター/アフロ)

オスカー受賞者の肩書きをもらえば、主演をオファーする電話が鳴り止まず、ギャラもアップする。と思っていたら、そうとは限らないようだ。受賞したはいいが、その後、良い作品にめぐり会えず、スクリーンからすっかり姿を消してしまうような人も、実はかなり多い。それはとくに助演女優部門の受賞者に見受けられることから、“オスカー助演女優賞の呪い”という通説が、長年、密かに語られてきている。

その代表例は、マリサ・トメイ。「いとこのヴィニー」で1993年の助演女優賞を取ってから、「レスラー」(2008年)で再び候補入りするまで、ぱっとしない映画に小さな役に出ることが続き、ほとんど忘れられているような状態だった。その状況は、近年もあまり変わりなく、今年のオスカー作品部門の最有力候補のひとつ「マネー・ショート 華麗なる大逆転」にも、スティーブ・カレルの妻役で出てはいるものの、出番は非常に短く、見せ場もない。

ウディ・アレンの「誘惑のアフロディーナ」で96年の助演女優賞を取ったミラ・ソルヴィーノも、その後どんな映画に出たかと聞かれたら、なかなか答えられないだろう。レネ・ゼルウェガーも、「コールド マウンテン」で助演女優賞に輝いた2004年はまさにキャリアのピークで、「シンデレラマン」(2005年、)「かけひきは、恋のはじまり」(2008年)まではよかったが、以後は、ほとんど消えてしまっている。今年公開予定の「ブリジット・ジョーンズ3」で、キャリア復活を計ろうとしているようだが、果たしてどう出るか。

映画デビュー作「ドリームガールズ」で2007年の助演女優賞に輝き、翌年にはデビューアルバムもリリースして、時の人となったジェニファー・ハドソンも、2008年の「セックス&ザ・シティ」に出演して以来、めぼしい映画に出ていない。「プレシャス」で2010年のオスカーを取ったモニークも同様。2003年、「シカゴ」で受賞したキャサリン・ゼタ=ジョーンズも、ここ7、8年に出たメジャーな映画といえば、興行面でも批評面でも乏しかった「ロック・オブ・エイジズ」や「REDリターンズ」くらいだ。キム・ベイジンガーも、98年の受賞につながった「L.A.コンフィデンシャル」以後のヒット作といえば、2002年の「8Mile」くらいである。

さらに、女優のオスカー受賞は、離婚、あるいは恋人との破局につながるという、もうひとつの通説がある。2011年にトロント大学が発表した研究結果によると、オスカーを受賞した女優は、受賞しなかった女優よりも、離婚率が63%高いのだそうだ。実際、サンドラ・ブロック、ケイト・ウィンスレット、ハル・ベリー、エマ・トンプソン、ジョーン・クロフォード、イングリッド・バーグマン、ヴィヴィアン・リーなどが、受賞後に離婚している。

もちろん、オスカー助演女優賞を受賞した後も、華やかなキャリアを築いていった女優はいる。2005年に「アビエイター」で助演女優賞を受賞したケイト・ブランシェットは、その後も頻繁にオスカーにノミネートされ、2014年には「ブルージャスミン」で主演女優賞を受賞した。今年もまた、「キャロル」で主演女優部門にノミネートされている。97年に結婚した劇作家アンドリュー・アプトンとの結婚生活も安泰だ。「それでも恋するバルセロナ」で2009年の助演女優賞に輝いたペネロペ・クルスは、同作品で共演した旧友のハビエル・バルデムと2010年に結婚。「NINE」「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」など、話題作にも出演している。アン・ハサウェイも、昨年「マイ・インターン」をヒットさせているし、アンジェリーナ・ジョリーが、「17歳のカルテ」での助演女優賞受賞以後、最も影響力をもつスターになっていったのは、誰も知る事実である。

今年の助演女優部門の最有力候補であるアリシア・ヴィキャンデルも、次回作は「ボーン」シリーズのヒロインで、その後にはヴィム・ヴェンダース監督の恋愛映画が決まっており、この“呪い”を心配してはいないだろう。だが、ヴィキャンデルは、まだ27歳。ハサウェイが受賞したのは30歳、ジョリーが受賞したのは25歳の時だった。若い白人女性である彼女たちのための役は、いろいろとあったのである。一方で、ベイジンガーが受賞したのは44歳、モニークの受賞は、42歳の時。ハドソンは25歳だったが、彼女は黒人だ。

40歳を過ぎた女優には役がないと、ハリウッドでは、昔から言われてきた。マイノリティの役が少ないことは、2年連続で演技部門が全員白人だったことから起こった“白すぎるオスカー”バッシングで、あらためて脚光を浴びたばかりである。第一線にいたゼタ=ジョーンズやゼルウェガーが、いつのまにかスクリーンから姿を消してしまったのも、“助演女優賞の呪い”というよりは、性差別が根強いハリウッドで、歳を重ねていくうちに、次第に彼女たちに来る役がなくなっていったと考えられる。

もちろん、トメイとソルヴィーノは白人で、受賞した時は若かったので、彼女らの場合は、それを理由にはできない。しかし、もともとハリウッドに数少ない女性のための役を手に入れるのは、たとえオスカー受賞者にとっても難しいということなのだ。つい最近最近発表された南カリフォルニア大学の研究でも、メジャースタジオが製作した414本の映画の中には、女性のための役が29%、マイノリティの役は28%しかなかったことが明らかになっている。彼女らを苦しめているのは、助演女優賞の呪いではなく、ハリウッドにおける白人男性優位主義の呪いなのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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